あの日、一人だった私達は二人になった。

 達希君と一緒にいられるなら、今ある物の全てを失っても構わない。そう思って、あたしは決断した。

 これで、良いんだよね。連れていってくれるよね。


「だったら……」

「―――ッ!」

「……ごめん、やっぱり連れては行けない」

「…………えっ?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「どうして? 何でそんな意地悪を言うの⁉」


 一緒にいたいって言ってくれたのは嘘だったの?

 一気に悲しみが押し寄せてきて、引っ込んでいたはずの涙がまたこぼれそうになる。


「ごめん宮子。僕と一緒にいたいって言ってくれたのは嬉しいよ。だけど家族や友達だって、やっぱり大事なはずでしょ。みんな宮子にとって大切な人だし、宮子のことを大切って思ってくれているんだよ」

「それは……」

「今の宮子を、連れて行くことはできない。ごめん、きっと僕と一緒にいすぎたせいで、大切な物や大切な事が、分からなくなっているんだと思う。本当にごめん」

「違う、達希君のせいなんかじゃないよ。あたしは達希君と会って、大切な物をたくさんもらったんだよ。だからそんな、会わない方がよかったみたいに言わないで!」


 達希君が言っていることはほとんど間違ってないのかもしれないけど、そこだけは認めたくなかった。

 このままだと達希君と過ごした時間まで、否定されてしまいそうな気がしたから。


「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ。でも、僕の言いたいことは分かるよね。大切な物とどう向き合うか、もう一度ちゃんと確かめてほしいんだ。だから、連れては行けない」


 達希君の言葉からは強い意思が感じられて。聞いた瞬間、きっともう何を言っても、この決意を変えるなんて無理だと悟った。

 

 達希君の言っていることは、きっと正しい。だけど正しいからって、簡単に受け入れられるわけじゃなくて。

 涙ぐむあたしの頭を、達希君はそっとなでてくれる。


「宮子、覚えてる? 僕らが最初に出会った時の事を」


 いきなり何を言い出すのだろう。そんなの、忘れるわけがないじゃない。


「覚えてるよ。夕方の公園で一人でいたら、指輪を探している達希君を見て、声をかけたの」

「うん、あの時はビックリしたよ。誰かに声をかけられるなんて、幽霊になってから初めての事だったからね。どうやら僕の姿は、普通はなら見えないみたいなんだ」

「そうなの? でもあたし、霊感があるわけでもないよ。だけど今だって、達希君の事はちゃんと見えてるし、声も聞こえる。どうして?」


 急にそういったものが見えるようになったのだろうか? 首をかしげていると、達希君がその疑問に答える。


「たぶん、一人だったから。僕も宮子も。一人で指輪を探している間、ずっと寂しいって思ってた。宮子もあの時、同じような気持ちだったんじゃないの? だから同じ、一人で寂しいって思っている者同士どこかが通じて、見えるようになったんじゃないかな?難しいことはよくわからないけど」


 そうかもしれない。

 あの時あたしの心は、確かに寂しさで溢れていたはずだから。


「それから宮子が指輪を探すのを手伝ってくれて、一人じゃなくなって、それがすごく嬉しくて。本当は途中から、指輪を探すよりも宮子と一緒にいる事の方が目的みたいになってた。宮子と話すの、凄く楽しかったし」


 あたしも、同じ気持ちだったよ。

 達希君と出会って、灰色だった世界が色づいていったの。


 あの日、一人ぼっち同士だったあたし達は出会って。そして、二人になったのだ。

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