見つからない指輪

 ようやく目的地である神社にたどり着いた。

 楽しく喋りながら歩いてきたからそんなに時間がかかったと言う気はしなかったけど、いったい今は何時なのだろう? 日が落ちるのが遅くなってまだ明るいから、分からないや。


 神社は話に聞いていた通り、かなりボロボロで、境内は雑草で覆われている。

 社にも蜘蛛の巣が張っていて、なんだか気味が悪い。ここに指輪があるかもしれないと聞いてなかったら、近づきたくもないだろう。

 だけど、せっかくここまで来たんだ。探さなきゃ。


「それじゃあさっそく、手分けして探そうか」

「そうだね。僕は社の回りの草むらを探してみるよ。宮子は社の辺りをお願いできる?」


 達希君がすかさずそう返す。草むらは虫が多いから、あたしを遠ざけてくれたのかも。

 ちょっと申し訳ない気もしたけど、ここで反対して時間を食うわけにはいかない。素直に頷いて、それぞれ探索に向かう。


 社のそばまでやって来たけど、その社は長い間雨風にさらされていたため変色していて。手を触れたら真っ黒になりそうなくらい汚れている。

 こんな所を探すのはちょっと抵抗があるけど、達希君のためだ。意を決して社の床や周辺に目を向けていく。


 探し始めてからほどなくして、遠くで時報が鳴るのが聞こえてきた。どうやらもう5時になったみたい。

 いつもならもうそろそろ帰ることを考えなければならない時間。だけどこんな所まで来たのに何の収穫も無いのは嫌だ。

 すると、離れた場所を探していた達希君が大きな声で語りかけてくる。


「宮子ー、もう5時だけど、どうしよう?あんまり遅くなると、お家の人が心配しないー?」

「ちょっとくらいなら平気ー。まだ始めたばかりなんだもの、もう少しだけ探そうー」


 もしかしたら今日ではなく、土曜日か日曜日にでも来た方がよかったかもしれないけど、今さらそんなことを言っても仕方がない。 

 気を取り直して、再び指輪探しを始める。


 だけど、少し不安に思うことがある。もし本当に指輪が見つかったとして、達希君とは今まで通り会うことができるのかなあ。 

 ミサちゃんが言うには、未練が無くなった幽霊はどこかへ行ってしまうという話だったけど。


 依然草むらを探している達希君をチラリと見る。

 達希君が幽霊かもしれないというのは全てあたしの想像、本人に聞いて確かめたわけではない。だけど学校で聞いたみんなの話と照らし合わせると、やはりそうでないかと思えてしまう。

 それじゃあ指輪が見つかったら、達希君とはもう会えなくなっちゃうのかなあ?


 見つからなければ、いつまでも達希君と一緒にいられるんじゃ。

 一瞬そんな考えが浮かんだけど、すぐにそれを振り払う。

 変なことを考えるのはやめよう。今は指輪を探すことだけを考えなくちゃ。


 だけど探すのを再開したけど、それでも指輪は見つからない。本当にここにあるのだろうか?

 もしかしたら、カラスがくわえてどこかへ持って行っちゃったとか。


 最初この神社の事を聞いた時にはすぐに見つかるような気がしていたけど、だんだんと不安になってきた。

 せめて神社のどの辺りに捨てたのかが分かっていれば、もう少し探しようがあったのに。


 しゃがみながら社の周りを探していたけど、足が痛くなってきた。

 一旦立ち上がり、少し背伸びをして、張っていた足をほぐす。


 それにしても、この神社はそんなに広くは無いけれど、この中から小さな指輪一つを見つけるとなると中々難しい。本当、いったいどこに捨てたのだろう?


 じっと神社の中を見渡す。あたしだったら、どこに捨てる?

 ゴミ箱でもあればその中に捨てるかもしれないけど、あいにくここにはそんなものは無い。そうすると、今達希君が探している草むらに、ぽいっと捨てたのかも。

 いや、まてよ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る