最強コンビ……いえ、トリオの誕生です!

丸太の防壁と衛兵が吹き飛んだ。

粉塵の中に浮かぶ、真っ赤な輝きが二つ浮かび上がる。次いで聞こえてくるがちゃがちゃと鎧の金音。


「グオオォォォ!」


 俺たちの目の前に現れたのは”真っ白”なイフリートと、そして相変わらず耐火鎧を装備した兵団だった。


「まさかゼクスを投入するとは……」


 ユウのただならない雰囲気に、俺は思わず息を飲んだ。


「ゼクス?」

「八体存在するイフリートの六番目、最強を誇るイフリートのことです。奴等、本気でここを潰すつもりらしいです」


 気が付くと俺たちはあっという間に取り囲まれていた。

敵兵の向こうから、仲間の兵士の声が聞こえるも、阻まれているらしい。

そんな中、杏奈は笑みを浮かべて、横目で硬い表情をしているニムを見た。


「ニム、ビビってる?」

「べ、別にビビッてなんか! ただの武者震いよ! そういう焔 杏奈も膝、ガクガクしてない?」


 確かに杏奈の足はぶるぶる震えていた。


「むっ……なら、これも勝負!」

「良いよ! どっちが沢山倒せるかだね!」

「おいおい、二人とも!?」


 俺が突っこむのとほぼ同時に、杏奈とニムが敵へ向けて飛び出した。

俺達を取り囲む敵兵もそれぞれの武器を手に襲い掛かる。


(ああもう、あの子たちは! 近くで戦わないと!)


「ファイヤショット!」


 俺のバフスキル”火属性強化”の影響で強力な火の玉を放った杏奈は敵兵を怯ませ、


「てやぁー!」

「ぐわっ!!」


 ニムが逆手に構えた刃を真っ赤に発光させたダガーで切り上げ倒す。

そんな杏奈とニムの露払いをするかのように、ユウのロングソードが赤い軌跡を描く。


「ほう、これが姫様の仰っていた精霊様の加護という奴か……これは良い!」


どうやらユウの火属性の攻撃もバフスキルの影響で強化されている様子だった。


「GAA!」


 俺も負けじと【ヒートクロー】で敵の武具を溶断し、倒してゆく。


(このまま押し切れば!)


 その時、熱感知スキルが、急接近する熱源を捉える。

脇から太陽の真っ赤に燃える火球が、俺を目指して突き進んでいた。


「ぐっ!?」


 なんとか腕を大きく開いて、身体よりも遥かに大きな火球を受け止める。


「GAAA!!」

「トカゲ!?」

「精霊様!?」


 思わず上げた俺に悲鳴に杏奈とニムが声を上げる。


 これまでどんな熱を受けても、平気だった。

しかし今受け止めている火球は、胸筋を焼き、硬い俺の爪を徐々に溶かしてゆく。

 久方ぶりに感じる痛みと、身体を焼いて行く熱の力。


「こんなもの……俺は、炎の精霊サラマンダーだぁぁぁっーー!」


 気合の叫びと共に、抱えた火球を強く抱きすくめる。

瞬間、風船のように腕の中で火球が破裂した。

しかしすっかり熱でやられた俺は、その場に膝を突く。


 すぐに口を開いて、周囲をハラハラと舞う火の粉を食べて、身体の修復を始める。

 

「グオォォォッ!」

「なっ!?」


 そんな満身創痍な俺の前へ遥かに巨大な白いイフリート、ゼクスが舞い降りる。

その巨体が発した衝撃波は俺を紙切れのように吹き飛ばす。


「くそっ、なめんなぁ!」


 慌てて地面を蹴り、行く手を塞ぐゼクスへ向けてヒートクローを振り落とした。

だが真っ赤に発光した長い爪は、ゼクスの掲げた前足の爪によって防がれる。


(す、凄い力だ……!)


