第33話 弱肉強食


「では遊戯ゲームのルールについて説明させて頂きます。聞いた後でも参加意思は変更可能ですのでご安心下さい」


愛想も何も無いディーラー1159は顔にある白布の下から話し始めた。


遊戯ゲーム名は『貸し物狩者ゲーム』ゲームです」

「かしものかりもの?」


聞きなれないゲームの名前だ。この迷宮だけのオリジナルゲームなのだろうか?


「ルールは至ってシンプルです。あちらの森にいるボスモンスターを倒せば、勝ちとします」


ディーラーは遠くに見える森を指差した。指摘された森林は周りの森とは一線を画しており、簡単に見分けが付く。葉が全く生えていなく、正にいばらの森だ。闇夜の中、遠くから見ても直ぐに見つけられる。


「しかし一度あの森に入ると、ボスモンスターに勝たない限り永遠に出てくることは出来ません。御注意を」


ディーラーは残酷な事をさらりと言いのけ、説明を続けた。


「さらに公平を期す為、皆様のお持ちになっている武器や装備は回収させて頂きます。レベルも白紙に戻り、1からとなります」

「……へぇ、俺のレベルも1になっちまうのか。あぁ、厳しいなぁ」


ポロスは全く感情の入っていない感嘆の声を漏らす。頭に手をやり、項垂れたポーズを取るが演技にしか見えず 困っている様には見えない。

しかしレベルを1に戻すなど、この迷宮でしか出来ない暴挙だ。煩わしい事をしてくれる。


「しかしそのまま無防備の状態では、直ぐにボスモンスターの餌食となってしまいます。その為、プレイヤー様にはを貸し出します」


ディーラー1159が指をパチリと鳴らし、何処かに合図を送る。すると暫くしてカボチャを頭に被ったネズミのような生き物が何匹か登場した。そのネズミ達はチョロチョロと動き回り、自身の身体の何十倍もある道具を何個か運んで来る。

机上に所狭しと置かれたのは、様々な道具であった。斧や笛、薬や剣などバラバラで全ての道具には一貫性がない様に見える。


「武器は今あるこの中から選んで下さい。魔術は各々の希望に応じて、私が与えます」

「お前はそんなことが出来るのか?あまりに常軌を逸している」


大きな疑問を持ち、ディーラー1159に問いただす。魔術、職業レベルを勝手に変えられる事など出来る人間は、存在するはずがないのだ。この世界でただ一人職業を変えられる神父でさえ、教会で特定の魔術を使わないと職業を変更する事が出来ないというのに。


「はい。この世界に置いて遊戯こそが唯一絶対のルール。そのルールの前では常識など、微塵の力もありません」

「……この迷宮は本当に狂っているな」


ゲームの為だけにレベルを1に戻し、魔術を付与するなんて、ホラ話でさえも聞い事もない。全く最高にイかれた世界だ。


「この遊戯に制限時間はありません。あの森の中に入るタイミングは各々でご決断を。なので、すぐあの森に向かわれても、万端な準備をされてから行くことも可能です」

「ははは。元々、この世界には時間なんて概念すら無いからな。時間を測る事が出来ないの間違いだろ?」


ポロスはニヤニヤとディーラー1159を煽る視線を送る。しかしディーラー1159はポロスの言葉を無視するだけであった。


「ルール説明はこれで終わりです。この遊戯のルールに同意されますか?」

「俺は何でも良いさ。同意する、同意する」


ポロスはすぐに同意をした。なら、あとはこちらの意思のみによって決まるという事になる。エミリーを見ると、首を大きく縦に振った。どうやら参加意思がある事を表している様だ。


「……こちらも同意しよう」

「お互いに同意を得られたので、この遊戯での勝負に決定致します。それでは開始しましょう」


ディーラー1159は手を真上に振り上げ、そのまま固まる。機械の様に動かずピッタリと固まった姿は、もはや生物には到底見えない。


「今回の遊戯は、全てにおいて『虚構』にまみれております。遊戯を真に理解し、『虚構』によって制した者が勝者となるでしょう」

「……なんだそれは。助言とやらか?」

「いえ、単なるディーラーの戯言としてお受け取り下さい」


ニコリ、ともしないディーラー1159は真っ直ぐに上げていた腕を下に振り落とした。


「素敵な遊戯を、そして皆様への幸運を陰ながら願っております。───遊戯『貸し物狩者ゲーム』開始します」


ゲームが始まったのだと、瞬時に理解した。ポロスを見るとバチリと視線が合わさり、何故かニヤリと笑われ舌を出される。ここまで来て、まだ余裕をかましてられるか。随分と舐められたものだ。


「俺は俺で勝手にやらして貰うぜ。まぁ、勝利の女神が微笑まん事を」


ポロスは胸の前でふざけた様に十字を切ると、森とは反対方向へ向かっていく。どうやらお互いに手の内は明かしたく無いらしい。


「……ふざけた奴だ」


本当に勝利を掴む奴というのは、勝利の女神に愛されている訳でも、崇高な思いがある奴でも無い。泥水を啜り、何を犠牲にしてもある物を得たいという 正に勝利に執着した奴がなるのだ。

俺から見たら勝利の女神が微笑むのを待つより、勝利を死に物狂いになって自分で掴みにいく奴の方がよっぽど価値がある。


「……勝利の女神があいつに微笑むというのなら、女神の首を切り落とし こちらに微笑ませるまでだ」


どうやら自分が思っている以上に、自称神に対して憎しみがたまっている様だ。この発言を教会に聞かせたら、どうなるのか。それも一興かもしれないな、と思い微笑を浮かべた。

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