第20話 缶詰め
ファツィオは王城の中にある自分の執務室で書類の山と格闘していた。
「あぁ、もう。面倒ですね」
そんなに広くない執務室に苛立ちがこもった美声が響く。
デルヴェッキが王暗殺計画の首謀者であることの証拠と、自分は無実であることの証拠を早々に提示したことで、ファツィオは王暗殺の首謀者という不名誉な噂が広まることを阻止することは出来た。
だが、その後は後始末のために自分の屋敷に帰れない日々が続いている。
つい重いため息を吐いてしまうファツィオだが、王城内は騒乱に包まれていた。
そもそも、牢屋にいるはずのファツィオが謁見の間に現れたことから王城の大騒ぎが始まった。それから、ファツィオがその場で提出した王暗殺計画の主犯がデルヴェッキである証拠により王城はさらに大混乱となった。
王暗殺計画をしていたとはいえ、貴族は貴族である。しかも、そこそこの人数が捕縛され、そのことによって行政にまで支障が出てきたのだ。
ファツィオは行政に支障が出ないようにデルヴェッキを捕獲する計画を立てていたのだが、それはイラーリオによって壊された。
「まったく。特にイラーリオ卿には困ったものです」
王の暗殺計画をどこかで耳にしたイラーリオは、この混乱に乗じてファツィオを手に入れようと余計な手出しをしてきたのだ。そのためファツィオの計画は予定より前倒しで進めることを余儀なくされた。
「もう少しデルヴェッキ卿から情報を引き出す予定でしたのに!」
ファツィオは忌々しそうに書類を睨みつけた。
あの宴会に出席していた貴族以外にもデルヴェッキに協力していた者がいる。そのことを知っていたファツィオは、計画に関わっている全ての人間を把握してから一網打尽にしようとしていた。当然、一網打尽にした後も行政に不具合が起きないよう根回しをしてから。
だが、イラーリオが宴会で王の暗殺計画の話し合いがされている、と騎士団に密告したため中途半端な状態でデルヴェッキとその仲間たちを捕縛することとなった。
その結果、裏でデルヴェッキに協力していた者を残らず引きずり出すため、ファツィオはデルヴェッキとの交友関係が記載された書類に目を通して指示を出す仕事と、支障が出てきた行政の仕事に追われていたのだ。
「イラーリオ卿にも厳罰を下してもらわないと……いえ、その前に少し嫌がらせをしておきましょうか。あぁ、あと仕事熱心な第二騎士団にも差し入れをしておかないといけませんね。何が良いでしょう……不眠不休で一週間動ける代わりに一カ月は廃人になる飲み物にしましょうか?それとも、筋肉が付く代わりに計算が出来なくなる薬にしましょうか?あ、でもこれ以上阿呆になられても困りますね」
睡眠不足が続いて頭のネジが外れかかっているファツィオが、暗く不気味な笑い声を響かせる。そこにドアをノックする軽い音が響いた。
「どうぞ」
ファツィオが人当りが良いと言われている笑顔で声をかけると、リアが入ってきた。
「どうされました?」
予想外の人物の登場にファツィオが少し驚いた表情をする。
だがリアは気にした様子なく笑顔で右手に持っていたバスケットを持ち上げた。
「大変そうだから、差し入れに来たのよ」
そう言ってリアはバスケットの中身を見せた。そこにはサンドイッチなどの軽食とカップケーキなどのおやつが入っている。
ファツィオは嬉しそうに微笑みながらリアを見た。
「美味しそうですね。お昼ですし、ご一緒に食べませんか?」
「でも、ここで食べるのは味気ないわ」
執務室は書類と本の山で雑然としており、食事をする気分になるような場所ではなかった。
そのことを感じとったファツィオが気分転換もかねた提案をする。
「そうですね。天気もいいですし、中庭に行きましょうか」
「いいわね」
こうして二人は昼食をとるために中庭へと歩いていった。
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