第24話 ピット器官

 ピット器官と呼ばれる、蛇の熱源探知サーモグラフィーの力によって小豆は大まかな状況を掴んでいた。

 まず下に複数人の侵入者それもバリケードを破ってだろう。数を数えるのも馬鹿らしいぐらいの数の害虫ペスターが侵入し来ていて、下に降りるのはほぼ自殺行為だ。

 だから、小豆はここに立て籠もるか、地下にエレベーターで降りるかを検討していたが、まずはアイリスとヨハクと合流したいと考えていた。

 ヨハクの対害虫ペスターへの特効薬のような力をもちろん、自身の力を維持するにはアイリスの力が必要だったからだ。

 合理的に小豆はそう考え、ほかの仲間の安否などは気にはしなかった。こんな世界でこんな状況だ、自分が生き残るためにはどうしたらいいか、それを考える。そう自分に言い聞かせた。

 そうしている間に事態は早送りしているみたいにどんどん流れていった。

 窓を割って、みるからに頭が行かれてそうな男が侵入してきた、その男はフロアを探すこともせずにすぐに屋上へと駆けあがっていった。

 上には確か、小百合とヨハク、アイリス、それと…………今井がいたはずだ。

 見るからに凶暴そうな男だ、追いかけていってやるべきだろうかと、悩んでいると発砲音に、叫び声が上がった。

「ビーちゃん!」

 状況を把握しようと、ピット器官が一番優れる蛇、びーちゃんを呼び出す。

 上には熱源が5人、うち一人体温が異常に低いのがいるが、たぶんそれはアイリスだろう。アイリスが人ではないとすぐに信じられたのはその異常な低体温が小豆には見て取れたからだ、

問題はもう一人、体温が徐々に低下している。

 問題はこれが誰なのかだ、もちろんあの凶暴そうな男ならいいだが、それ以外なら、一つ熱源が急速に近づいてきた。

 ハッと小豆は警戒すると、「うわぁああああ!!」という叫び声とともに今井が降りてきた。

 なんだ、と小豆はため息をつく。まぁいいとりあえず、上の様子を聞こう。

「今井さん、上はどういう様子です―――」

「ああうわぁ!ああああ、小豆ちゃんか。上はやばいよ、やばい奴が来て、やばいんだよ。ここはもうだめだお、逃げよう」

 今井はこちらの話を聞かずにエレベーターのボタンをガンガン叩き始めた。

 それにため息をつきそうになるのを我慢して小豆は、優しく。そうまるでファンに会うアイドルように朗らかに笑みを浮かべて聞いた。

「今井さん、落ち着いてください。何があったんですか?」

 そうそれはまるで地上に舞い降りた天使のような笑顔だ。

 それだというのに、

「何が、ていうか、うわぁああああ!」

 さすがの小豆もムッとしてしまう人がとびきりの営業スマイルを見せているというのに、振り返るとフロアに一体の害虫ペスターが迷い込んでいた。

 まったく、今更、あんな虫一匹如きにと小豆は蛇を展開する。

「―――っ!」

 爆炎が上がり、害虫ペスターが風船が割れるみたい爆散して肉片が飛び、今井が悲鳴を上げる。

 一体何が起こって、そう思っているとゆっくりとした足音で上がってくる音が聞こえる。

 びーちゃんの探知に寄れば人のはずだ。

 緊張の一瞬、…………現れたのは怜奈だった。

 今井と小豆はほっとするがそのただならぬ様子に、声をかけることが出来なかった。

 現れた怜奈は無言のまま、こちらを一瞥することなく、まるで何かに導かれるように屋上へと上がっていった。

 すると、すぐに爆発音が鳴り響き始めた。

 一体上がどうなっているのか、分からない。

 自分はどうすればいいのか分からない。ヨハクは、アイリスは無事なのだろうか、

「なんで、なんで来ないんだよ!」

 エレベーターのボタンを再度、今井が叩きだした。

 エレベーターはどうやら、地下一階に留まったまま、動いていないようだ。誰かが抑えているのか、それとも引っかかっているのだろうか。

 小豆は、今井が発狂したように叫び、ボタンを叩くように連打しているのを後ろから眺めながら、階段から上がってくる害虫ペスターを羽虫を落とす様に黄金の蛇で絡みつき、首を落としていく。

 とりあえず今は、耐えるしかないと思って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る