第3話 インド(デリー:衝撃体験三本立て)
今回はインドの首都、デリーでの衝撃体験を三本立てで書いていきます。インドも時間をかけて一人旅をした国の一つです。書きたいことは山のようにあるので、これからもちょこちょこ触れていくつもりです。ちなみに僕が旅をしたのはこれまた結構昔の話なので、最近のインドとは少し様子が違うかもしれません。あしからず。
ではいきましょう。
―しつこい客引き、まとわりつく謎のインド人たち―
インドを訪れる旅人がもっとも閉口し、うんざりするのが客引きです。デリーの中心部なんかを歩いていると、常に2~3人の客引きにまとわりつかれます。酷い時はもっと大勢に囲まれます。彼らの目的は様々なのですが、基本的には外国人からぼったくってやろうという輩がほとんど。みやげ物屋に連れて行こうとしたり、リキシャ(人力車のタクシー)に乗せようとしたりしてきます。残念なことに日本人は格好のターゲット。彼らは過去の経験から日本人は騙しやすく、お金をたくさん払うということを知っているんですね。「どこから来たんだ?」と聞かれますが、日本から来たとは言わない方がいいでしょう。しつこさがアップします。
そして彼らは嘘つきです。目的地を告げてリキシャに乗ったはいいが、全然違うみやげ物屋に連れて行かれる。約束と違う高額な運賃を請求されるなどは日常茶飯事。一度メモ帳に目的地と運賃、そして「私は寄り道せずにこの料金であなたを目的地まで連れて行きます」と書いたものにサインしてもらいリキシャに乗ったことがあります。当たり前のようにみやげ物屋に連れて行かれました。メモを見せても、こんなものにサインをした覚えはないの一点張りでした。
そんなインドの客引きですが、たまに笑わせてくれます。
デリーの中心部にメインバザールという場所があります。ここを歩いていた時の事。「社長!社長!」明らかに僕に向かって声を張り上げる謎のインド人が近づいてきます。「社長じゃねえし」と心の中で静かに突っ込みを入れ、当然のように無視して歩き去ろうとします。すると彼は僕の前に回り込み、真顔でこう叫んだのです。
「社長!バザールでござーる!バザールでござーる!」
必死の形相で「バザールでござーる」を連呼する謎のインド人。さっぱり意味がわからない。たしかにここはバザールだけど、こいつは一体何がしたいんだ……。さすがにこの時は笑いました。
―物乞い―
ちょっとハードなお話を。
インドには物乞いがたくさんいます。これはインド独特の文化であるカースト制度に起因するところもあるのですが、このあたりのお話はヒンズー教の死生観とも絡めて、またいつか書いていきたいと思っています。
僕が旅をした当時、デリーの駅前は物乞いで溢れかえっていました。彼らをかき分けるように歩いていくと、足元にすがりついてくる男の子がいます。10歳くらいのまだ幼い子供です。やせ細った彼は哀れを誘う声で「ギブミーマネー」と呟き、じっと僕の目を見つめます。親らしき姿はどこにも見当たりません。僕は彼にお金をあげることなくその場を去りました。
その夜、大雨が降りました。通りは水はけが悪く、深さ10センチくらいの川のようになっています。デリーの安宿の二階の部屋に泊まっていた僕は、窓辺からその光景を眺めていました。茶色く濁った水が路上を流れていきます。インドの路上は不衛生なので、あれに浸かったら伝染病にかかりそうだな、なんて考えていたのを覚えています。
翌朝は快晴。水もすっかり引いていました。僕は長距離列車の切符を買いにデリーの駅へと向かったのです。駅前で昨日の物乞いの男の子が死んでいました。身にまとったぼろ布のような服が濡れています。一晩中雨に打たれて水にさらされていたのでしょうか。両腕で膝を抱きかかえるようにして、丸まっています。うっすらと目を開けているのですが、その瞳に光はなく、ぴくりとも動きません。どうみても死んでいます。まわりの人は無関心で見向きもしません。
この光景は衝撃でした。正直、後悔もしました。昨日千円でもお金をあげていれば。いや、百円でもあげていればこの子は昨日死ぬことはなったのかもしれない。こんな場所で一人ぼっちで死んでしまった男の子。彼の人生に幸せはあったのか。でも、その場しのぎのお金をあげたところでその先は? あたりには物乞いがたくさんいます。幼い子供の姿もちらほら。これは本当に色々と考えさせられるできごとでした。
―トイレ事情―
インドでは食事のときフォークやナイフを使わず、右手を使って手づかみで食べ物を口に運びます。左手は不浄の手とされているので絶対に使いません。なぜ左手が不浄の手かというと、用を足したあと左手でお尻を拭くからです。手のひらを丸めて水をすくって、ダイレクトにお尻の穴をお掃除するのです。ええ、僕もやりました。最初は抵抗がありますが、慣れてしまうと案外悪くないんですけどね。
そして、インドの家庭にはトイレがなかったりします。ではどこで用を足すのか? 答えは簡単、路上です。大人も子供も、男も女も路上で用を足します。道の上にフンが落ちていますが、それは犬のものではなく、人間のものである確率が高いでしょう。民家が立ち並ぶ通りを歩く時は踏まないように気を付けてください。
一番驚いた光景はデリー駅でのことでした。電車を待っていた時、向かいのホームにいた小さな女の子が家族のもとを離れ線路側へと駆けよります。そして僕に向かって背中を向けると、おもむろにお尻をぺろんと突き出してその場にしゃがみ込みました。ホームの端から線路に向かってお尻を突き出す感じです。そして、そのまま用を足したのです。しかも、小さな方ではなく大きい方。ことを終えると何事もなかったかのように家族のもとへと戻っていきました。
いやあ、これには度肝を抜かれましたね。でもこの光景が当たり前のようにインドでは受け入れられているのです。文化が違ったり、価値観が違ったり。そりゃ、戦争だって起きるだろうなって思います。大事なのは他者の価値観を理解しようとする姿勢なんじゃないでしょうか。僕ら日本人の価値観は世界共通ではないのです。僕が正しいと思うことだって他の人にとっては許しがたいことだったりするんですよね。
今回はここまで。書いているうちに色々と思いだすこともあったので、次回もインドでのお話を。思い出に残る食べ物について書きたいと思います。
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