第17話 決闘
エイベルに連れられ目当ての教室の前まで来ると、教室が騒がしくなった。リュウ少し待ってて、と言われエイベルだけが教室に入っていく。
「おーい、早く席につけー!」
「あっ!エイベルせんせー、新入生ってほんとー?」
生徒の一人が目をキラキラさせながらエイベルに問う。そこまで期待するな、と大声で叫びたくなった。
「ああ本当だ。でもみんなが静かにしないと紹介できないぞー」
その一言を聞いた生徒達は、素早くそれぞれの席に着いて静かになった。余程気になっているようだな。
「よーし静かになったな!じゃあ入っておいでー!」
「……はい」
エイベルの声を合図に教室のドアを開けると、たくさんの期待の視線がこちらに向いていた。心なしか女子からの目線が熱いような……?とりあえず黒板の前に移動すると小声でエイベルに 自己紹介をして、と言われた。
--ちっ、めんどくさい。
「……名前はリュウで年は五、六歳。以上だ、反論は認めん」
リュウは淡々と短すぎる自己紹介を済まし、自分の名前が書いてあるエミリーの隣の席に座った。五歳児らしからぬ自己紹介にエミリー以外の全員がボー、としている。
教室に微妙な雰囲気になるが、嬉しそうにこちらを見てくるエミリーは気づいていないようだ。
クラスメイトからの第一印象は最悪だろうが、馴れ合いたい訳でもないしこれぐらいが丁度いい。持ってきた魔道書を開き、無視を決め込む。
「あ、え、えーと、新しい仲間だからみんな仲良くしてあげような!エミリーはリュウに色々教えてあげてくれるか?」
「はーい!なんでもきいてね、リュウ!」
「……はい」
エイベルが無理やり雰囲気を和ませ、授業がスタートした。一時間目は男子は剣術、女子は裁縫だそうだ。
「じゃあリュウは学校の剣術装備を貸し出すから、それに着替えてくれ。女子は裁縫セット忘れるなよー!」
エイベルが先生らしく指示を出すと、生徒それぞれが授業に向けて準備を始める。剣術装備を受け取ると、裁縫セットを持ったエミリーが話しかけて来た。
「リュウ、けんじゅつ がんばってねー!」
「はい。エミリーも針で指を刺さないように気をつけて下さい」
「むー!ささないもんっ!」
「コラッそこ!イチャイチャしないで移動しろー!」
エイベルの声にエミリーは渋々、裁縫室へ向かう。少女は扉の前で振り返り、片目を軽く閉じる。所詮、ウインクというやつだ。
「はーい。……じゃあまたあとでね!」
「ええ」
爽やかな笑顔で裁縫室に向かうエミリーを見送り、自分も剣術場へ移動する。その時鋭い目線でこっちを見ていた子供に、リュウは全く気づけなかった。
戸惑いながらも装備を着け終わり、木の剣を持って剣術場へ行くと、一番最後に来たからか、鋭い視線で金髪で体のデカイ子供--クラスメイトから睨まれる。
--まだ会って数分なのにここまで敵対視してくるとは 、 世界滅ぼそうと思ってない魔王を倒す勇者ぐらい理不尽だな。……慣れたものか。
--まぁ、遅れたのは事実なので、エイベルに一応謝ろう。
睨んでくる子供の前を素通りし、エイベルに話しかける。
「装備に手間取った。すまない」
「いやいや。それどころか初めてなのに着けられるなんて凄いぞ! お前は頭が良いんだなー」
怒られるか?と予想していたが頭を撫でられ褒められた。横目で見ると、ガン飛ばしてきた子供が不機嫌そうに木刀を殴っていた。
しかしそれに気づかないエイベルは大声で生徒に指示を出す。
「じゃあ今日から剣術は少し早いが実践に移る。ためしにみんなペアを決めて順番に戦ってみろ!」
「「「はーーい!!」」」
二十人ぐらい男子達がそれぞれがペアを楽しそうに決め、早い奴はもう試合をしていた。
だがそう言う俺の周りには--まぁ、言わなくてもわかるだろうが先程のクソみたいな自己紹介によって一人も来ない。これがいわゆる、ぼっちと言うやつだろう。五歳児相手に怪我させたらめんどくさいし、エイベルとやりたいから別に良いのだが……。
すると、エイベルが困ったようにリュウの近くに来る。
「リュウは剣術が初心者なのか?」
「……いや、適度にやった事はある」
「じゃあみんなと混ざってみようか。誰か余ってる奴は手を挙げろーー!」
「はぁ……?」
止めようとしたが、エイベルが声をかける方が早かった。エイベルの声にザワザワと騒がしくなるが、気丈夫そうな少年がスッと手を挙げた。
--げっ、居るのか!
