達希君と指輪
どうしてやる気を出した時に限って、それを削ぐような事が起きるのだろう?
もう一度達希君と会うと決めた翌日、熱がぶり返した。
昨日はだいぶ下がったのに、どうして?
そう叫びたかったけど、文句を言ったところでどうにもらならい。
結局、熱が引いたのが金曜日。それから土日を挟んで月曜日、ようやく学校に行くことができた。
久しぶりの学校。もっともあたしが休んでいたからって、気にする人なんていなかっただろう。いてもいなくても同じ、それがこの学校での私だ。
きっと今日も、放課後まで誰とも話をせずに終わる。そう思っていたんだけど。
「宮子ちゃん」
登校したあたしを待っていたのは青葉ちゃんだった。教室に入って席についた瞬間、声をかけてきたのだ。いったい何故?
「風邪治ったの?あれからずっと休んでいたから、心配したよ」
あれから? ああ、そういえば青葉ちゃんとは、神社で話したきりになっていたっけ。あれから間が空いちゃったから、すっかり忘れてた。
青葉ちゃんからすれば、途中いきなりわけの分からないことを言い出して去って行ったのだから、気になっていたのだろう。
「平気だよ。この前はごめんね、変な事言って」
「うん、その事なんだけどね。宮子ちゃんあの時言ってたよね。達希君が指輪を探してるって」
「あ、ああ。そんな事言ったっけ?」
別に誤魔化す必要も無いのだけど、何となく達希君の事をあまり知られたくなくて、咄嗟に忘れたふりをする。
だけど青葉ちゃんは構わず話を続けた。
「あれからお姉ちゃんに達希君のことを聞いてみたの」
「えっ?わざわざ調べてくれたの?」
コクンと頷く青葉ちゃん。手間だったろうに、どうしてこんな事をしてくれたのかと疑問に思ったけど、それよりも今は少しでも達希君のことが知りたい。
「それでね。達希君、いっつも指輪を持ち歩いてたらしいんだけど。お母さんの形見の、宝石がついた本物の指輪を」
「えっ……」
お母さんの形見? そんな話聞いてない。
てっきりイタズラして持ち出した指輪を探しているものだと思っていたのに。
「形見ってどういう事? 達希君のお母さんって、亡くなってたの?」
「お姉ちゃんの話だと、そうみたい。病気で亡くなって、それから指輪をいつも持つようになったって」
「そんな……。ね、ねえ。その指輪、今どこにあるかはわからない?」
「そこまではちょっと。でも、でもね……」
青葉ちゃんは何やら言いよどんでいる。何か知っているけど、話すのを躊躇っているのが丸分かりだ。
「お願い、何でも良いから教えて。あたしにとっては、とても大事なことなの」
詳しい事情は話せないし、話したところで信じてくれるかどうか分からない。だけどそれでも、誠意を込めて頭を下げて懇願する。
すると熱意が伝わったのか、青葉ちゃんは静かに口を開いた。
「実はね、達希君が指輪を持ち歩いているって言う事は、クラスでは有名な話だったらしいの。たまにポケットから取り出しては眺めていたって、お姉ちゃんが言ってた」
「学校にまで持ってきてたんだ。先生は何も言わなかったの?」
「もちろん本当はいけないけど、お母さんの形見だから。強く注意できなかったみたい。しばらくして落ち着けば持ってくることも無くなるって思ってたんじゃないかな。けど、そんな達希君を見て、イジワルしてくる子達がいたんだって」
「イジワル?」
「そう。男なのに指輪を持ってるなんて変だって言って取り上げようとする男子がいたみたい」
何てことをするんだ!
その男子達も、指輪がお母さんの形見だって知らないわけじゃ無いだろう。それなのにイタズラで取り上げようとするだなんて。
まるで自分のことみたいに、沸々と怒りが込み上げてきたけど、今ここで青葉ちゃんにそれを言っても仕方が無い。
「達希くんはそれで、度々ケンカしてたみたい。あと他にも、『お母さんの後を追って死んだらいい』みたいなことを言われてたらしいよ」
「—————ッ!」
青葉ちゃんの言っていることが信じられない。
そのイジワルしてきた子はそんな人を傷つけるような事を、どうして平気で言えるのだろう。
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