第29話 執事再び

 王妃は臨月を迎え、無事に男の子を出産した。


 大きなベッドで横になっている女性の隣には、少し色素が薄い金髪に碧い瞳をした赤ん坊が寝ている。


 女性はパッチリとした瞳を開けて周囲を見ている赤ん坊を見つめながらジンに話しかけた。


「あなたのおかげで医師も驚くほど順調に出産しました。本当にありがとうございます」


「……体は?どこか痛いところはない?」


「あなたの魔法のおかげで不思議なぐらい楽です。この子の兄たちを生んだ時に比べたら、驚くほど痛みがないですもの」


 そう言って穏やかに微笑む女性にジンも微笑んだ。


「それなら良かった。君に似た可愛い子だね」


「あら、男の子なのに?」


「これぐらいの時は性別なんて関係ないよ」


「そうですね」


 女性が頷いていると赤ん坊が泣きだした。そのことに女性が起き上がり慣れたように赤ん坊を抱き上げた。


「お腹が空いたのかしら?」


 女性が手元に置いてあった鈴を鳴らすと隣の部屋から乳母が入ってきた。


「じゃあ、席を外すよ」


「えぇ。私は大丈夫ですから、あなたが休んだら、どうですか?私のために、ずっと魔法を発動させているでしょう?」


「ちゃんと休んでいるから平気だよ」


 そう言うとジンは普通に歩いて部屋から出て行った。


 廊下に出たジンは後ろ手でドアを閉めると同時に壁に手をついて寄りかかり、倒れそうになる体を無理やり立たせた。


 その姿に、どこか呆れたように言いながらも心配を含んだ声がかけられる。


「いい加減、休んだらどうですか?」


 声が美声であったため、すぐに誰か分かったジンは軽い笑顔を浮かべて振り返った。


「これぐらい大丈夫だよ」


「そうですか?リアに聞きましたよ。あなたは魔法によって、王妃の体の痛みや不調など感覚の全てを自分の体に移しているって。今だって産後痛と疲労で立っているのも辛いのでしょう?」


「まったく。リアは鋭いな」


 ジンの苦笑いにファツィオがため息を吐く。


「今、あなたが倒れて魔法が発動できなくなったら王妃が大変なんですからね。ちゃんと休んで下さい」


「大丈夫。自分の限界ぐらい知っているからね。倒れる前には休むよ」


「……その言葉。ちゃんと守って下さいよ」


 ファツィオの念押しにジンの顔が少し引きつる。


「やはり強制的に休ませた方が良いようですね」


 ファツィオが指を鳴らすと、どこに隠れていたのか執事が椅子と縄を持って現れた。


 既視感デジャブ満載の光景にジンの顔が青くなる。


「えっと……まさか、また椅子に括られるの?」


「失礼します」


「失礼しないでー!」


 叫びも虚しくジンは強制的に椅子に括られ、見かけより怪力の執事によって強制的に寝室へと運ばれた。

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