第6話 鮮烈なもの

カッターナイフを使って手首を切ろうとしていました。肌にナイフがあたる前に、母が部屋の前に立っていました。母は凍りついた表情で、何してるのと言い、私は、死のうと思ってと答えました。

私は、気持ちが苦しいから病院に行きたいと言いました。

高校生になった最初の夏でした。

最初だけ母に付き添ってもらい病院に行きました。


やっぱり今でも重苦しい思いがあります。私は母を傷つけました。それは許されない心の罪として、私の中から消えることはないでしょう。


その年の秋から翌年春まで、私は入院治療を受けました。

こうやって文章にすると、やはり、思っていた以上にまだ気が重いようです。

もう二十年以上前のことなのに、それでもです。

その入院先で、患者として私はまだ一番若かったです。私がそこで見聞きした大人の患者のひとたちのことを、忘れることができないでいます。鮮烈な記憶として心に残り続けています。


そして、再び苦心しながら高校生に戻れても、私の脳裏の片隅には、いつもずっとあの入院生活の時間がありました。私は高校生をしていただけで、もう、高校生には戻れない心境で日々を過ごしていたのです。でも、のんびりした、スポーツの盛んなその学校の校風は、単調なぶん私の心を穏やかに保たせました。入院前に通っていた進学校とは、生徒の雰囲気も随分と違って見えました。


その高校でできた友達の家で夕飯を頂く機会がありました。私はその時なぜか涙が出てきました。友人が驚き、どうしたの?と聞いてきたので、私は、幸せだなと思って、とだけ答えました。その娘も少し涙ぐんでいました。だけど、私は詳しい事情を誰にも語らなかったのです。


語る気にもなれなかったのです。



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