一人な私達の探し物
無月弟(無月蒼)
春よ来ないで
頭の中にメロディが流れる。
松任谷由実さんの名曲、『春よ来い』。まるで吸い込まれるような綺麗なイントロと、タイトル通り春の訪れを待つ歌詞が、あたしはとても好き。
だけどこの歌とは裏腹に、春なんて来てほしくなかった。
あたしの名前は
そんなあたしは、歌が好き。誰かに聞かれると恥ずかしいから人前で歌うことはほとんど無いけど、今みたいに頭の中で思い浮かべたり、一人でいる時に小さく口ずさんだりしている。
好きな歌は流行最先端のアイドルグループの物よりもちょっと古めの、いわゆる懐メロと呼ばれる物が多い。
これはお父さんの影響かな。あたしのパパも音楽が好きで、昔はよくカセットテープを買い漁っていたんだって。
そんなパパのコレクションであるカセットテープを、今ではめったにに見ない専用のウォークマンで聞くのが、私の趣味。
変わっているという自覚はあるよ。けど学校の友達はそんなあたしの趣味を面白いって言っていたの。
春がくるまでは、だけどね……。
冬の終わりに、パパとママの離婚が決まった。
最初に話を聞いた時は、信じられない気持ちになったのを覚えている。
喧嘩することは多くても、家族はいつも一緒にいるものだって、心のどこかで思っていたから。
それまで住んでいたのは、四方を山に囲まれた田舎町にあるパパの実家。だけどママに引き取られることになったあたしは当然、そこに住み続けることなんてできなくて、引っ越すしかなかった。
学校の事を考えて、引っ越すのは春休み。つまり春になったら、あたしは住み慣れ家や町を離れなければならない。それが嫌でお母さんに何度も、ここに残りたいってお願いした。だけど。
「お願い、わがまま言わないで。今度行く所はこことは違って都会だから、きっと楽しいわよ。宮子だってすぐに慣れるから」
諭すように言ってくるママ。だけどあたしは、この町から出たくはなかった。
それに、仲良しの友達とも別れたく無い。だけどいくら訴えても、ママの言うことは変わらない。
「平気よ。新しい学校でも友達はできるから」
ううん、それは違うよ。新しい友達が出来るかどうかと、今の友達と別れて平気かは別問題だよ。新しいオモチャをもらって、古いオモチャで遊ばなくなるような、そんな簡単な事じゃないんだから。
だけど、いくら嫌だと言っても結果は変わらない。
一日一日、カレンダーが捲られる度に、あたしの気持ちは憂鬱になっていく。
春休み入る少し前、友達のミサちゃんがお別れ会を開いてくれた。本当はお別れなんてしたくなかったけど、最後に思い出を作りたくて。
何か特別な事をするわけでもなく、たくさんお喋りして、一緒にウォークマンで歌を聞いて。そして最後には離れてもずっと友達だよって、言ってもらえた。
あたしは泣きそうになるのを我慢しながら笑顔を作って、手紙を書くし電話もするって約束した。
そうして別れを済ませ、とうとう春が来て。あたしは住み慣れた田舎の町から旅立って行った。
次にこの町に戻ってこれるのはいつになるだろう? ミサちゃんとは、また会えるかなあ?
そんな事を考えると、やっぱり不安になる。だけどもう、どうしようもなかった。
そうして町から街へと移ってから、早1ヶ月。新しい学校にも通うようになって、徐々にこの生活にも慣れてきている。ただ、ただね……。
友達はまだ、一人もいない。
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