 押し切ろうにも足が地面にめり込むばかり。

逆にゼクスはまるで巨大な岩のように微動だにしない。


「グオォォォォォォ――ッ!!」


 その時、イフリートゼクスは耳を劈くほどの激しい咆哮を上げた。

音で有る筈の咆哮に僅かな赤い色彩があるように見え、それは波紋のように広がってゆく。

すると敵兵の耐火鎧が、剣が僅かに赤い輝きを帯びる。


「ファイヤショット! ……あ、あれ?」


 強化されている筈の杏奈の火球を浴びても、敵兵は平然としていて、


「わわっ!?」


 ニムのダガーが、僅かに赤く発光する敵兵の剣に弾かれ、ガラッと胴を晒す。


「姫様あぁぁぁっ!」


 しかし飛び込んだユウが剣を横へ凪ぎ、敵兵を切り伏せる。

敵兵は軽く吹き飛ぶが、すぐに起き上がる。

やはり鎧には傷一つ浮かんでいない。


(やっぱりこれ、俺と同じ火属性強化のバフスキル!?)


 腕力もあり、火炎の威力も、トカゲ形態の俺並みにある。

加えてかなり広範囲な火属性強化のバフスキル。


 確かにこの力を持っていればゼクスが”最強のイフリート”と呼ばれるのは納得できる。


(だったら先にゼクスを倒せば!)


 そう思った瞬間、目の前から白いイフリートゼクスの姿が消えて、身体が前のめりに倒れ込む。


「グオォォォ!」


 気が付くと俺はイフリートの剛腕を喰らって宙を舞っていた。

そのまま地面に叩き付けられる。

さすがの筋骨隆々なリザードマンの身体であっても、地面に叩きつけられた衝撃は一時的に体を痺れさせる。


「く、くそっ……やっぱりトカゲじゃなきゃだめか……!」

「あっ!?」

「姫様ぁ!」


 突然ニムの悲鳴が響き、ユウが敵兵を蹴飛ばして飛び出す。

ニムに狙いを定めたイフリートゼクスが鋭い白刃の爪を掲げ、今まさに振り落とさんとしている。

その時、ニムの前に真っ赤な”炎の壁”が沸いて、ゼクスの爪を寸前のところで受け止めた。

 

「二、ニム、大丈夫!?」


 杏奈は杖を掲げ、踏ん張りながら炎の壁でゼクスを受け止めている。


「あ、うん。あ、ありがとう」

「全く、情けない」


 杏奈は冷や汗を浮かべ必死に炎の壁でを張りながら、それでもニムをからかう。

 ニムはムスッと、頬を膨らませた」。


「むっ……べ、別に助けてなんていってないんだからぁ!」

「でも、助けたのは事実」

「だからぁ!」

「グオォォォ!」


 まるで”無視するな”と云わんばかりにイフリートゼクスが咆哮を上げる。


(あの二人、こんな時に喧嘩を!?)


