うまのほねダイアリー
ミトイルテッド
第1話 タイ(タオ島:前編)
18歳。
僕が初めて一人旅へと向かった国はタイでした。
この時は1か月ほどかけて東南アジア諸国を旅してまわったのですが、なんと言っても最も楽しかった思い出はタオ島でのスキューバダイビングです。首都バンコクから南部の都市チュンポンまで鉄道で7時間、そこからスピードボートで2時間というロケーション。観光地としても有名なサムイ島の北側に浮かぶとても小さな島、タオ島。面積は21平方キロメートルしかなくて、島で原付をレンタルした際も20分足らずで一周してしまったほどの可愛い島なんです。ちなみにタオとはタイ語でウミガメのことを指します。ウミガメ島。なんだか某有名海賊漫画に出てきそうな名前だと思いませんか。
そんなタオ島は世界でも屈指のダイビングスポットなのですが、当時の僕はそんなこととはつゆ知らず、バンコクで知り合ったバックパッカーに「海が好きならタオ島だよ!」と言われて無計画に島を目指しました。翌朝一番の列車に乗り込みチュンポンへ。スピードボートでは先頭の席に陣取り、晴れ渡る空の下、波頭を切り裂くように進むボートに揺られながら、その島影が姿を現すのを今か今かと待ちわびていたのです。
余談ですが、僕はこの時、島での宿やダイビングツアーの予約などは一切していませんでした。この話は随分と昔の話なので、恐らく今のタオ島とはちょっと様子が違うかもしれません。聞くところによると、タオ島は今ではすっかり観光地化されているらしいので、これから行かれる方には事前の予約をお勧めします。僕が行った当時は近代リゾートというにはほど遠く、南国の田舎に毛が生えた程度の島でした。
ともあれ、無事タオ島へと上陸を果たし宿を定めた僕は、海パン一丁で早速ビーチへと繰り出しました。白い砂浜、青く透き通った海に群れをなして泳ぐカラフルな熱帯魚。これぞまさに地上の楽園。18年間の人生で最も胸躍る光景がそこにはありました。ああ、この島に来て本当によかったという思いを噛みしめつつ、ひとしきりシュノーケリングを楽しんだのです。人魚がいるならきっとこんな海だろう、と思ったことを今でも覚えています。
夕暮れ時。お腹がすいた僕はビーチ沿いのオープンテラスのレストランへ向かいます。もちろんタイ料理。店内にはゴザが敷かれていて、床に直接腰を下ろすちゃぶ台スタイルでした。店で飼っている犬が出産したばかりらしく、数匹の子犬がゴザの上を元気に走り回っています。おこぼれを貰おうとすり寄ってくる子犬たちのこれまた可愛いこと。動物好きの僕は一発でこの店を気に入り、常連になることを決めました。ぴりっと辛いトムヤムクンをすすりながら眺める夕日。テラスから見渡せる海岸線にゆっくりと真っ赤な夕日が沈んでいきます。水色からコバルトブルー、藍色から黒へと溶け合うように変化していく空の色。それはもう……めっちゃ綺麗でした!
あ、ちなみに皆さんはパクチーは好きですか? 今は食べれるようになったんですが、この頃の僕はパクチーが嫌いでした。カメムシみたいな匂いがどうしても駄目で。タイ料理ってパクチーが入っていることが多いんですよね。それもどっさりと。そういう時、パクチーが苦手な人はこう言うのです。
「マイサイパクチー!」
簡単でしょう。注文時にこの一言を添えるだけでパクチーが消えてなくなる魔法の言葉。よく使うタイ語ベスト10に入りますので要チェックです。
さて、お腹も膨れて陽も沈みきった宵のうち。何をして過ごしましょう? 行くところは決まってますよね、そう……ビーチです。音楽プレーヤー片手にビーチへと舞い戻ります。さらりとした肌触りの砂浜にそっと寝そべり目をつぶります。ざざあ、ざざあ、と優しい波音にしばし耳を澄ませ、ゆっくりと目を開けるとそこには満点の星空。流れ星もばんばん流れていく勢いで見れちゃいます。こんな時いつも思うんです。ああ、俺って地球にいるんだなって。大地を感じるっていうんですかね。そして、更に気分を盛り上げるための音楽です。イヤホンを装着し、プレーヤーのスイッチオン。バラードか何かを聞いていたと思います、というかはっきり覚えてます。ミ〇チルを聞いてましたね。別れたばかりの二つ年上の彼女。大好きだったあの人。ロマンチックな思い出に浸りながら一人ポロリと涙をこぼすのでした。
と、ここまで書いて自分でも読み返してみました。描写が綺麗すぎる、盛ってるんじゃないの? と思われる方もいるかもしれません。ご安心を。盛ってなんかいません。思い出の中で多少美化されている部分はあるかもしれませんが、全部実話です。この世界にはこんな場所もあるんです。
そして、この翌日からスキューバダイビング三昧の日々が始まります。ライセンスも激安で簡単に取得しちゃいます。たしかタオ島には一週間くらい滞在していたのかな。
このあたりのお話は後編で!
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