第8話 話し相手

17歳になった夏休み、私は再入学した高校にまだ行けずにいました。親切だった担任の先生は夏休みの宿題を確か、届けてくれました。私はそれを家でしていました。


ある日、両親から私が学校に行けないから教育委員会の人が話をしに来る、と私に言うのです。


いきなりそんなこと言われても、会いたくないと思いました。会いにきたその日、私は自分の部屋に入りました。呼ばれるまで出なかったです。呼ばれて渋々会いました。

確かに、教育委員会のひとっぽくは見えました。高校生だった私には、です。スーツを着た50代くらいのおじさんと、きちんとした服を着た20代くらいのおねえさんが並んで座っていました。


おじさんは私にこう言いました。余り難しく考えなくていい。お弁当食べに行って帰ってくると思えばいい。悩みがあったら、このおねえさんに何でも話しなさい。そう言って帰って行きました。


残された私とおねえさん。おねえさんは、偉いね、夏休みの宿題自分でしてるの?と言いました。色んな学校に行けない子供の家に訪問するけど、部屋から出てこない子も沢山いるよとおねえさんは語りました。物とか投げてくる子とか。ほんとにいろいろ。でも、あなたはほんとに普通っていうか、こういう子もいるんだってびっくりした、と言いました。私は、そうなんだ、色々な事情で学校に行けない子供っているんだなと思い、想像に任せて聞いていました。


その日、おねえさんが帰る時、最寄りのバス停まで送りがてら、初めておねえさんに話しかけました。

私、学校に行きたいんだけど、しんどくてなかなか行けなくて辛いんです。私は泣いていました。おねえさんは涙ぐんで、何でも話して。絶対また行けるようになるから。と力強く言い帰っていきました。


それから週に一回くらいはおねえさんが来るようになったと思います。いつも、私の部屋で母が作った夕飯を二人で食べました。


おねえさんとはカラオケにも二人で行きました。そして、夏休みの最後には二人で学校に行って、担任の先生やその日部活で来ていた生徒と話もしました。私はなんだか身体が弱く学校に来れてない子みたいに思われていたようでした。他の生徒には。ひとつ皆より歳上とは誰も気づいていないようでした。


決定打は、夏休みにあった夏祭りに、中学時代の友だちに呼ばれて行ってみたことでした。そこで、私は久しぶりに中学の同級生と再会しました。何人かと話す中で、学校を辞めて、また入り直したけどまだ行けていない、と今の状態を話しました。ある男の子が、偉いな、入り直すなんて俺には無理、と言いました。学校楽しい?と尋ねるとその子は楽しいと答えました。部活があるから、と。そして、帰りの道々一緒に帰りながら、がんばれよ、また会おうや、と言われました。


私は夏休みが終わり、学校が始まり3日くらい経ったある日から、休むことなく学校に通い始めました。あと3日遅かったら、もう一年留年だったと後からおねえさんに聞きました。だから、私はインフルエンザ以外休めませんでした。出席日数の関係で。


学校に慣れてきたある日、おねえさんが、おめでとうよく頑張ったねと目覚まし時計をプレゼントしてくれました。

それ以来、おねえさんとは会っていません。


おねえさんは教育委員会のひとでもなく、ボランティアのひとだったと両親から聞いたのは、それから15年くらい経ってからでした。

私は、すごく良く出来た嘘に、それこそ開いた口がふさがらない心境だった。


学校に行けない私に悩んだ両親からのプレゼントは、話し相手のおねえさんだった。


困ったとき、ひとは話し相手が必要なのだと思います。

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