支えてくれる人がいる
ミサちゃんが意地悪でこんな事を言ってるわけじゃ無いという事は分かる。
けどそれでっも、達希君のことを悪く言われているように思えて、とても悲しくなる。
「……いい加減な事、言わないでよ」
『えっ?』
「どうしてそんな事言うの⁉ 危険? そんな訳無いじゃない! よく知りもしないで、酷いことを言わないで!」
ミサちゃんが悪い訳じゃないのに、沸き上がる気持ちを抑える事ができずに吐き出してしまう。
しまったと思った時はもう遅い。口を閉じて耳に神経を傾けると、受話器の向こうから元気の無い声が聞こえてくる。
『……ごめん。宮子の気持ちも知らずに、酷いこと言った』
「待って、違っ……」
慌てて取り消そうとしたけど、一度口にしてしまった言葉は無かったことにはできない。
ミサちゃんはなにも悪くない。悪いのは私、私なんだ。
ただ行き場の無い思いをどうにかしたくて、ミサちゃんに当たってしまった。それだけの事なのだ。
思えば今まで、ミサちゃんにこんな風に怒鳴ったことなんてなかった。
引っ越した時は別れを惜しんでくれて、離れてからもこうして電話をくれるような優しい友達なのに。
わたしはいったい、何をやっているんだろう? 悲しい気持ちが溢れてきて、目から涙か零れて、嗚咽がもれる。
『ねえ、宮子の言っている幽霊って、もしかして達希君なの?』
その質問にも返事をする事ができずに、涙を飲み込んで沈黙するばかり。
すると何かを察したのか、ミサちゃんは優しい口調になる。
『ごめんね。事情も聞かずに、知ったような事を言って。あたしは達希君の事を直接は知らないから、本当に危険かどうかも分からない。ただやっぱり、会うことはおすすめできないと思う』
ミサちゃんの言っていることは正しい。もし本当に幽霊だったら、あたしだってやっぱり怖いと思う。でも……。
『でも聞いて。宮子が達希君の事を本当に好きなら、もう反対はしないよ。ただ、これだけは覚えておいてほしいの』
「……何?」
『あたしはまだまだ宮子と話をしたいし、一緒に遊びたい。夏休みにはそっちに行くかもしれないし、宮子が帰ってきてくれてもいい。だから、だからね……』
「うん……」
『達希君と会って何があっても、宮子が帰ってくるのを待ってるから。何かあっても、それだけは忘れないでほしい』
ミサちゃんの声は真剣だ。
いきなり幽霊の話をしたり、ヒステリックに八つ当たりしたと言うのに、それでも親身になって私の事を思ってくれている。
そうだ、危うく忘れるところだった。達希君の事も大事だけど、ミサちゃんだって大切な友達なんだ。
ちゃんと声を聞いて、向き合わなくちゃいけないんだ。
「うん……わかった、忘れないよ。ごめんミサちゃん、酷いこと言っちゃって」
『ううん、それはいいよ。一番辛いのは宮子なんだし。それにあたし私もちょっと言い過ぎた。さっきはああ言ったけど、幽霊全部が危険って訳じゃなくて、中には守ってくれる守護霊ってのもいるし、宮子が信じたいならそのままで良いって言うか、つまりね』
「うん」
『頑張れ宮子。何がどうなっているのかは知らないけど、私は宮子のすることを応援してるから』
「ミサちゃん……ありがとう」
どんよりとしていた心の中が、少しだけ晴れたような気がする。
あたしが何かにつまずいて立ち止まった時、いつも背中を押してくれたミサちゃん。それは離れてからも変わらない。あたしはまた、ミサちゃんに励まされた。
「ありがとう。あたし、もう少し達希君の事を調べてみる。達希君とももっと話して、どうしたいのかをちゃんと考えて――ごほっ、ごほっ」
『大丈夫? そういえば、風邪引いてたんだっけ。もう電話は切った方がいいかな?』
「ごめんね。もっと沢山話したいことがあるのに」
『またいつでも話せるよ。しっかり風邪を治して、達希君と話して、そしたら今度は、宮子から電話してよ。あ、もちろん問題が解決していなくても、いつでも電話して良いから。何ができるわけじゃないけど、話くらいは聞けるから』
「うん……必ず電話するから」
『約束だよ、電話してくるの待ってるから。でも今日はこれで終わり。あんまり長く喋ってたら、風邪もな治らないしね』
「そうだね。お休み、ミサちゃん」
『うん、お休み宮子』
電話を切って、ホッと息をつく。
本当を言うと、まだ不安は全然治まっていない。達希君と会っても、ちゃんと話せるかどうかも分からない。
だけどこのまま動かないでいるなんてできない。不安でも怖くても、ちゃんと前に進むんだ。
そんな事を考えながら横になっていると、お母さんが呼ぶ声が聞こえてくる。どうやらお粥ができたみたい。
布団から出て立ち上がると、少し立ちくらみがする。ちょっと寝過ぎたかな?
体力も落ちているから、ご飯を食べて元気にならないと。明日もう一度、達希君と会うんだから。
決意を胸の奥にしまいながら、あたしは部屋を出て行った。
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