最終話 いつか初恋の話をしよう

 学校が終わって、放課後。あたしは今日も、いつもの神社に来ていた。

 達希君が消えてから、既に一週間。もうここに来ても誰もいないって分かってはいるけど、ついつい足を運んでしまうのだ。


 誰もいない神社。ランドセルを置いて、社の手すりに腰かけていると、自然と歌を口ずさんでいた。

 口から零れ出たのは、松任谷由実さんの名曲、『Hello,my friend』。

 叶わなかった夏の恋と、二度と会えなくなった友達の事を歌った歌。もっとも学校で知っているのは、あたしだけかもしれないけど。


 結局あたしは、達希君に好きだって言えなかった。

 初恋って、やっぱりそういうものなのかな? 達希君は最後に、好きだって言ってくれたけど。


 思いだすと、ボッと顔が熱くなる。あれってやっぱり、そういう意味だったのかな?

 達希君とは両想いだったの?

 今はもう確かめようもないけど、そう考えると恥ずかしくて死んじゃいそうになる。

 達希君も、初恋だったのかなあ……。


 そこまで考えて、ポケットからそっと指輪を取り出す。達希君がくれた、あの緑の指輪。

 元はお母さんの形見だって言うけど、あたしが持っててもいいんだよね?


 指輪を握りしめて神社の中を見渡すと、達希君がいたあの頃と何も変わらない。

 こうして待っていると、まるで何事もなかったように達希君が現れるような気もする。達希君、今頃向こうでどうしているだろう?お母さんとは会えたのかなあ?


 人は死んだらどうなるか、私は知らない。今度ミサちゃんに聞いてみようか?

 そう言えば一昨日、ミサちゃんから電話があって、夏祭りの時何をお願いするか、改めて聞かれた。


 達希君とまた会えますようにってお願いしようかとも思ったけど、それは止めておいた。

 ミサちゃんは何かに気付いたようだったけど追及はしてこなくて、代わりに『いつでも電話してきて』って言ってくれた。


 達希君とどうやって出会って、何があったのか。ミサちゃんに詳しく話したわけじゃない。もし直接会う事があったら、その時は話してみても良いかも。

 

 そんなことを考えながらふと顔を上げると、何やら神社の鳥居の向こうからこちらの様子を伺っている子がいた。あれって……青葉ちゃん?


「宮子ちゃん」


 少しずつこっちに歩いてくる青葉ちゃん。

 そういえば、青葉ちゃんが協力してくれたおかげで指輪を見つけられたのに、あの後何があったか話していなかった。

 きっと向こうは気になっていただろうけど、声をかけにくかったんだと思う。


「青葉ちゃん……」


 名前を呼んで、あたしも歩み寄って行く。


 達希君はもういないし、前に住んでいた田舎町にも、もう戻れない。

 だけどあたしは、あたしを支えてくれる大切な人達に心配をかけないためにも、この街で強く生きていかなきゃならないんだ。


 これはそのための第一歩。最初は色々あったけど、青葉ちゃんとなら、仲良くできるかな?


 ももし仲良くなれて、何でも話す事が出来る友達になれたら、その時は初恋の話をしよう。


 幽霊の男の子と出会って、恋をした話を。

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一人な私達の探し物 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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