第11話 結婚
翌朝。
いつも通りジンとリアが朝食を食べているとファツィオが現れて、にこやかに言った。
『本日は結婚の報告をするために城へ行きますので、一緒に来て下さい』
突然の重大発表だが、二人は手を止めることなく食事を食べ続けている。
少しの間を置いて、ジンはグラスに入っていた飲み物で口の中にあった食べ物を流し込むと、ファツィオに笑顔を向けた。
「それは、おめでとう。これから結婚式の準備で忙しくなるね」
『はい。ウェディングドレスは三日後に出来上がるので、四日後に式を挙げる予定です。式は私の領地で行いますので、明日には移動します』
「それは忙しいね。私は邪魔にならないように、ここにいることにするよ。それとも新婚さんの邪魔にならないように宿に泊まろうか?」
ジンの提案にファツィオは細い瞳を丸くした。
『何を言っているのですか。花嫁のいない結婚式などありえないでしょう』
ファツィオの爆弾発言の意味をジンが理解するまでに数秒を要した。それだけ理解不能であり、容認しがたい言葉だったのだ。
ジンが非情に珍しく口の端を震わせながら訊ねた。
「えっと……今の言い方だと、ファツィオと結婚する相手は私なのかい?」
『当然です。私の声が出ない以上、通訳であるあなた抜きでは生活していけません。こうなってしまったら結婚するしかないでしょう』
温和なジンが素早く立ち上がって抗議する。
「待って!それはリアが魔法を解いたら解決する問題でしょう?あ、同性の私が結婚するより、リアと結婚した方が良いよ!そうだ!リアが結婚したら良い!リアも読唇術が使えるし、そのほうが問題ないよ!」
ジンの言葉にファツィオとリアが同時にお互いの顔を見る。そして微笑み合うとファツィオはジンに視線を戻した。
『と、いうわけで、ジン殿は私と結婚して頂きます』
「いや、待って!勝手に二人だけで目で語り合わないで!私にも理由を教えて!」
『ですから、理由は先ほど説明したではないですか』
「いや、リアではダメな理由を説明してよ!第一、男と結婚なんてありえない!!」
ジンの魂からの叫びにファツィオが不思議そうに軽く首を傾げた。
『男と結婚することに問題があるのですか?』
ファツィオの質問にジンが琥珀の瞳を丸くした。
「この世界は同性婚を禁止していないの!?」
『まあ、あまり良い目で見ない国もありますが、ほとんどの国では同性婚が認可されていますよ。我が国も拒絶はされません』
「子どもは、どうするの?同性婚だと子孫が出来ないでしょ?」
『養子制度があります。戦争や天災などで親を亡くした子はいますから、そのような子を育てている施設に行けば、養子候補はいくらでもいます』
ジンは頭を抱えながら椅子に座り込んだ。
「それは良い制度だけど、何かズレている気がするのは気のせいかな?」
『気のせいですよ』
ファツィオが良い笑顔と音のない声で断言する。
ジンは恨めしそうに顔を上げてリアを見つめた。
「あのさ、一生のお願いだから、ファツィオにかけた魔法を解いてくれない?」
話を振られたリアは朝食を食べていた手を止めて心外そうに言った。
「あら、ジンが解術すればいいじゃない」
「それが出来るなら、とっくにしているよ。君の魔法は魔力が強い上に独特だから手が出せないんだよ。一生のお願いだから解いて」
今にも拝みだしそうなジンに対して、リアはどこに持っていたのか羽根付き扇子を取り出して口元を隠しながら言った。
「嫌よ。こんな面白いこと、そうそうないもの。ジンのウェディングドレス姿も見てみたいし」
そう言って見せたリアの瞳は、それはそれは楽しそうに笑っていた。
リアの説得を諦めたジンの顔が引き締まる。その瞬間、ジンの足元に転移魔法の魔法陣が出現した。
『逃がしませんよ』
ファツィオの手の中から現れた数本の銀のナイフが、魔法陣の輝きを封じるように突き刺さる。そしてジンの後ろに控えていた執事が手慣れた動作でジンと椅子を縄でグルグル巻きに括り付けた。
『その縄は魔力封じを施しています。簡単には逃げられませんよ』
「何!?この手際のよさ!」
叫ぶジンの後ろで執事が頭を下げる。
「お褒め頂き、ありがとうございます。奥方様」
「奥方様はやめてー!」
小さな屋敷にジンの悲痛な叫びが響いた。
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