第4話 ばったり

ばったり会ってしまう人がいるのです。世の中には。中学校の時の先生です。クラブ活動の担当にもなった先生で、気楽な雰囲気の人でした。

もう何回ばったりしているでしょう。でも、最近ばったりした時、私は逃げるように避けてしまいました。ひつこい人ではないので追いかけられるはずもないのに、恐いと感じてしまうのです。

私は元々内気な性格で、今は警戒心も強まっているからだと思います。


まだ二十歳を少し過ぎた頃、誘われてその人とお酒を一緒に飲みました。その人はそうやって色々なひとと語り合うのが好きな人なのです。

私は帰り道、胸が苦しくなって、息がしづらくなりました。しゃがみ込むような姿勢になってしまいました。先生はとても驚き、自分の自転車の後ろに乗りなさいと言うのです。え、という戸惑いはありましたが、口も上手く開けなくなっていた私は先生の後ろに乗りました。先生は急いで私を家まで届けました。その間、何か先生は私に話していたと思いますが、内容を忘れてしまっています。でも、家に着く頃には、胸の苦しさは消えていました。

お酒で動悸が起こりやすいんです。そんなに飲んでいないはずだったのですが。でも先生とだから、調子にのったのでしょうか。


良い先生ってどんな先生だと思うか、という相談を逆に中学生のときに受けていたり、私と先生はちょっと面白い関係だったと思います。先生のその気楽さがいいのだと私は思っていました。そして、そう伝えました。


私はだけど、先生にも親にも友人にも、誰にも言語化できませんでした。

よくわからない不安や眠れないこと、胸苦しく気が重いことなどを、です。部屋で泣いてばかりいたことも。苦しくて仕方ないことも言葉にできませんでした。


受けとめられそうなひとが見あたらなかったのかもしれない。

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