第13話 開放
今井の腹の音がぐぅ~と響いたのを合図に皆それぞれ固まって座り、ヨハク達が持ってきたコンビニの菓子などを食べつつ、簡単な自己紹介とこれまでの経緯などを話して終えると、
「みんなちょっと聞いてほしいんだ。ちょっと峰岡君とも話しをしていたんだけど」
「ミリオでいいぞ」
「……ミリオ君とも話しをしてたんだけど、ここにこのまま籠っていてもじり貧。というよりももう物資がないに等しいだから、」
「こここ、このビルを出るってこと?!」
笹の話を遮るように今井が質問していきたのを、笹は朗らかに「そうじゃない」と前置きしてから、話をつづけた。
「いづれは出なきゃいけない時も来るかもしれないけど。その前にやることがある」
笹は、一拍間をあけ、深呼吸してから続けた。
「このビルを開放して、拠点化することだ」
「開放って?」
絵里奈の質問に笹は大きくうなづきながら、答えた。
「順番に説明しよう。このビルは5階と屋上、地下1階のまぁ7階に分かれている。うち、ここ5階と屋上はすでに開放してあるね。ほかの階は、あそこのシャッター見えるようにシャッターごとに区切られている。つまりそこの階の、……
「どうやってその
絵里奈の疑問は当然のことだった。なにせその
「そうだね。それについては、ヨハク君とアイリスさんの力を貸してもらうよ」
えっ、と急に話を振られて戸惑うヨハクに皆が一様に注目する。
「力の説明については、本人からのほうがいいかな、お願いできる?」
いや、出来ませんとも言えず、人生で今もっとも人に注目されれているかもしれない事態に
ヨハクは固まってしまった。何かを言わないと、口がぱくぱくと動くが言葉が出てこなかった。
それを見かねたのか、ミリオが俺からでもいいか。と前置きしてから前に出てくれた。
「ヨハクの力は、スノードロップといって、BB弾で
ミリオが自分の額にトントンと指を当てながら続けた。
「
「ありがとう、ミリオ君。普通なら到底信じらないことだと思う。そもそも
笹は周りを見渡し、反論が特にないのを確認する。
「ヨハク君の能力で力が付与された銃は、本人じゃなくても力が使えるらしい。みんなで武器を持って挑めは1階ずつなら制圧していけるとはずだ!みんなで
笹の話は終わったが、特に歓声もなければ拍手もない、ただいくら
皆が皆、周りの反応をうかがおうと気配を探っている中で、小豆が前で出てきた。
「いいと思いますよ。そのアイデア、私も一緒に戦います」
小豆の意見に押され、皆が考えを言い始めた。
「そのBB弾?ていうか、銃? 撃ったことないんだけど」
絵里奈がそういうと、葵と久美も続いた。
「私も……」
「同じく!」
「それも問題だけど、銃もBB弾もいうほどストックないだろう。どうする気だ?」
ゴンの意見はヨハクも感じていた。銃も一人一丁持てるほどなくBB弾にもそんなに余裕はなかったはずだ。
「ああっ、それについては」
「問題ありませんよ」
ミリオを遮るように小豆が答えた。そのままに、笹の横を通り過ぎる。
「まさか、こんなおもちゃが役に立つとは思いませんでした」
小豆がステージを囲むカーテンに手を伸ばした時に、あっとヨハクは思い出した。
ヨハクが初めて小豆を見た。
エアガンの専門メーカーである東京ゼロイのホビーショー開催と、今が旬のミリタリーアイドル
小豆が駆けるようにカーテンを引いていくとステージがあらわになる。
今朝まで使っていたのだろう、くしゃっと丸められた毛布と空のペットボトル、そしてその後ろにはライフル銃を思わせるパッケージデザインが印刷された段ボールがうずたかく積まれていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ステージの上にはずらりと銃が並んでいた。
