第27話 晴天の霹靂
ファツィオがデルヴェッキに加担していた貴族を全てあぶり出し、普通に家に帰れるようになったのは、あれから一か月後のことだった。
その頃にはジンと女性が週一回会うのは恒例のようになっており、二人ともほのぼのとした雰囲気で音楽や歌について語り合うだけだったので、ファツィオは中庭でのランチを止めていた。
一番の要因はファツィオが家に帰れるようになったため、リアがランチの差し入れをしなくなったことなのだが。
こうして一見すると平和な日々が半年ほど流れた、ある日。ファツィオに青天の霹靂とも言える噂が入ってきた。
ファツィオはその噂を耳にすると、すぐに王の執務室に飛び込んだ。
「王妃が懐妊されたとは、本当ですか!?」
ノックも無しに部屋に入っての第一声がこれである。
王は青い瞳を大きくしながら書類にサインをしていた手を止めてファツィオを見上げた。
「アントネッロ卿、もう少し声の大きさを考えたらどうだ?」
「あ、は、失礼しました」
指摘されて初めてファツィオは自分の軽率な行動に気が付いた。計算高いファツィオにしては珍しいことだったが、過ぎたことは仕方がない。
ファツィオは執務室のドアが閉まっていること、部屋に誰もいないことを確認して、もう一度訊ねた。
「王妃が懐妊されたと聞きました。本当ですか?」
おめでたい話題のはずなのにファツィオが神妙な声で確認をする。その意味が分かっている王はゆっくりと頷いた。
「あぁ。医師からは妊娠四か月だと言われた」
「よろしいのですか?王妃の体は……」
ファツィオの言葉を遮るように王が言う。
「彼女が望んだことだ。私には、このような願いをかなえることぐらいしか出来ない」
「王妃の望み……?まさか、王妃は!?」
そう言って部屋を飛び出そうとしたファツィオを王が止める。
「全て知っている。そもそも私が頼んだのだ。だから、ジンを責めるな」
ドアの近くまで移動していたファツィオは高速で回れ右をすると、執務机を両手で叩いて王に詰め寄った。
「頼んだ?どういうことですか!?」
王はファツィオの剣幕から逃げるように椅子から立ち上がると、窓の外に視線を向けた。
「私では彼女が本当に欲しいものを与えることが出来なかった。彼女はずっと自分を一番に想ってくれる人を求めていた。だが私は彼女にとって自分を利用した為政者でしかなく、求めている感情を与える人間でもなかったのだ」
「ですが、それは国のためであって、王族として生まれたからには仕方ないことだと思います」
「私もそう思う。だが、ジンに言われたのだよ。王族は幸せになってはいけないのか。王族も国民の一人なのに、と」
王の言葉にファツィオは何も言えなかった。
窓の外にある青空を見上げながら王は軽くため息を吐いた。
「私の血など重要ではない。重要なのは彼女の血だ。彼女の血を継いでいるのであれば、生まれてくる子は全てアルガ・ロンガ王家の子だ」
「……王がそのようにお考えならば、私はこれ以上何も言いません。ですが、ジン殿は一発殴っておきます」
「返り討ちにされないようにな」
王が止めなかったのでファツィオは口元だけで笑って頭を下げた。
「失礼します」
静かに執務室のドアが閉められた後、ファツィオが駆け出した音がした。一直線にジンのところに向かっているのであろう。
「私は部下に恵まれたな」
そう呟くと王は椅子に座って執務の続きを始めた。
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