第8話 リザード城下町
やっとの思いで入れたらリザード城下町。
路上では子供が遊んでいたり、市場がやってたりと賑やかで優しい雰囲気だ。城下町にも貴族が住んでいる場所と町人が住んでいる場所とでだいぶ違うらしい。
ちなみに元魔王の男は--
「……人が多い。気持ち悪くなって来た」
今まで人に触れてこなかった分、早速人酔いをしていた。幸先が悪すぎる。五年も周りに誰もいない生活を送ってきたのだ。あまりの人の多さに長嘆する。
「うえっぷ……。だがここまで来たら絶対に魔導書と魔法石を買わなければ」
なんとか体制を立て直し、ふらふらと市場へ向かう。その足取りは酔っ払いと類を辞さないものだった。
「ねえ、そこの銀髪の男爵」
歩いていると後ろから声をかけられた。ここらの町人は皆、茶髪や金髪だから自分のことだろう。振り向くと騎士の格好をした黒髪の女がこちらを見据えていた。ポニーテルで歳は十代後半に見える。
--格好から察するにこの町の騎士の様だな
仕方ないが、下手に出てやろう。一瞬で特徴を見極め、今やるべきことを判断する。魔王は大きく口を開く。
「なんだ愚み……ゴホンッ!なんですか騎士様」
だが考え通りには行動できないらしい。少し口走ってしまい、内心慌てて誤魔化す。
しかし女の騎士は人の良さそうな笑みを浮かべる。
「ふふ、何も捕まえようとは思っていませんよ。気分が悪そうでしたので……大丈夫ですか?お手伝い出来る事ありますか?」
真っ直ぐな青い瞳でこちらを見る聖人君子の様な女騎士。うわ、性格が合わなそうだ。
「……少し人に酔ってしまってな。ここらはいつもこんな感じなのか?」
「いえ、いつもはもう少し静かですよ。今日は生誕祭があるから賑やかなんです」
「生誕祭……?」
どうやらその女騎士の話によると、今日は王の誕生日らしい。年に一度の大行事で、市民も騎士も大臣も大騒ぎをする日。そのため市場や武器屋が通常より早くしまってしまうだとか……え?
「な、な、なんだと!!?魔法石や魔術本が買えぬではないか!?」
魔王は驚きのあまり狼狽した様な大声を出す。
「ふわっ!びっくりしました〜……、何か買い物をしたいなら早めに行った方が良いですよ?もうそろそろ閉まる頃です」
「ああそうする!じゃあな!!」
別れの言葉を投げやりに述べ、風神の様な勢いで魔法石店と本屋に向かう魔王。置いていかれた女騎士は
「……ふふ、面白い人ですね」
--カランコロン♪
魔法石店の扉を開けると、扉に付いていた鈴から心地良い音が鳴る。店の中はアンティーク店の様な作りになっており、雰囲気がとても良い所だ。すると薄暗いカウンターの奥から人が出てくる。
「らっしゃい。何の魔法石が欲しいんだ?」
視線を魔法石の棚から、人に向ける。
「……人相悪すぎないか?」
「なっ!お前、人が気にしてる事を初対面で言うか普通!!?」
店の主人らしいその男は、顔に三つほどの傷があり目付きもかなり悪い。例えるなら盗賊の大ボスの様な顔をしている。いや、あの顔なら裏ボスもいけそうだ。
「ああ悪い、少し言いすぎたな。魔法石店より海賊の方が合ってそうだと思っただけだ」
「お前バカにしてんのかァ!!?」
常人なら直ぐに悲鳴が上がる様な脅し文句だが、魔王は動じない。マイペースに注文をする。
「そんな事より早く魔法石をくれ。欲しいのは超弱体化魔法石だ」
「はぁ!?お前が先に……………もう良い。超弱体化魔法石はそこの棚の奥だ。数決めてカウンターに持ってこい」
主人が大人な対応を見せ一件落着した様だ
どうやら話を聞かない奴なんだと諦めたらしい。賢明な判断だ。
主人に言われた棚を見てみると、緑色の魔法石が三つほどしか転がっていなかった。
「おい店員。魔法石は本当にこれしかないのか?」
「ああ。今はモンスターがたくさん出るってもんで、力の無ぇ市民達が沢山買って行ったのさ」
タバコを吸いながら答える店の主人。煙草が似合いすぎている姿に、本当に盗賊と勘違いされる日も近いと思う。
「じゃあこの三つの魔法石をもらおう」
「へい毎度〜。金額は50000パールな」
一瞬魔王の動きが止まる。
--パールとは何だ?そのまま貰えるのでは無いのか?
魔王は今まで買い物などは侍従に任せていたので金という概念がそもそも無い。ここに来て魔王生活と人と関わらない隠居生活が思いっきり裏目にでた。
「おい、どーした?5000パール」
「……パールとは?」
「はぁ!?何言ってんだ、あんた?」
主人から怪しむ様な視線を向けられ、慌てて誤魔化す。ここで怪しまれるのはマズイ、とても。冷や汗が流れる。
「あ、いや、その……カバンの中に入れてるんだがグチャグチャで分からなくてな。色とか特徴を教えてくれないか?ど忘れしてしまった」
「金の事を忘れるたぁいいご身分だ。……色はピンクや緑や青。魔法石と同じぐらいの大きさだ」
「『
主人の時間を止め、収納空間を魔術で出した
手探りで目当てのものを探す。
「確かオーガ森で猿を倒した時、そんなものを拾った気が……あった!!」
収納空間から出た魔王の手中には、ピンクの石が握られている。
「『
そう唱えると主人が何事もなかった様に動き出した。どうやら気づいていないらしい。
「お前今更払えねぇなんて言ったら兵士達に叩き出すぞ?」
「……これで良いか?」
恐る恐るピンクの石を主人に見せる。まぁ、間違ってしまってもそのままこの店主を殺して強奪すれば……いや、やめておこう。
「何だ持ってるじゃねぇか。じゃあ10000パールのお預かり、お釣りの5000パールだ」
--ほっ
表情には出さないが肩の荷が下りた魔王。流石に泥棒で捕まるのは避けたかった。
初めての買い物を終え次の目的地、本屋に足を進めようと店を出ると……
『いやあーーー!!誰か助けてーーーー!!』
『お母さん!!お母さん!!』
『うわあーーーーーーーん!!!』
『早く逃げろーーー!!モンスターだ!!」
「……む、ドラゴンか」
外に人間共を現在進行形で襲っているドラゴンがいた。
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