第9話 幸せってなに?
※注 パウロ・コエーリョの「アルケミスト」に出てくる寓話を含みます。
幸せの意味を求めて世界中を冒険した旅人がいました。
旅の途中、ある街でとても興味深い話を耳にします。この世界のどこかになんでも知っている賢者の住むお城があるらしい。お城を探す旅がはじまります。
山を越え、砂漠を越えて、そしてついにお城へとたどり着きます。
「幸せとはなんでしょう。教えて欲しくてここまでやってきました」
「よく来たね。せっかくここまで来たんだ、まずはゆっくりと私のお城を見て回ってきてはどうかな。ここには世界中の美術品をはじめ、面白いものがたくさんある」
そして賢者はなぜか油の注がれたスプーンを旅人へと手渡し、続けます。
「ただし条件が一つ。このスプーンの油を一滴もこぼさないこと。戻ってきたときに油がすべて残っていたら答えを教えよう」
旅人は油をこぼさぬよう慎重に歩を進めます。ゆっくり時間をかけてお城をぐるりと一周しました。
「おかえり。私のお城はどうだった? 素晴らしいものがたくさんあっただろう?」
「いえ。油に集中していたので、とても見る余裕などありませんでした」
「それでは駄目だ。ここは本当に素晴らしいものがたくさんあるんだ。もう一度行って一つ一つをしっかりと見てくるように。」
旅人はあらためてお城のなかを見て回ります。息を飲むほど美しい美術品や庭園。夢のような世界に時間を忘れ、気づくと賢者のもとへと戻ってきていました。
「どうだった?」
興奮冷めやらぬ旅人は見てきたものを詳細に語り始めます。
「そうだろう。きっと素晴らしい経験だったに違いない。ところでスプーンの油は残っているか?」
見ると油はすっかりこぼれ落ち、スプーンには一滴も残っていませんでした。
「では一度だけ教えよう。幸せとはスプーンの油を忘れることなく、世界の全ての素晴らしさを味わうことだ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「アルケミスト」にこんな感じのお話がでてきます。普通に考えれば油とは身近な大切なもの、家族や友人、恋人のことを指すのでしょう。最初にこの話を読んだときは目から鱗の思いで、ふむふむと深く納得したのを覚えています。今は必ずしもこれが正しいとは考えていません。結局、幸せって人それぞれですからね。それでも人間には普遍的な価値観があるはずだ、とは信じていますけど。
以下も有名なお話。おまけ。
メキシコの漁村をアメリカ人のエリートコンサルタントが訪れます。
エリートは漁師に尋ねます。
「その魚を取るのにどのくらいの時間がかかったんですか?」
「三時間くらいかな」
「もっと時間をかけてたくさん魚を取ればいいのに」
「家族が食っていける分があればそれでいいのさ」
「仕事以外のときは何をしているんですか?」
「遅くまで寝て、子どもたちと遊んで、妻と一緒に昼寝して、夕方からは仲間と酒を飲んでギターを引きながら歌ってるよ。本当に楽しい毎日さ」
エリートは鼻で笑いながら言いました。
「あなたにアドバイスしてあげましょう。まずはもっと長い時間漁をするべきだ。魚をたくさん売って大きな漁船を買う。するとさらに魚が取れるようになって、最終的には漁船団が手に入る」
「魚は仲介業者を挟まず加工業者に売って下さい。そうやってお金をためていけば、いつかは自分の加工工場を持つこともできる」
「そうなれば、こんな田舎の漁村ともおさらばです。メキシコシティへ進出し、ゆくゆくはアメリカのニューヨークにオフィスを持つのです。大きくなったあなたの会社を経営するためにね」
それを聞いた漁師はエリートに尋ねます。
「そこまでなるのにどのくらいの時間がかかるの?」
「20年もあればできるでしょう」
「じゃあ、そのあとは?」
エリートはにやりと笑って興奮気味に続けます。
「この後が最高です。会社を株式公開して自社株を売りに出すんです。あなたは巨万の富を手に入れて億万長者だ!」
「億万長者ね。で、そのあとは?」
「金さえ手に入れてしまえば早期リタイアです。毎朝遅くまで寝て、子供と遊んで、妻と昼寝して、夜はギター片手に仲間と酒を飲むんです。きっと最高の毎日ですよ!」
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