第16話 学校


チチチ……



小鳥のさえずりと太陽の光で意識が浮上し、

目を開けると見慣れない天井が視界に入った。

「……ああ、そういえば今日から住むことになったのか」


あのおままごとから解放された後、ロッドに案内されたのは二階にある小部屋だ。ベットも机も揃えてくれていて生まれて初めて人間に感謝というものをした。

質のいいベットから起きると、床で小ドラゴンがスピスピとまだ寝ている。幸せそうな顔に、低血圧で朝は無表情な顔も緩んだ。


するとドアをコンコン、とノックする音と一緒にロッドの声が聞こえてくる。

「おーい少年!そろそろ朝食だぞー!」

「……はい!今行きます」


寝てる小ドラゴンを置いて、大広間のある一階に行くと、朝食を食べているエミリーが笑顔で手を振ってきた。

「おはよー リュウ!おとなりきてー!」

「はい、わかりました。失礼します」

イスに座ると美味しそうな朝食が出てきて目を丸くする。こんな高級そうな朝食は魔王時代以来だろうか。無意識に喉が上下する。


「ほ、本当に食べて良いんですか?」

「もちろんです!朝ごはんをきちんと食べて学校に備えてくださいね」

「……ぶー! がっこうはめんどくさいからいやだー!」

ミレーシアの言葉に、ほおを膨らませたエミリーがブスッと言う。その顔を見たミレーシアは肩を落とした。


「相変わらず学校が嫌いなのね〜、エミリーは」

「確かに勉強は好き嫌いが別れるからなー。俺も剣術は好きだったけど、学問は大っ嫌いだったし」

ロッドが笑いながら話す。エミリーはそっぽを向いてしまった。

「おべんきょーはつまんないんだもん!あそんでるほうがいい!」

プンプンと怒りながら朝ごはんのパンをガジガジ!とかじるエミリー。そこまで学ぶことが嫌いなのだろうか?




「じゃあ行ってらっしゃいー!」

ミレーシアに玄関で見送られ、エミリーと一緒に屋敷を後にする。横目にエミリーを見ると眉間のシワを寄せ、今だに不機嫌だった


「……むーー!」

「まだ怒ってるんですか?とっとと行って帰りましょう」

リュウは小ドラゴンと勉強グッズが入っているバックを持ち、淡々と話す。


「………………はぁ〜い」

リュウに言われ諦めた様に勉強グッズのバックを渋々と持つエミリー。五歳児ながら腹をくくったみたいだ。


レンガで綺麗に補装ほそうされた道を歩くと少し大きな石造りの建物が見えてきた。


「エミリー、あれが学校ですか?」

「……うん。おおきなトビラをノックするとあけてくれるよ」


まだ少し不機嫌そうなエミリーを放っておき自分の背丈の倍以上ある扉をノックすると、少ししてバタバタと青の服を着た短髪の青年が扉を開けてくれた。


「いらっしゃー……お、エミリーじゃねぇか!おはよう!」


ニコニコと挨拶する青年に、ついさっきまで不機嫌だったエミリーの顔が一瞬でパァァ、と明るくなる。


「おはよー、エイベルせんせい!しゅくだいキチンとやってきたよー!」

「おー、偉いじゃねぇか。よしよし!」


自慢げに宿題を見せるエミリー。そしてその頭を撫でる青年--エイベル先生と呼ばれる二人はとても仲が良さそうだ。エミリーは本当に嬉しそうに喜ぶ。


--どうやらエミリーはこの先生の事に好意を抱いてるらしいな。まだまだ五歳とはいえ女だといったところか。

蚊帳かやの外に出されたリュウが冷静に状況を分析していると、青年のエミリーに向いていた視線が不意にこちらに向く。


「エミリーと一緒に来たってことは、お前がミレーシア公爵の言っていた新入生の子供か。名前はなんて言うんだ?」


「俺は…………リュウと言う」


まだ慣れない自分の名前に戸惑いながらエイベルの問いに答えた。ちなみに世話になる公爵家以外には、敬語はあまり使いたくないので敬語は外した。


「リュウか!俺の名前は エイベル って言うんだ。お前のクラスの先生になるからよろしく頼むぜ!」

「ああ、よろしく頼もう」


軽くお辞儀をし合っているとエミリーがしびれを切らしていた。


「むーー!はやく きょうしつ にいこうよ!」

「おおっと……、確かにそうだな。でもリュウは俺と一緒に来てくれ。授業が始まる時に名前カードを服に貼らないといけないしな」


エイベルが気まずそうに頭を掻きながら言うと、エミリーがつい先ほど見た不機嫌の顔に戻った。しかしエイベルが相手だからか強く言えない様だ。


「ぶー……、じゃあ きょうしつ でまってるからはやくきてね!」

「はい、エミリー」


軽くお辞儀をすると、満足したようにエミリーは廊下を駆けて行った。

エミリーが教室に向かって走っていくのを見送ると、エイベルに職員室と言う部屋に案内される。中を覗くと大人の人間が七、八人程いた。


「じゃあ名札を取ってくるから待っててくれ。暇だったらそこら辺の本でも読んでてな」

「わかった……ん?」


本棚の本を適当に物色していると、『錬金術-使い魔の作り方』と言う本がリュウの目にとまった。

--ふむ、面白そうだ。確かに召使いが欲しいと思っていたところだしな。

本を取ろうとするリュウ。しかし一番上の列にあるため、身長が足りなくて届かない。

「く……そっ!あと……少…し!」

「どの本だい?このくまさんの絵本かな」


ピョンピョンと跳ねたり、小ドラゴンを飛ばしたりと試行錯誤をしていると、メガネをかけた緑髪の青年が話しかけてきた。


「いや全然違う、その隣の『錬金術』という本だ。面白そうだと思ってな」

「え? ……ず、随分と大人っぽい本を読むんだね」

「絵本などと言う何の発展性の無い本を読んでいるよりはマシだろう」


メガネの青年が少しドン引きしながら目的の本を取る。確かに五歳児に発言ではなかったか?

「……でも小さいのにそんな難しい本を読めるなんて凄いね。よしよし♪」

「……勉強は特別好きという訳じゃないが、知らない魔術を知れるのは嬉しいからな」

青年に頭を好き勝手に撫でられていると、ドタバタとエイベルが帰ってきた。


「悪い悪い、作るのに少し時間がかかっちまった。ほらよ、これがお前の名札だ」


エイベルの手には【リュウ】と書いてある紙のシールがあった。小さくなった手で悪戦苦闘しながら服に貼る。やっとの思いでシールを貼った頃には、いつの間にかメガネの青年はいなくなっていた。

--まぁ、どうでもいいが。


「お、貼り終わったか?」

「ああ」

「おしっ!じゃあ早く教室に行こう。エミリーにどやされちまう」


元気なエイベルを横目にさりげなくバックに『錬金術』の本をしまい込み、エミリーの居る教室に向かった

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