「ニムはもっとわたしに感謝すべき」

「だからしたでしょ!? 逆に今度は私が助けたらちゃんと感謝してよね!」

「そんなのありえない。またわたしが助ける」

「そんなことないんだからぁ!」

「グオォォォーー!」

「「うるさい! あっちいけぇー!」」


 眉間に皺を寄せて、眉を吊り上げた杏奈とニムの叫びがこだまする。

すると、二人からカッと、赤い輝きが迸った。


「グオッ―!?」


 ゼクスの巨体が思い切り吹き飛んで、後ろにいた敵兵をボーリングピンのように盛大になぎ倒した。


「あ、あれ? なにこれ……?」

「これぞ火属性の力ですよ、精霊様」


 何が起こったのか分からず、目をぱちくりさせている俺へ、突然脇に現れたユウが呟く。


「火属性の力?」

「はい。火属性とは”激しい感情”が力の源。感情が高ぶればその威力を増します」

「ってことは、もしかして杏奈とニムが喧嘩したから?」

「それもありますが、ほら」


ユウが指し示す先で杏奈は真っ赤に発光した杖を振る。


「ファイヤショット!」

「ぐわっ!?」

「な、なんだ!? 急に威力が!」


 まるでバフスキルの影響下にあるような火球が発生して、敵兵はたじろぎ


「焔 杏奈なんかに負けるかぁー! ファイヤダート!」

「あ、あちち!」

「こ、こっちも威力が上がっただと!? 気を付けろ! 火傷だけでは済まないぞ!」


 ニムの放った火矢の魔法が敵を驚愕させた。

更に懐へ潜り込み、ハイキックを浴びせて倒す。


「ふふん!」


 ニムはドヤ顔で杏奈を横目に見て、


「むっ! ニムには負けない! ファイヤショット! ファイヤショットぉー!」


 負けず嫌いの杏奈はひたすら火球をばら撒いて敵兵を混乱させる。

そしてまたニムが炎の中へ飛び込んで、ダガーで敵を切り倒す。

 すっかり俺とユウは存在感を無くし、敵は杏奈とニムによって次々と倒されていった。


(喧嘩するほど仲が良いってことか。なんてご都合主義な……)


 だけどご都合展開大歓迎!

だって、勝利の道筋が見えてきたのだから!


 すっかり傍観者になっていた視界で、伸びていた白い最強のイフリート:ゼクスがのっそりき上がる。

 俺は思い切りジャンプして、ゼクスが起き上がったことに気が付いた杏奈とニムの後ろへ降り立つ。

そして彼女達を再び”火属性強化”の影響下に置いた。


「さぁ、杏奈、ニム! 白いワンコちゃんがお目覚めだ。仕上げと行こうじゃないか!」


 二人の肩を叩いてそういうと、


「うん!」

「わかりました!」

「グオォォォッ!」


 ゼクスはこれが最後と云わんばかりに地面を蹴って、突進を仕掛けて来る。


「GAAAAA!!」


 俺の咆哮が響き渡り、杏奈の杖とニムのダガーが太陽のような燦然とした輝きを放つ。

そして杏奈とニムは突進するイフリートゼクスを見てにやりと笑みを浮かべて、それぞれの武器を重ね合った。


「「ファイヤーストォームッ!!」」


俺と杏奈とニムの間から激しい炎が渦を巻いて飛び出した。

炎の竜巻はまるで大蛇のように大きくうねりながら白色のイフリートへ飛んで行く。

イフリートは咄嗟に前足の爪を立てて急制動を駆けるが、もはや手遅れ。



「ガアァァァァ――――ッ……!」


 火炎の渦に飲み込まれたイフリートは灰へと変わってゆく。

巨大な白色の魔獣は塵となって消えるのだった。


「「「いえぇーい! やったー!」」」」


 誰が合図したでもなく、俺達は声を揃えてパチンとハイタッチ。


(杏奈とニムの最強コンビ? いや、俺を加えて最強トリオだ!)


「姫様、良いですよ! 良い! 超可愛いですっ!」


 ユウは何故か水晶を手にして、戦うことも忘れて鼻息を荒くしていた。戦いを忘れて夢中で記録石を回すユウ。

それもその筈、崩れた城門の向こうから新たな軍勢がやってきていたからだ。


 背は小さいが皆屈強な体つきの彼らはおそらくファンタジーでも超有名種族の一つ”ドワーフ”

彼等は一様に細かな”畝(うね)”が浮かび上がった鎧を着て、戦斧を振り回し、敵兵をなぎ倒していた。


「くそっ、マグマライザの連中か! 全軍後退! この件、マリオン様にお伝えするのだ!」


 そんな指示が飛び、アリを散らすように耐火装備に身を包んだ敵は森の木々の中へと姿を消して行く。


「深追いはするな!」


 甲高い少年のような声が聞こえ、やってきたドワーフの集団を割って、小さな影が姿を現す。

声の主であろう褐色がかった肌を鎧で覆う背の小さな少年が現われ、ユウを見上げる。


「久しいな、ショーター=マクシミリアン。準備は整ったのだな?」


 ユウがそういうと、


「お久しぶりです、ユウ様、ニム姫様。ようやく必要分の”マクシミリアン式鎧”集まりました。今こそ我々の力でシュターゼン国を取り戻しましょう!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る