第7話 門の前でハプニング
「ふむ……、この服装で行くか」
鏡を覗き込む男--魔王は
森から五年間、一歩たりとも出なかったため人間達の服装がどの様なものかわからないのだ。よって商人達の服を丸ごとコピーして着ている。
「しかし城下町か……。オーガ森に落ちていた魔導書の本も全て読んでしまったし、ついでに買ってこよう♪」
魔王は目に見えてはしゃいでいた。その姿は魔王というより、お菓子を期待している子供の様だ。
「さぁ行くぞ!!『ループ』」
紫の魔法陣とともに魔王は自分の家から消えた。
「……あの小さく見えるのがリザード城下町か?」
魔王がループしたのは森の端だ。そこから見えるリザード城下町はかなり遠い。常人が歩けば一日かかるだろう。
「……バレない様、一度も森から出ないのが仇となったな」
ループは一度行った事のある場所にしか転送できない。思えば前の世界でも外に出ることがあまり無かったのでループ出来る場所が少なかったのだ。
「……仕方ない。『
魔王の身体が黄色の光に包まれる。すると力がみなぎってきた。
身体強化─────
文字通り身体の能力を活性化させる魔術。
昔の自分に付いていた筋肉が転生後に無くなっていたので魔王自身で作った魔術。
ただし効果は長く持たない。
「軽く走ってみるか」
地面を蹴ると周りの景色が早送りの様に流れて行く。リザード城下町もすぐ着くだろう。道中でちょいちょい魔物を踏んでいるが、気にしないでおこう。
「……ふむ?もう門が見えてきたな。そろそろ止まるか」
門から一キロぐらい手前で走るのを止める
魔術を使っていたのをバレない様にしないといけないからだ。
そこから門の近くまで歩くいて行き、門を開けようとすると何人かの門兵にすごい勢いで呼び止められる。なぜだ、幻術がバレたのだろうか?
「おい!何勝手に開けようとしてるんだ!!?」
「ん、開けてはいけないのか?」
首をかしげる魔王。目の前に扉があったら開けるだろう。なぜダメなのか、至極わからない。この街では扉は開けてはいけない、などというふざけた作法なのだろうか。
兵士は大声で怒鳴る。
「ダメに決まってるだろ!ステータスを俺たちに見せろ!!」
「……すてーたす?」
聞いた事のない単語だ。いわゆる身分証の様なものか?前世では聞いたことのない単語だ。
兵士はバタバタと足元に砂埃を上げながら、近寄ってくる。
「まさかステータスを知らないのか?」
数人の門兵がクスクスと嘲笑い、魔王の頭にハッキリと青筋が浮かんだ。手に持っていた杖をギリギリと握りしめる。
--落ち着け、落ち着け。この愚民を殺したら快適な隠居生活が台無しになるではないか。よし、あとでバレない様に殺そう、そうしよう。
「…………すまないがわからないな」
数秒で今の状況と対策を考え、実行に移した。殺気に気づかれないよう、出来る限りの笑顔を門兵に向ける。
「……まぁ良い、俺が田舎者のお前に教えてやろう」
クスクス笑われながら乱暴に腕を掴まれ、鏡の前に連れてかれる。汚い手で触られ、不愉快極まりないが全ては本を手に入れる為だ。我慢しなくてはならない。
────しかし、こんなにも人の首を吹っ飛ばしたいと思ったのは初めてだな。
鏡の前に立つと、映っている自分の胸あたりに文字がぼんやりと浮かび上がった。
「この鏡の前に立つと自動で情報が映るんだよ。なになに……は?魔お」
「『
門兵に向かって魔術を発動する。紫の光が辺りを覆い隠した。すると門兵全員の動きが完全に止まる。
「……今のは本当に危ないな。魔術を発動してなかったらアウトだった」
運動魔術────
物体の運動を操る魔術
『停止』の他にも『反射』や『屈折』など色々な種類がある。
『停止』の時は物体そのものの時間も止まる。
門兵をなるべく動かさない様に鏡の中のステータスを見る。運動停止している時の記憶は無くなるが、場所が動いてたら気づかれるかもしれないからだ。
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名前 魔王第585代目
年齢 身体 四十歳 精神 測定不能
Level 測定不能
HP 測定不能
MP 測定不能
攻撃力 測定不能
防御力 測定不能
称号
無知全能 魔術を知り尽くし者 孤独者
社畜
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「……見られたら怪しまれるどころか監獄行きもあり得るな」
常識に
「しかしこの程度の魔法道具なら簡単に操作できる」
ニヤリと
「……っと、あれ?なんか今、ボーとしてた様な?」
「確かに……。なんか忘れている感じがするな」
「まぁ良い。それよりステータス表は……ふんふん、こいつは普通の村人の様だな」
門兵達は若干の変化に戸惑いながら大門を開けた。これがこの国を守っていると考えると少々不安だが、今の自分には関係のないところだ。
「くだらない事は起こすなよ、田舎者」
「っん"ん……ああ。買い物を済ませたらすぐに帰る」
こんな所二度と来るか!と内心思いながら城下町に足を踏み入れる。しかしすぐに、魔術書がたくさん置いてあったらまた来よう、と思い直すのであった。
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