ベレッタをはじめ、ヨハクが持つAK47やコルトパイソンが複数置かれている。そのなかでも目を引くのが、アクション映画に出てくるような大砲のように大きい銃ライフル型の銃が2丁、それに挟まれる形で新品ゆえのなのか光沢を放つヨハクの持つものと形は一緒だが、何かが明らかに違うAK47だ。
「じゃあ、今日のフォーメーションだけど」
笹が集まったみんなに説明を開始しようとしたとき、すっと小豆が手を上げた。
「えっ~と、小豆ちゃん。何かな?」
「そのことなんですが、何も全員で行く必要はないと思います。通路のいうほど広くないですし、フレンドリーファイアとか避けたいですし」
それに、小豆は一拍置いてから、
「基本、私がやりますよ。そのほうが早いですから」
と言い放った。
「なっ、」と絶句する笹に対して、ミリオは腕を組んだまま動じず、小豆に問うた。
「早いという根拠は?」
「私の能力は見てのとおり、蛇です。皆さんには黙っていましたが、一部蛇の能力が使えます。具体的にはピット器官。……えっと、ようは
「ふむ、なるほど。距離は?」
「階を跨いでは難しいですが、同フロア内なら、薄い壁ごし程度なら見分けられると思います」
「そうか、レーダー付とはありがたい。
「そうですね。マガジンの交換や撃ち漏らしがいたら、お願いするとします」
小豆の頑なな態度に、ミリオはさらに続ける。
「電動ガンとはいえ、数キロはあるぞ。扱えるのか?」
どうなんだ?というミリオの冷たい態度にも小豆はなんでもない。というように涼しい顔で答えた。
「これは次世代型電動ガン アブトマット カラシニコフ47 TYPEIII型。マガジンは90発使用、躍動感あふれるオートで動くダミーカート、本物により近づけるべこのためだけに新塗料を開発して、銃身もストック部分の木目調もさらなる質感とリアル感を再現。この冬発売の東京ゼロイ最新作」
ガチャン、と私を誰だと思っているんだと言わんばかりに小豆はレバーコックを大きく引いた。
さらに小豆の説明はさらに続く、
「それとこれは、レジデントデビルという海外のアクションゲームに登場する架空銃、スコヴィル U.02モデル。三シリンダー、フルオート最大・秒間約十発×三バレル=三十発。毎分約千八〇〇発を放つ。一度に三発を放てることから、
ヨハクそのごつさゆえに少年心をくすぐられて構えてみたが、非常に重く長時間持っているのは無理そうだった。それを二丁、小豆の黄金の蛇が絡みつくように持ち上げて見せた。
トライデント ランス二丁に、AK47を阿修羅のごとく持った小豆の異様な威圧感のままに、「問題ありませんよね?」とにこやかに笑って見せた。
それを見て流石のミリオも腕をほどいた。
「フィールドの妖精は伊達じゃないていうことか。俺たちは援護に徹しよう」
ミリオがそう言い切ると、
「あ、あずきちゃん。無理しなくてもぼぼぼ僕も参加するし」
「あああ、僕も僕も!」
今井に続き、グリもどたどたと駆け寄ってくる。そんな二人に小豆ちゃんと振り返り、花が咲くように微笑む。
「ええ、お二人ともありがとうございます!では私が撃ちますので、予備マガジンの交換をお願いしますね!期待していますから!」
完全な営業スマイルという奴なのだろうが、それで二人は脳をやられてしまったようで、「「はい!」」と元気よく返事をした。
二人ともマガジンの装填係にされているのだが、いいのだろうか。ヨハクは深く考えないことにした。
「ではヨハク先輩、お願いします」
小豆がヨハクに銃を差し出す。銃口が下に向けられているとはいえ、長身の銃が2丁も向けられるとかなりの威圧感がある。ヨハクはちょっと腰がひけながらも、銃身に触れ、能力を開花する。
死者を悼み、慰めの花を手向けるようにそっと心に咲いた
「綺麗ですね。こんなにも温かい光をしているのに、冷たい光です」
アイリスの光もそうだが、別に触れても熱くもなければ寒くもない。ヨハクのそれも一緒でミリオたちも別段、そんなことを言われてことはない。小豆が同じ
一通り、同じ手順で銃に付与していくとさすがに疲労感を感じた。額を触ると汗がびっしりとついていた。
「ヨハク、後は俺たちがやるから無理はするなよ」とミリオが早速声をかけてきた。
「うん、ありがとう。いざっていうときために一緒に行くけど、撃つのは任せるよ」
「大丈夫ですよ。私が殲滅しますから」
それを見ながら、ミリオがにっと笑って親指で指さす。
「まぁ俺たちの出番はもうなさそうだけどな」
そういうミリオにつられてヨハクも笑うのだった。
結論から言うと、全く危なげなく3階まで到達した。
笹が閉鎖したシャッターを一部開けると、静かな階段が見えた。みなが緊張に耳をそばだっているところを小豆はまるでそこに何もないのを知っているかのように無人の野を行くようにスタスタと歩いていく。正確には銃の重さのせいでヨタヨタとではあるが、少なくとも
そしてその真価は階段を降りきった時に現れた。直後に壁に隠れるようにして居た、音もなく襲ってきた
音におびき寄せられ複数体が群がって襲ってきても二丁に構えられた
「あっ、そこのカウンターの後ろに一体寝そべっているので裏から回ってください」
壁や棚、カウンター下に隠れていようが、小豆のピット器官の前では奇襲も通じつ、トライデントランスのドゥルルルッルという機械音だけがあたりに響いた。
阿修羅モードの小豆を止まられるものはなく、まさに蹂躙といった感じで次々と階を開放していき、カラカラララララという空撃ち音がなり、
「ふぅう、今日はこの程度にしておきますか。ヨハク先輩も疲れているようですし」
小豆が満足気にそう言い放ったのを聞いた男性陣、ヨハク、ミリオ、笹、今井、グリ、ゴンは小豆には逆らわないでおこうと心に決めたのだった。
首領・ホーテは、全5階・屋上(地下はスタッフオンリーの備品庫だ)で、フロアごとに商品ラインナップが決まっているのが特徴的だ。
1階から食料品、日常品、2階は家電、キッチン用品、3階はキャンプなどのアウトドア用品や下着などの消耗品的な衣料品が置かれ、4階は時計やブランド品、ドレスなどの
最終的には地下を含めた1階まで制圧したいところだが、まずは3階までとどまった。
いくつか理由はあったが、球切れとヨハクの体力の限界。それに、
「缶詰ゲット!」
底をついた食料品の入手という最大の目標が達成されたもの多い。
「お疲れ様。ごめんね、何の役にも立てなくて」
「そ、そんなことないよ。僕も実質何もしてないし」
3階までの安全が一旦確保されたので皆で降りてきたのだ。最初はおっかなびっくりではあったが、階を降りるごとに安心感が増したようで後で衣料品売り場にいこうなどかなり盛り上がっていた。
そんな中、ヨハクも小百合に労われ、今日の苦労が一気に吹っ飛ぶうれしさだった。
「とりあえず、缶詰を持てるだけもって上に行きましょう。あんまりここにはいないほうがいいです」
「そうなのか」
盛り上がるなか不吉なことを言い出した小豆に、ミリオが聞いた。
「ええっ、たぶんですけど、1階と2階はシャッターが下りてないですね。かなりの数がいると思いますよ」
それを裏付けるかのように、2階と3階をつなぐシャッターは若干ひしゃげていた。真ん中が盛り上がり、よく見ると人の頭の形に見えてくる。
気にしすぎかもしれない。
「な、なら早く戻ろうか」
「そうですね。そうしたほうがいいと思いますよ。一旦の目標は達成されましたし」
ヨハクもなんだか、嫌な感じがして小豆の言葉に同意するように言うと、皆一様に同意して、
念のため、途中3階と4階をつなぐシャッターを閉めなおしながら、イベントスペースまで退避することにした。
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