語られる真実

 やって来たのは図書室。部屋の中には数人の生徒がいて、本を探したり読んだりしている。

 そんな中あたしと青葉ちゃんは部屋の隅にある長テーブルについていた。そしてその向かいには、あたし達より少し背の高い男子と、女子が席に座っている。


「宮子ちゃん、この人が私のお姉ちゃんだよ」

「初めまして。四年四組の、宮子って言います。突然ですけど、達希君について何か教えてもらえないでしょうか?」


 単刀直入に言うと、青葉ちゃんのお姉さんが少し笑って口を開いた。


「君が宮子ちゃんだね。青葉が言っていた、面白い転校生の」

「お姉ちゃん!」


 途端に真っ赤になってお姉さんの口を塞ぐ青葉ちゃん。いったいどういう紹介をされたのだろう?

 けど上級生にケンカを売った子って言われるよりは、数段マシかな。


「ほら澤部君、宮子ちゃんがこんなにお願いしているんだから、何か話してあげなよ」


 澤部君と呼ばれた男子は背こそ私達よりも高いけど、どこか気弱そうな印象を受ける。

 この人が、達希君と仲が良かった人なの?


「あの、澤部君ですよね。達希君とは仲が良かったんですか?」

「いや、その。僕は仲が良かったと言うか……」


 何だろう。どうにも煮え切らない態度だ。口をもごもごと動かすばかりで、中々喋らないでいる。すると私よりも先にお姉さんの方が痺れを切らした。


「ハッキリ言っちゃったら? 僕は里山君をイジメていた中の一人ですって」

「「えっ⁉」」

「ちょっと、いきなりそんな」


 あたしと青葉ちゃんの声が重なり、澤部君が慌てたように声を上げる。その声は静かな図書室に思いの外響き、澤部君はとっさに手で口を塞いだ。


「困るよ。こっちだって心の準備がいるのに」


 弱々しい声を上げる澤部君。その姿はとてもイジメッ子には見えない。


「あの、澤部君は、達希君をイジメていたんですか?」

「違うよ。僕はイジメてなんかいない。イジメている奴の傍で、何もできずにいただけだよ」


 声が弱々しい。短い説明だったけど、どういう事か何となくわかった気がする。


「ええと、つまり澤部君は他達希君をイジメてはいなかったけど、イジメている子達のグループにいたってことなんですか?」

「………まあ」


 言い難そうに返事をして頷く。おそらく澤部君自身は本当に悪い人じゃないんだろうけど、達希君をイジメていた人達に無理やり付き合わされていたのだろう。


「君、宮子ちゃんだっけ? その頬の怪我、田原君に殴られたんだよね」

「はい。でも、大した事ありません」

「ごめん。実は僕もあの時教室にいたんだ。僕が田原君を止めていれば、君が怪我をすることも無かったのに。本当にごめん」


 頭を下げられたけど、あたしは別に澤部君を恨んだりはしていない。昨日はまだ、お互い顔も知らなかったのだし助けてくれなかったとはいえ、怒ったりはしないよ。ただ……。


「ええっ、澤部君助けなかったの⁉ 何やってんのよ!」

「ご、ごめんって」


 お姉さんの方はそうじゃなかったみたい。あたしの仇だとか言って、澤部君をバンバン叩いている。

 けどここ図書室ですから、もうちょっとお静かに。


「あの、あたしは気にしていませんから。それより、達希君の事を教えてください」

「う、うん……でも、僕が言ったって事は黙っておいてね」


 誰かが聞いていないか心配するように周りの様子をうかがった後、声を細めて語り出しす。


「君も知っているんだよね。里山君がどうして亡くなったのか」

「指輪を取られて、取り戻そうとして追いかけて、それで事故に遭ったって話ですか?やっぱり、本当なんですね」

「うん……田原は事故以前から何度も、里山君が指輪を持ち歩いていることをからかってたんだ。男なのに指輪を持ってるなんて変だってね」


 そういえば、最初達希君から指輪を探している話を聞いた時、男が指輪を探しているなんておかしくないかって聞いてきたっけ。あれにはこういう事情があったのか。


「あの日、田原は学校帰りの里山君を捕まえて、指輪を取り上げたんだ。僕もその場にいて止めたんだけど、聞いてもらえなかった」

「あー、まあ澤部君じゃ無理か」


 お姉さんが茶々を入れ、澤部君がバツの悪そうな顔をする。

 あたしも失礼だとは思うけど、お姉さんと同意見。澤部君気が弱そうだし、もし掴みかかって止めようとしたとしても、きっと結果は変わらなかっただろう。


「指輪を奪った田原は道路の先に逃げて、里山君が追いかけてきたところにトラックが突っ込んできて事故が起きたんだ。田原も流石に慌てて救急車を呼んだんだけど、ダメだった」


 澤部君の話を聞いて、悲しい気持ちになる。知ってはいたことだけどこうして当事者から話を聞くと、尚更胸が痛くなる。

 黙りこんでいると、隣で話を聞いていた青葉ちゃんが口を開く。


「あの、その話だと指輪はまだ田原……君が持っているんですよね。結局盗ったままになってるし。それとも、里山君の家族に返したとか?」

「それが、ね。本当は家族に返すべきなんだけどさ。田原、指輪の事は黙ってみたいたんだ。自分が指輪を奪ったせいで里山君が死んだなんてなったらまずいから、無かったことにしようとしたんだよ」

「なにそれ!」

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