第17話 神隠しにあった話
前話でUFOについて書いていたら思い出したことがある。
これは僕が実際に体験した出来事ではなく、知り合いの女性から聞いた話だ。
大阪の中華料理屋で知り合った彼女は、今もとあるプロスポーツ界で活躍している選手なので、詳細な人物像については差し控える。海外在住経験があり、外国語も堪能、頭の回転が速くて、とてもエネルギッシュな女性だ。決して嘘をつくような人物ではないことを付け加えておく。
彼女は小学生の頃、神隠しにあったことがあるという。
夕方、友人宅からの帰り道。自転車に乗った彼女は家路を急いでいた。自宅へと辿り着き、いつものように玄関を開ける。すると、血相を変えた母親がすっ飛んできた。
「あんた、どこに行っていたの! みんなで探してたんだよ!」
母親はそう叫ぶなり、彼女に抱きつくと堰を切ったように泣き出した。
「良かった……本当に良かった。帰って来たんだね」
このとき、彼女は何が起きているのか全く理解できなかったという。
話を聞いてみて驚いた。
なんと彼女は丸一日ものあいだ行方不明になっていたのだ。警察にも通報しており、誘拐事件も視野に既に捜索が始まっていた。家族や親戚も総出で付近一帯を探したが、なんの手掛かりも見つからない。これは一大事と大騒ぎになっていたところに、ひょっこりと娘が帰ってきたという訳だ。
警察の事情聴取も含め、一体どこに行っていたのかと散々聞かれたらしい。しかし、当の本人にはいつものように友人宅へと遊びに行って、いつものように自転車に乗って帰ってきたという記憶しかないのだ。自宅周辺は警察が見張っていたため、どうやって家まで帰ってきたのかも最後までわからなかった。
ひょっとして別の世界へと迷い込んでしまったのではないか、彼女はしばらくのあいだ思い悩んだという。
それから数年が経過し、不思議な体験の記憶も風化していった。
ある日、家族と食卓を囲んで夕食を食べていた時のこと。
茶の間のテレビ番組でUFO特番が始まった。番組では「宇宙人に誘拐された人たち」という特集で、UFOに連れ去られたと証言する人々のインタビューが紹介されていた。UFOの中で手術台に寝かされ、グレイと呼ばれる黒目の宇宙人に体になにかを埋め込まれた、という再現VTRを目にしたしたとき、彼女の頭の中に稲妻が走った。
「これだ、思い出した! お母さん、私はあのとき宇宙人に誘拐されたんだよ!」
思わず口から飛び出した言葉。VTRと全く同じ記憶が自分のなかにあったのだ。
以来、彼女は子供の頃に宇宙人に誘拐されたと信じて疑わない。
「思い返してみたら、あの頃から急に運動神経が良くなったんだよね。やっぱり宇宙人になにか埋め込まれたのかも」
今ではすっかり大人になった彼女は、持ち前の明るさで、アハハと豪快に笑い飛ばすのだ。
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