マーシャル公爵家との出会い
第13話 新しい家?
空中浮遊で移動し続けてはや六時間。
何だか目眩・吐き気がして来た為、人気のない土地に身体を降ろした。本でしか読んだことがないが魔力切れというやつだろうか?
そういえば今もう夕暮れ時だというのに、朝から何も食べていない。フラフラするのはそのせいだろう。
亜空間から小ドラゴンを出すと案の定、ぐったりしていた。しかしこの身体と今の状態では食べる為に猛獣を仕留めるのは流石に厳しい。
「どうしたものか……」
「ねぇねぇ、きみどこからきたの?」
「うおおお!!」
びっくりして思わず腕に抱えていた小ドラゴンを地面に落としそうになる。振り向くと声をかけて来たのは自分と同じ五、六歳ぐらいの金髪少女だという事がわかる。
「わたしのなまえはエミリー!おとーさんたちとのピクニックのかえりなんだ。きみもピクニック?」
--落ち着け落ち着け。この時こそあの本に書いてあった事が役に立つでは無いか!
あの本とは、リザード城下町の本屋で何気なく買った【礼儀と言葉遣い】という本だ
幼い頃から魔物界のトップとして生まれて来た魔王は敬う相手などいる訳がなく、敬語など使った事がなかった。しかしこれからは人間とのコミュニケーションを取らなければ不便な為、渋々読んでいたのだ。
「違い……ます。ピクニックじゃなくて……旅をしています」
できるだけ不自然にならない様に慣れない笑顔で答えた。するとエミリーは目をキラキラさせながらパチパチと手を鳴らす
「ふえーすごいね!……あれ?あなたのおとーさんとおかーさんは?」
「え、えーと……」
答えに行き詰まっていると遠くの方から女の声が聞こえる。
「エミリー!エミリーは何処ですかー?」
「あ、おかーさんだ!おかーさんーー!!」
エミリーは女の声のする方へ走っていった。視線をそこへ向けると、三、四人の男女が立っていた。どうやら保護者らしいが、ゾロゾロとこちらへ向かって来る。
「へぇー、君はエミリーの友達?初めまして俺の名前はロッド。この子の父親だよ」
父親らしい金髪と青い瞳をした人間の男が丁寧に一礼する。慌ててこちらも一礼した。
「は、初めまして。我……じゃなくて!俺の名前は……………………あれ?」
「ん、どうしたんだ?」
ロッドが不思議そうに覗き込んで来るがそれどころでは無い。……そう名前が自分には無いのだ。
--今まで呼ばれる時は魔王だったし、こちらに来ても名前を呼ばれる機会はなかった。くそっ!本当のことを言うしか無いな
「すいません。……俺には名前が無いんです」
それを聞いた周りの人間の大人達がザワザワと騒がしくなる。疑っているのか?
--仕方ない、作り話で誤魔化すか。
「お、俺は遠くの村を追い出されてここに来ました。両親?ってやつもいません。一人で旅をしてたから名前も忘れてしまいました」
--よしっ!どうだ、この即興哀れな子供作戦。見た目が子供で本当に良かった!これで怪しまれずに済む。……しかし反応が薄いな。もしかして演技とバレたか?
チラリと大人達を見ると--
「なんて可哀想な子なの!!?」
「うぶ」
突然胸の大きな女に抱きしめられ変な声が出る。よく見ると周りの人間たちも悲しそうな目をしている--チャンスだ!
「…それに旅の最中に食料が底をついてしまいました。どうか食料を貰えませんか?」
「ええ、ええ!!絶対に貴方を助けてみせますわ!公爵家の端くれとして約束いたします!」
--公爵家?
「申し遅れましたわ。私の名前はマーシャル・ミレーシア。ここらの土地を治めているしがない公爵です」
「……公爵」
--なんだか嫌な予感が。
「ぜひ我が家においで下さい!食べ物でしたら家に山ほどありますわ!」
「え、いや。そこまでじゃ……」
公爵家なんて目立つ所に行ってたまるか!
「あらあら、遠慮しないで下さい。護衛さん達!この子を屋敷に送って差し上げなさい」
「「はっ!」」
「……え、ちょ、待って」
無理矢理つけていた敬語も取れる程動揺していた少年を、護衛兵達は軽々抱き抱え公爵家へ走っていく。
--とりあえず飯食ったら逃げ出そう
抱き抱えられながらそう思う少年だった
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