第19話 謁見室
王城の謁見室では王の暗殺が計画されていたという事件を聞いて、首都に住む貴族たちが集まっていた。
そこにファツィオが王城の謁見室のドアを豪快に開けたため、その場にいた全員が振り返った。そして驚きの表情や怪訝な顔、ファツィオの登場を予想していたニヤリ顔など、さまざまな表情が溢れた。
そんな百面相を眺めながらファツィオが謁見室に一歩入ろうとしたところで、護衛の騎士に道を塞がれた。
「どうやって、ここまで入ったかは存じませんが、これ以上はお控え下さい。あなたは王の暗殺を計画した重要人物なのです」
その言葉を聞いてファツィオが王に視線を向ける。それだけで王は座っていた王座から立ち上がり命令をした。
「よい。そのまま通せ」
「ですが!」
反論する騎士に王が頷く。
「もちろん不審な動きをすれば、すぐに斬ってかわまぬ。だが、このような事態の最中にアントネッロ卿自らがここに来たというのだから、重大な話があってのことだろう。特別に発言を許す」
王の命令にファツィオは紐を引っ張って歩きだした。ちなみに紐の先にはお約束のように代車に乗せられた豪華な椅子に括りつけられているジンがいる。少し前に生気を取り戻していたのが嘘のように、再び腐敗臭がする一歩手前の屍になっている。
その異様な光景にファツィオの行動を止めようとした騎士でさえも後ずさり、謁見室にいた人々は見えない糸に操られたように一斉に下がった。
そんな周囲を気にすることなくファツィオはジンを繋いだ紐を引いて謁見室の中央まで来ると、深々と一礼をして口を開いた。
「この度の王暗殺計画について、事の顛末を報告に参りました」
悠然と言ったファツィオの言葉に、普通であれば「白々しい」や「何をいまさら」などのヤジが飛んでくる場面なのだが、久しぶりに王城に響いた美声に全員が黙って聞き惚れていた。
その隙を逃さずにファツィオが王に進言を続ける。
「結論から申し上げますと、全てはデルヴェッキ卿とその同胞が計画したことです」
衝撃の告発には美声の効果もなく、謁見室にいた数人から反論が出た。
「デルヴェッキ卿に濡れ衣を着せる気か!」
「どこにそんな証拠があるんだ!」
「罪から逃れるための嘘だろ!」
そんな罵声に近い声を聞きながらファツィオはゆっくりと周囲を見回した。そして声を出した人物を一人一人確認すると、再び王に視線を向けた。
「証拠ならジン殿が持っています」
「……ジンが?」
王が屍となったジンを見るが何かを持っているようには見えない。それどころか屍となった姿は見るに堪えない。
一瞬でジンから視線を逸らした王はファツィオに訊ねた。
「どのような証拠だ?」
「ジン殿は私たちが知らない魔法を使えます。その中に映像記録魔法というものがあり、目の前で起きたことをそのまま記録に残すことができる上、後でそれを再現できるそうです」
「よく分からないが、それはここで再現できるのか?」
「はい。あの宴会でデルヴェッキ卿が話したことを全て再現してもらいます」
そう言うとファツィオはジンを椅子に括りつけていた縄を解いた。
「では、お願いします」
よい笑顔で指示を出すファツィオにジンは大きく息を吐いて耳につけていたピアスを指で弾いた。
するとピアスから一筋の光が伸びて謁見室の白い壁に映像を映し出した。
「うーん、もうちょっと暗い方が見えやすいね」
ジンが呟くと同時に謁見室内が薄暗くなる。だが、そのことに驚く人間はおらず、王を含めた全員が白い壁に映し出された映像に釘づけになっていた。
壁に本物そっくりの絵が映し出されたことだけでも驚きなのに、その絵が動き話す様子に誰も何も言えず、ただ茫然と立ち尽くしていた。
そんな人々の前ではデルヴェッキがファツィオを宴会に誘うところから、宴会で王暗殺の計画を持ちかけ、そして第二騎士団の検めが入るところまでが映し出された。
ポカンと口を開けて間抜け面をさらしている人々にファツィオが声をかける。
「これが証拠です」
その言葉と同時に映像が消えて謁見室が明るくなった。夢物語が終わり、徐々に意識が現実に戻ってきた人々が我に返って慌てたように声を出した。
「だ、だが、これが本物だという証拠がないぞ」
「そうだ。作り物じゃないのか?」
主にデルヴェッキと懇意にしている人々から上がった言葉にファツィオが軽く頷く。
「では、ジン殿。謁見室に入ってからの映像記録魔法を出して下さい」
「はい、はい」
いつの間にか屍から復活しているジンが肩をすくめながらピアスを指で弾く。すると再び謁見室が薄暗くなり、白い壁にはファツィオが謁見室に入ってからの映像が映し出された。
鏡以外で初めて見る自分の姿に人々が驚きざわめく。そして映像が流れる中でファツィオの言葉に反論したり、デルヴェッキを擁護するようなことを言った人の顔が時々アップされた。そのたびに、その人は周囲から視線を集め、顔を真っ赤にしている。
映像が終わるとファツィオは少し大きめの声で語りかけた。
「初めて見る魔法にみなさんが戸惑う気持ちは分かります。ですが、これでこの魔法が真実を映し出しているということは、納得して頂いたと思います。真の悪は誰か。賢明な方々なら、もうおわかりでしょう。後は王の英断にお任せいたします」
そう言うとファツィオは深々と一礼して王の言葉を待たずに謁見室から出て行った。もちろんジンを乗せた台車の紐を引っ張って。
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