第21話 無実の証明の裏で

 ファツィオがリアと共に中庭へ移動していた頃、ジンは王城で王と昼食を食べていた。


「この度は大変だったな」


 王の言葉にジンが頷きながら皿の上にあるパンを手に取った。


「そうだよ。ファツィオは説明も無しに突然、椅子に座っている間は全てのことを記録して下さい、って言うんだよ?あんなことになるなら映像記録魔法が使えることを話すんじゃなかった」


「ジンの世界の魔法は非常に興味深いな。この世界にはない魔法が沢山あるようだ」


「まあね。魔法技術はこの世界よりずっと進んでいたから。でも、こんなことになるなら私の世界の魔法は封印するよ。もう面倒ごとは嫌だからね」


「それは残念だ。だが、その進んだ魔法技術のおかげで、この度の事件は早急に解決できそうだ。ジンの協力に感謝する」


「だから、好きで協力したわけじゃないんだって」


 ジンが拗ねた表情のままパンを口の中に入れる。


 ファツィオの無罪を証明した映像を元に、再び宴会の出席者への尋問がされると、デルヴェッキが王の暗殺を計画したという証言が少しずつ出てきた。


 そして、監査に入ったデルヴェッキの屋敷からはファツィオが渡された毒薬と同じものが発見され、このことによって主犯はデルヴェッキと確定された。そのためデルヴェッキは現在、審判中である。


 ジンは映像魔法を発動させていた時のことを思い出して苦い顔をした。


「魔法を発動すると魔力を吸い取る縄に括られたまま映像記録魔法を発動させるんだから、魔力が枯渇して死ぬかと思ったよ」


「あぁ、それであのような屍となっていたのだな」


 王は証拠としてファツィオに連れられて登場したジンの様子を思い出して納得した。


 豪華な椅子に魔力封じの縄で括られたジンは腐敗臭が漂う一歩手前の屍のようだった。

 イラーリオの屋敷からファツィオの屋敷まで自力で帰ったため、全ての魔力を使い切った結果だった。それが謁見の間で縄を解かれて映像の再生を始めると同時にどんどん生気が戻っていったのだ。


「まるで枯れた草が水を吸って蘇っていくような光景だったな」


「誰かさんは、まともに見てもくれないぐらい酷い状態だったみたいだしね」


 ジンが拗ねたように言った言葉に王は思わず苦笑いをした。謁見室でジンを見た時に速攻で視線を逸らしたことを根に持っているらしい。


 王はそうなった原因について訊ねた。


「だが、どうして魔力封じの縄で括られていたのだ?」


「ファツィオが何も起きていないのに魔法を使っていることが分かったら相手に警戒されるからって、相当近づかないと魔力が検知できないようにするために魔力封じの縄で縛ったんだ。本当、酷いよ」


 グチグチと文句を言っているが本気で怒っている様子はない。王は年齢の近い友を宥(なだ)めた。


「まあ、まあ。アントネッロ卿もジンの人柄と魔力を見込んで、そのような計画をしたのだろう?ジンでなければ出来なかったことだ。寛大な心で大目に見てやっては、どうだ?」


「えー、しょうがないなぁ。財布の主の命の危機だから協力したけど、本当に今回だけだからね。でもパトリッツォも大変だね。あんなに簡単に暗殺されそうになるなんて」


「まあ、私の場合はお飾りの王だからな。重要なのは王妃なのだ」


 ジンが口の中をパンでいっぱいにしたまま質問をする。


「どふいふこと?」


「パンは逃げないから、もう少し落ち着いて食べたまえ。ジンはあまり我が国のことについて知らないのだな。どこから話すか……」


 王は少し考えると軽く頷いてジンを見た。

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