第22話 王家の事情
王はジンに視線を向けると説明を始めた。
「我が国は土地が豊かで潤っている。当然、周辺国から狙われることもあったが、それは先祖代々、王族が周辺諸国の王族と結婚をして親戚となることで友好な関係を築いていた。だが、十年ほど前、北西にあるフオル国に新王が即位すると事態は変わった」
「何?攻撃でもしてきた?」
水でパンを押し流したジンが胸を叩きながら話す。王は緊張感たっぷりに説明をしているのだが、ジンの雰囲気がそれをぶち壊す。
王は苦笑いをしながら頷いた。
「そのとおりだ。フオル国は周辺諸国に宣戦布告をして次々と占領していった。その事態に我が国は、フオル国に嫁いでいた王族と我が国の関係者を全て帰国させた。だが、帰国した従者の中にフオル国の間者がいたのだ。我が国の従者に化けていた間者は城に入り込むと、次々と我が国の王族を暗殺していった。そして、間者を捕らえた時に残っていた王族は、病気のため幼い頃より南にある別荘で療養していた現王妃、ただ一人となっていた」
「王族が全滅したら周辺諸国との親戚関係も崩れちゃうから王妃が大切なんだね。ならパトリッツォは婿養子の王様?」
「ジンは言いにくいことを指摘してくるな。だが、その通りだ。そして私はいくらでも変えがきく王ということになる。王妃と、その血を継ぐ子がいれば我が国は周辺諸国と親戚関係を維持できるのだからな。だからこそ、王妃の血を引く我が息子たちが成人して王位を継承できるようになるまで、私は死ぬわけにはいかないのだ」
「でないと、自分が殺されたら王位継承権を持つ子どもも殺されちゃうもんね。王様をするのも大変だ。そういえば今回の新法もフオル国に対抗するために施行したの?」
「新法を知っているのか?確かに、あれはフオル国に対抗できるだけの軍事力を装備するため、そして有能な人材を採用するために施行した。それをしなければ我が国は滅ぶ。だが、そのことを理解出来ている者は少ない」
王が深くため息を吐く。
「でも理解している人もいるよ」
ジンの言葉に王が肩の荷が下りたように軽く笑う。
「そうだな。少なくともジンやアントネッロ卿は理解をしてくれている」
「他にもいるでしょ?」
そう言うとジンは周囲を見回した。
食事をしている二人を静かに見守る従者たちの顔は皆、同じように忠誠心に溢れている。全員が自信を持って自分の主に仕え、そのことを誇りにしていた。その姿は親衛隊の騎士にも負けないぐらい堂々としている。
王は当然のように微笑んだ。
「当然だ。私が選び抜いた者たちだからな」
「でも、ちゃんと言葉にしないと伝わらないこともあるよ。あ、これの、おかわりある?」
ジンが空になった皿を指さしながら振り返り、後ろにいる給士係に声をかけた。皿には、かなり大き目の塊肉があったのだがソースさえも残らず綺麗になっている。
またしても場の雰囲気をぶち壊したジンの言動に、給士係はワンテンポ遅れたものの平静を装って次の肉を乗せた皿をジンの前に出した。
「わぁ、準備いいね。ありがとう」
喜ぶと同時にジンはナイフとフォークで肉を解体して口の中に放り込んでいく。
その様子に王は沈んでいた気持ちを忘れて笑った。
「それにしても、よく食べるな」
「魔力を極限まで使わされたからね。いくら食べてもお腹が空くんだ」
「では、本日は好きなだけ食べればよい。そういえば、この度のことについて褒美を授けようと思うのだが、欲しいものはあるか?」
「んー、すぐには浮かばないから後日でもいい?」
「あぁ。思いついた時に言ってくれ」
「わかった。あ、水のおかわりも頂戴」
ジンが言うのと同時に給士係が空になったグラスに水を注ぐ。
「やっぱり、パトリッツォは恵まれているよ。こんなに有能な人が側にいるんだから」
笑顔で話すジンに王が笑顔で同意する。
「あぁ。皆の者、これまでよく仕えてくれた。そして、これからもよろしく頼むぞ」
王の言葉に従者たちは一瞬、目を丸くしたが、すぐに慇懃に一礼をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます