第18話 KING

 暗闇を駆逐し、人工の太陽のような光の輝きを放っていた世界は、いまや暗闇がまた広がっていた。人々は害虫ペスターを恐れ、光を落とし、寄り添うように鳴りを潜め、朝日を待つ。

 太陽がすべてを浄化してくれるんじゃないか、この悪夢のような世界は目を覚ませば、いつもの日常に戻るんじゃないかと願って。

 そんなかくれんぼしている時のような不自然な静けさを保つ世界にあってそこは異常に明るく、騒がしかった。

 そこはいくつもの倉庫を有する工場の一角。そのうちの一つのシャッターが開け放たれ、倉庫内には闇一つないんじゃないかというほど光に満ちていた。何かしらの音楽がかけられているのかドゥンドゥンという響く重低音が鳴っている。

 暗い世界にあって、光を灯し、音を鳴らせば、夜の闇に浮かぶ火にめがけてくる蛾のように、無数の害虫ペスターが集まってくる。

 世界を荒廃させた害虫ペスターが無数に集まってくる様は普通なら発狂して逃げ惑うところだが、彼らにとってはそんなことはないらしい。

「おらっ!ホームラン!!」

 一人が害虫ペスターの足を金属バットでうち、態勢を崩したところで、もう一人が飛びかかるように上段から金属バットを振り下ろす。スイカをつぶす様に害虫ペスターの頭をつぶす。

「おい、このリーマン、見てみろよ!いち、にぃーの、十万も持ってやがるぜ!」

 背広の内ポケットを慣れた手つきで探ると財布から札を抜き出し、ひらひらと手を振って喜ぶ。

「おいおい。まじかよ。おっさん金持ってんな。あっはははは、俺たちが使ってやるよ」

 上段からバットを振った少年とハイタッチをかわす。

 しかしその異常な行動は、ここで異常ではないのだ。

あるものはバットを、あるものは車を乗り回し、あるものは銃を構えている。そんな三者三様な少年たちに共通していることは、みな一様に目を血走らせ、何がそんなにおかしいのか哄笑しているということだ。

 明るい倉庫内にさらに明かりが灯され、重低音がまた一つ増える。

 倉庫内から一台のトラックが現れた。ハイビームをたき、荷台には装飾の施されたネオンがぎらついている。厳ついトラックの荷台の上に一人の丸坊主の少年が現れわれる。

 それでも暴れまわる少年たちの暴走は止まらない。みな。世界は自分を中心に回っているのだと言わんばかりだ。

 その光景を丸坊主の少年は睥睨した。特に気にした様子もなく後ろポケットに差したリボルバーを取り出す。警官となった害虫ペスターから奪ったものだった。

 それを片手で構えるまでもなくひょいと持ち上げ、躊躇いもなく引き金を引く。

 うるさい重低音のなかでも切り裂くように響く銃声、その後は風船がはじけるように害虫ペスターの頭部が引き飛ぶ。

「ワンショット、ワンキルってか」

 ヘッドショットという奴だ、それに暴れまわっていた少年たちが雄たけびを上げる!

「すげぇええええええええええええええ」

「さすが、俺たちのキングだ!」

「イースターのキング!」

丸坊主の少年はこうなる前からキングと呼ばれていた。

 イースターとは、なぜだが理由は分からないが、地元のゲームセンターの前にモアイ像が置かれているため、店舗名よりも地元民からはイースターと呼ばれていた。この少年はそこのゲームセンターのガンシューティングゲームでランキングトップなのだ、それでイースターのキングと呼ばれている。

キング!キング!キング!と連呼する声があがる。こたえるようにキングと呼ばれた少年がリボルバーを天に掲げる。

 それで歓声がやみ、みな一様にキングの言葉を待つ。

「おまえらさ、そろそろ缶詰ばかりで飽きてこねーか」

 そういって、キングは空いた缶詰を頬り投げる。カンカンと澄んだ金属音に混じって少年たちのそうだそうだという声が重なる・

「そこでさ、ちっとホーテにいかねー。菓子とかパクるついでによ。俺の女もいるらしいだわ、ほかにもいるらしいぞ」

 それに、本日最大の雄たけびが上がる。

「「「おんなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」

 盛りのついた猿みたいに騒ぐ少年たちをみて満足げにキングは笑い、叫んだ。

「おまえら、準備しろ!パレードと行こうぜ!」

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