第21話 大好きだったあの人(その2)

 多少の姉御肌気質はあるものの、アサミは真面目で優しい子だった。


 大学の授業には欠かさず出席してきちんとノートを取っていたし、バイト先のハンバーガー屋では、お客さんに喜んで欲しいからという理由で如何に店長にばれずにフライドポテトを多く盛り付けるかということに情熱を注いでいた。


 カラオケ、映画、ショッピングとデートを重ねていき、会えない時のメールや電話はますます増えていく。ラブホテルにも行くようになった。アサミは僕にとって初めての女性ではなかったけれど、それまで付き合っていた同級生とはまるで様子が違っていた。包容力があって、どんな時でも素の僕を優しく受け止めてくれる。高校生にとって、二歳の年の差というのはとても大きいのだ。週末、朝から夕方までのフリータイムで過ごすラブホデート。ちょっと刺激が強かったかなと言って、大人っぽい下着を身に着けてくるアサミに僕は夢中になっていった。


 四六時中アサミのことを考える。この気持ちをどうやって伝えたらいいのか悩み続けるが、結局はどうしたらいいのかわからず、ただ「好きだ」という気持ちをストレートにぶつける。純粋に彼女を思う気持ちでいっぱいで、嘘偽りがないことを証明するためにアサミが僕の頭の中を覗き見れたらどんなにいいだろうと思った。アサミの存在は僕自身より大切なものになっていて、そんな風に思ったのも生まれて初めてのことだった。アサミも僕のことを同じように好きだと言ってくれた。


 そして迎えた夏休み。


 高校三年生である僕にとっては受験勉強の山場でもある。せっせと夏期講習に通う友人たちを尻目に、僕は時間が許す限りアサミとのデートを繰り返していた。アサミはそんな僕を見かねて、会う時間を制限することに決めた。


「私だって毎日会いたいけどミト君のためなんだよ。お互い大学生になったらもっと一緒にいれるようになるから、しっかり勉強頑張って」


 うん。アサミが言うならば仕方ない。我慢、我慢……。


 だけど勉強なんて手につくはずもなかった。机に向かって参考書を広げる僕はいつだって上の空で、ぼんやりとアサミのことを考える。危機感なんてこれっぽっちも無かった。


 遊園地、プール、海、夏祭りと、僕たちは夏休みの定番デートを一つずつコンプしていった。ある時、高校生っぽいデートをしようということになって、アサミを自転車の後ろに乗せて多摩川へと向かった。アサミが作ってきたお弁当を食べてから、河川敷を東京湾に向かってひた走る。夕暮れ時には、二人並んで川べりの草むらに寝そべって、羽田空港から飛び立つ飛行機を見上げた。


「たまにはこういうのもいいよね。ああ、高校の頃が懐かしいな。今度昔の制服を引っ張り出すから、二人で制服デートしようか」


 悪戯っぽく微笑みかけるアサミ。


「え、まじで? 制服着てるとこ見たい。絶対しよ!」


「……冗談だよ。だって知り合いに見られたらどうするの。恥ずかしくてもう外を歩けなくなっちゃうよ。残念でした!」


 だけど、この件だけは僕も断固として譲らなかった。後日、アサミには制服を持ってきてもらいこっそりと着てもらったことは言うまでもない。男ってのはいつの時代も制服が好きなのだ。多分。

 

 さて、楽しい時間は過ぎるのも早いもので、夏休みもあっという間に終盤に差し掛かっていった。そして、その頃からアサミの様子が少しずつおかしくなっていく。


 メールをしても返事が遅かったり、電話しても持ち前の明るさが少し影を潜めている感じなのだ。こうなるともう僕は気が気ではない。何があったのか聞き出す覚悟を決めた僕は、アサミ宛に携帯電話のコールボタンをプッシュした。


 それは新学期が始まる直前のことだったように思う。

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