第16話 メキシコ人とUFO

 メキシコにはこれまで10回以上渡航している。


 しかし、メキシコは日本人にとっては意外と知っているようで知らない国の一つではないだろうか。メキシコとは一体どんな国なのか、まずは簡単に紹介しよう。


 メキシコの人口はおよそ1億3千万人と日本とほぼ同じ。一方で面積は日本の5倍もある。その国土のほとんどが標高1千メートル以上と高地で、実際に行ってみるとわかるのだが、空との距離が近く感じる。そして当然ながら空気は薄い。スペインに支配されていた時代が長かったため、公用語はスペイン語だ。原住民とスペイン人の混血であるメスティーソという人種が人口の半数以上を占め、主要な宗教はカトリック系キリスト教。週末は教会に通う人も多いと聞く。昼食は2時、夕食は9時から、というのが一般的で、日本人のライフスタイルとはズレがある。家族との時間の共有をとても大切にするのも特徴の一つで、夕食には3時間かけるという家庭も珍しくない。そして、ポンチョにとんがり帽子という出で立ちで、両手に持ったマラカスを振りながら陽気に踊る髭のおじさんは存在しない(少なくとも僕は見たことがない)。だが、とても陽気な国民性であることは間違いないだろう。


 長くなるので詳細な説明は省くが、実はメキシコは日本が江戸時代の頃から交流のある親日国なのだ。


 先日、というかこれを書いている数日前にもこんなことがあった。


 夜、宿の外で電子タバコで一服していると、年のころ60過ぎのオヤジが僕に話しかけてくる。


「セニョール、ひょっとしてアンタはハポネスじゃないのか?」


「えっ、はい。僕は日本人ですけど……」


 それを聞いたオヤジはニヤリと笑みを浮かべる。


「そうか、やっぱりハポネスか。実はな、俺の爺さんは日本人なんだ。ハセガワという名前だった」


「ハセガワですか、日本ではよくあるファミリーネームだ」


「そうだろう。爺さんはな、えーと……たしかフクオカ、という街の出身だったはずだ。あんた、フクオカは知っているか? どうせ田舎の街なんだろうが」


「いやいや、とんでもない。福岡は日本でも有数の大都市ですよ!」


 僕は福岡が九州と呼ばれる島にある都市であることを伝え、とんこつラーメンが如何にうまいかを熱く語った。オヤジは熱心に耳を傾けてくれ、いつか福岡でとんこつラーメンを食べてみたいと言った。10分ほど話し込んだだろうか。


「ハポネスよ、せっかくの機会だ。一緒に写真を撮ってくれないか?」


「もちろん構いませんよ」


 オヤジが近くにいた家族を呼び寄せる。みんなで写真を取ろうという訳だ。僕はオヤジの家族5人とみんなで肩を組んで写真を撮った。


「ありがとう、ハポネス。いい話を聞かせてもらったよ。それじゃあ、いい夜を!」


 最後にがっちり握手を交わす。


 どうだろう。メキシコ人が如何に陽気で親日か、ということが伝わっただろうか?


 さて、そしてもう一つ。


 実はメキシコは世界で最もUFOが目撃されている国なのだ。僕は宇宙人についてとても興味があるので、仲良くなったメキシコ人に「UFOを見たことがあるか?」と尋ねるようにしている。初対面でこんな質問をすると、アブナイ奴だと思われる可能性があるので、あくまで打ち解けたメキシコ人に対してだけである、ということはくれぐれもここに記しておきたい。


 僕はこれまでに10人以上のメキシコ人にこの質問をしているのだが、驚くべきことに半数以上の人がUFOを見たことがあるという。友人とスタジアムでスポーツ観戦している時に一緒に見ただとか、飛行機の窓から葉巻型のUFOを見た、などなど。中には何度も見たことがある、UFOが空を飛んでいるのは当たり前だ、と言う人もいたりする。


 僕は夜空に輝くUFOを一度でいいから見てみたい。


 宇宙人にも会ってみたいが、怖い宇宙人だったら嫌なので、まずは遠くから空飛ぶ円盤を眺めてみたいのだ。それは果てしなく遠い星からはるばる地球にやってきたのかもしれないし、実はタイムマシンのような乗り物で、中には未来人が乗っているのかもしれない。僕はUFOについて考えると、ワクワクが止まらなくなるのだ。


 残念ながらまだ一度もお目にかかれていないが、僕の前にキラリと輝くその姿を現してくれる日は来るのだろうか。そんな淡い期待を胸に、僕はいつもメキシコの夜空を見上げている。

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