指環の在り処
思わず大声をあげてしまったけど、ここが図書室だって事を思い出して、慌てて口を抑える。
そんなあたしを、澤部君はとても申し訳なさそうな顔で見つめる。
「ごめん。僕も近くで見ていたのに言い出せなくて。それに里山君が死んじゃった事がショックで、指輪がどうなったかなんてしばらく考えていなかったんだ」
「それじゃあ、指輪が今どこにあるかは分からないの?」
落胆してがっくりと肩を落とす。だけど澤部君は、首を横にふった。
「いや、心当たりがあるならある。実は澤部君が亡くなってからしばらくして、ある噂が流れたんだ。死んだ澤部君が幽霊になって、指輪を探してるって」
「幽霊……」
その噂は本当だ。だってあたし、何度も会ってるもん。だけど噂になるってことは、あたし以外にも幽霊の達希君と会った人がいるのかなあ?
「本当に幽霊がいるなんて思えないけど。だけどその噂を聞いて指輪の事を思い出して、田原に聞いたんだ。そしたら急に怒り出して。お前もそんな事を聞くのかって、すごい剣幕で」
「どういう事なの?」
「田原の話は分かりにくかったんだけど。どうやら少し前に里山君が夢に出てきて言ったらしいんだ。『僕の指輪を返して』ってね」
なるほど。どうやら達希君は最初、田原のところに行ったらしい。元々指輪を盗ったのはアイツなんだから、真っ先に探すのは当然か。
「そしたら田原、怖くなったのか咄嗟に言ったらしいんだ。指輪はもう捨ててしまってここには無い。どこにあるかは自分にも分からないって。そしたら里山君、『探さなきゃ』って言って消えちゃったみたい」
その話が本当なら、達希君はそれからずっと指輪を探しているって事かな?どこにあるか分からないのに、街中を。
「田原、そのまま呪われればよかったのに」
お姉さんがそう呟いて、あたしも青葉ちゃんも、澤部君も頷く。誰も田原の肩を持ったりはしなかった。
「田原、本当はこっそり指輪を持っていたんだけど、怖くなったみたいで。神社に捨ててきたって言ってた」
「神社に? それって、学校の近くのあの神社?」
思い当たったのは、いつも達希君と待ち合わせをしている神社。
もしそこにあるとしたら間抜けな話だ。何度も訪れているのに見落としているなんて、灯台もと暗しもいいところ。
だけど、澤部君は首を横に振る。
「違う。もっと遠くの、街の外れにある山の麓の神社。普段は誰も寄り付かないような、古くてボロボロの神社だよ」
「街外れ? どうしてわざわざそんなところに?」
「たぶん、できるだけ遠くに捨てたいって思ったんじゃないかなあ。神社にしたのも、お祓いになると思ったのかも」
それでわざわざ遠くの神社まで足を運んだのか。そんな事をするくらいなら、達希君の家族に謝って返した方がいいだろうに。どうやらその発想は無かったようだ。
「じゃあ指輪は、今もその神社にあるんだね」
改めて確認したけど、澤部君はバツの悪そうな顔をする。
「まだあるかどうかは……分からない。だって神社に捨てたって聞いたのは、もうだいぶ前の話だし」
確かにそれだと、変わらずそこにあるという保障は無い。
だけど今まで闇雲に探すしかなかったところに初めて出てきた手がかりだ。調べてみる価値はある。
「ねえ、その神社がある詳しい場所を教えてくれない。どうしても指輪を探したいの」
「それはいいけど……。ねえ、君は里山君とはどういう関係なの? 君、春にこっちに引っ越してきたって聞いてたんだけど、里山君の事を知ってるのはなぜ?」
尋ねられて、言葉につまった。本当の事を言っても、信じてもらえるかどうか。
けど、せっかく指輪のことを教えてくれたんだから、できる限り答えたい。
「友達……友達なの、達希君と」
小さな声でそう答えると、青葉ちゃんがじっと私を見てくる。
「友達? 宮子ちゃん、昔達希君と会ったことがあるの? それとも……」
青葉ちゃんは何か気になっている様子だけど、それ以上は踏み込んでこない。そのかわり、今度は澤部君が口を開く。
「友達……ごめん。僕はその友達が目の前でトラックに跳ねられたのに、何もできなかった。本当にごめん」
頭を下げる澤部君。だけど、その事で責めようという気にはなれない。澤部君自身は何か意地悪をしていたわけではないし、きっと達希君だって怒っていないと思う。
「もういいよ。それより、指輪があるかもしれない神社の場所ってどこなの?」
「そうだったね。場所は……」
澤部君が話してくれた神社は、あたしが行ったことの無いような場所。学校からも離れていて、行こうとしても時間がかかるだろう。だけど。
「ありがとう。あたし行ってみる」
ほんとにそこに指輪があるのなら、何としてでも探さなきゃ。今日の放課後、さっそく行って指輪を探そうと決心する。
もちろん、達希君と一緒にね。
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