「じゃあアダムとだな!ほら行ってこい!」
エイベルに背をバシバシと叩かれ、渋々少年の前に行く。目の前に立つとその少年は自分より五センチ程、身長が高かった。
「アダムです。よろしくお願いします」
目鼻立ちがキリッとしており、無表情な少年?(青年にも見えるが……)が丁寧な挨拶をしてくる。
「えーとアダム?だったか。よろしく頼む」
「はい。……じゃあ試合の場所に並びましょうか」
渋々アダムに連れられ試合場へ並ぶと、中々長い行列が出来始めていた。この分だと試合をするのは後の方になりそうだ。
「ここに必ず並ばないとダメなのか?」
「はい。実践で戦う時、十五歳以下はここで戦わないといけないんです」
目だけをこちらに向けながら話すアダム。堅物のようだな。
「……ふむ。ちなみにお前は何歳なんだ?」
「貴方と同い年ですが」
持っていた剣を落としそうになった。無表情のまま答えるアダムは、とても同い年には見えない。
--まさか……この子供も中身は大人なのか?
そんな事を思っていると後ろからドンッ!と押され、危うく転びそうになる。後ろを向くとさっきの睨んできた奴らがいた。
「あーあ、手が滑っちまった」
真ん中のガキ大将がそう言うと、周りの取り巻きがクスクスと笑いだす。その顔はまるで潰れた蛙のように醜い。ほほう、これが いじめ なのか。前世では身分の為受けたことはなかったいじめを体験し、純粋に感動してしまう。
すると無表情だったアダムがゴミでも見るような目つきでガキ大将達を見た。
「人を後ろから押しておいて、その言い草はないのではありませんか?」
「あ"ー?お坊ちゃんは黙ってろよバーカ!」
「黙るのはそちらです、低脳のことしか言えないダメ口をさっさと塞いでください」
「うるせー!!ガリ勉やろーー!」
俺を挟んで口撃戦が繰り広げられる。どちらの声も騒々しくて耳障りだ。こういうのはさっさと終わらせるのに限る。
「おい、ガキ大将」
「俺の名前はガキ大将じゃねぇ、エドガーだ!」
今にも襲いかかって来そうな勢いでこちらを向くガキ大将--エドガー。
「どっちでも良い。さっさと試合場に上がれ、勝負するぞ」
「はぁ?なんでだよ」
首をかしげるエドガー。確かに低脳と呼ばれるだけのことはあるようだ。馬鹿そうだ、この子供。
「長々と口喧嘩するよりもさっさとケリをつけられるからだ。お前が勝ったら俺が謝り、俺が勝ったらお前が謝れ」
「……へへっ、良いぜ。まぁ、俺が負けるなんて考えられないけどな!」
変に自信がありそうなエドガーに違和感を覚えていると、後ろからアダムに耳打ちされる。
「あいつは腐った性格をしてますが、一応騎士の息子です。しかも年は貴方の三つ上。勝てる要素がありませんが大丈夫ですか」
「……むしろ勝てる要素しかないが」
「はい?」
「いや、こちらの話だ」
ちらりと教師のエイベルを見ると、何故かワクワクとした表情でこちらを見ており、一応教師の癖に止める様子がない。
--だが、むしろ好都合だ
「おいさっさとしろ!怖気ついたか!?」
試合場にいるエドガーを睨みながら、誰にも聞こえない声でぼそりと呟いた。
「……黙れ、小者が」
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