《始点のディフュージョン》⑥


「誰に聞いたの? 先生?」


 塚井先輩が、責めるようにして伊之へと訊ねた。

 伊之の推察は当たっている――だとすれば、それは誰かが漏らしたからだ。そう考えたのかもしれない。


「教師から訊いたのは、この部室の場所だけです。特に誰かから訊いたわけではありません」

「わわわわ……なら、こ、根拠とかって、あるのかなー、って。いやほら、正解か不正解かはあえて一旦おいておくとして、当てずっぽうならそれはそれですごいことだし!」

「っつーか合ってっから。こいつバカじゃないんじゃね?」

「……津臣が言う通り、ほとんど正解だよ。驚いたな。本当に、誰かから訊いたわけじゃないんだね?」

「逆に質問して申し訳ないのですが、先輩方はその件を多数の人間に言い触らしたりしたのですか?」

「……してないよ」


 伊之の質問に、新地先輩がぼそりと返答する。ほぼ内密の問題だからこそ、誰かから訊いたという可能性は潰えた。

 もし訊けるとするならば、それこそアニメーション研究部の部員の人からだろうけど、まず有り得ない。


 どうやら、伊之の考えは正解だったようだ。

 当てられるとは思っていなかったのか、露骨に部員の人達は焦っている。津臣先輩以外は、だけど。


「ねえ、伊之。あたしもちょっとわけ分かんないんだけど。何で分かったのよ」


 あたしの耳打ちを聞いて、伊之は全員へ分かるように、ゆっくりと語り始めた。


「……部活紹介の時、皆さんは随分と慌てているように見えました。リハーサルか何かでは問題なかったものが、本番になっていきなり問題が起きたのではないかと、俺は考えました」

「でも、それだと何が起こったのかハッキリと分からないだろう? それに、君は席から見ていただけで、僕らの様子とか会話を盗み聞きしたわけでもないだろうし。ほら、パソコンとかプロジェクターの不調かもしれない」


「最初はそう思ったのですが、多分違うという結論に至りました。リハーサルか何かで、プロジェクターとパソコンは使ったはずですし、一日二日で突然壊れるものでもない。そもそも、プロジェクターは事前に説明で使っていたので、問題ないことは明らかです。パソコンも、もし突然ダメになったとしても、他のものを借りればいい。それこそ、演台にあるパソコンとか。ですが、皆さんはそれをしなかった。ということは、パソコンとプロジェクターなどの機材トラブルではない――という考えです」


 そういえば、伊之は機材トラブルとは言っていたが、接続の問題ではないとも言っていた。

 色々あってそこで話は終わってしまったが、伊之は内心でそこから先を考えていたのだろう。


「次に考えたのは、アニメーション研究部の在り方そのものです。もしかしたら、皆さんの活動内容はアニメを観るのではなく、作る側――自主制作アニメに取り組むような部活なら、こうは考えませんでした。しかし、実際に皆さんと話してみて、前者であることがハッキリした。となれば、あの部活紹介で皆さんが何をしたかったか? 自明の理です。

「…………」

「しかし、現実問題としてアニメは流れなかった。更に機材系の問題でもない。だったら答えは一つしかないじゃないですか。当日、流す予定だったアニメのDVDが、何故か手元に無かったから、何もすることが出来ず終わった――そうでしょう?」


 あたしは背筋がゾクッとした。伊之が何かすごい、ということは分かっていたけど、やっぱり目の当たりにすると空恐ろしくなる。

 一体いつの間に、そんなところまで考えていたのか。

 っていうか、仮にも高校生の先輩達相手に、こうも堂々と意見を述べることが出来るっていう、その肝の据わり方もおかしい。


 正針部長含む部員全てが、伊之の推察を黙って聞いていた。単なる当てずっぽうや、勘で答えを出したわけではない。

 その場の状況や部の在り方を確認した上で、理屈で語っている。

 到底、実力テスト150点の中学生が出来るような真似ではなかった。


「あ、あー、でもね、でもだけどね? だからって盗難とか紛失って考えるのは……」

「もしDVDを部室に忘れたとか、そういう大ポカをやらかしたのなら、紹介の順番を前後してもらえばいい。その間に取りに行けばいい話ですし。誰かが持って帰っていて、持参するのを忘れた可能性もありますが……リハーサルでも使うようなDVDを、わざわざ逐一持って帰るでしょうか。この部はそういうDVDを収納出来る棚があるのに。そうなってくると、やはり不測の事態とは、どう足掻いてもその場では解決不可能な問題――盗難や紛失と考えました」

「他の――」

「他の作品を流すことは、多分許されなかった。ああいう学内のイベントは、事前に決めたことをきっちりと遂行しなければならない。仮に順番の前後までは許されても、リハーサル段階で決まっていたアニメ以外の作品を流すなど、許可が出ないのでは? というよりかは、許可が出なかったからこそ、何も出来なかったのでしょう。」


 塚井先輩が口を挟む前に、伊之が断じた。まるで誰かから確認でも取ったかのように、朗々と伊之は相手の質疑に応答している。

 学校見学が始まったばかりの、あのやる気のない姿勢はどこに行ったのか。

 ほんと……本気になったこいつは、すごい。


「円盤の盗難や紛失は、一人のアニメオタクとしては見過ごせない問題です。そう思ったからこそ、皆さんの力になりたかった。散々偉そうなことを言って申し訳ありません。しかし、これが俺の本心であり、嘘偽りはありません。どうか、力添えさせて下さい」


 最後に深々と頭を下げ、伊之はそう締めくくった。

 アニメーション研究部の方達は、やはり黙りこくっている。

 が、それらを見かねたのか、或いは最初からそうするつもりだったのか、津臣先輩がにやりと笑い出した。


「っべーわ。こいつ超面白くね? ありえねーって、マジで。こんなチューボー、あーし見たことねーし。アニタンって呼ぶわー」

「……何か、ズルしたんじゃ」

「それはないと思うよ、新地さん。それに約束は守らないと。そうですよね、部長?」

「え!? あ、えー……確かに!」

「頭、おかしいんじゃないの」

「……俺は」


「いやー、本当、あたし実はこいつの幼馴染なんですけど、こいつってば昔っからこんな感じで、もう色々とバカみたいっていうか! 塚井先輩の言う通り、頭おかしいです! でも、アニメが好きなのはマジですし、力になりたいってのもマジです。……なので、あんまりそういうことは、言わないでくれませんか?」


「……そう。仲良いのね、二人」


 それだけ言って、塚井先輩は口出しをやめた。

 柄にもなく、目上の人に噛み付いてしまった。けど、後悔はなかった。

 別に、こいつを庇ったわけじゃない。単に、悪口っぽいのが許せなかっただけ。

 空気が若干悪くなったのを察したのか、あわあわしながら正針部長がいきなり立ち上がる。


「じゃ、じゃあ! 阿仁田くんは謎のパワーで、自分らの問題を知ったみたいだし! 彼にことのあらましを……言うから! みんなはそれでいいかな!?」

「僕はいいかと」

「あーしもー。ってか、もしこれで解決出来たらマジでアニタンぱねーって」

「……無理だと、思いますけど」

「特に意見するつもりはないです」

「なら自分から言うので……あ、もし分からなかったら、その時は一路くんから聞いてね?」


 不安げに正針部長がそう前置きすると、伊之は黙って頷いた。

 深呼吸し、正針部長が棚からアニメのDVDのパッケージを一つ取り出す。そしてその表紙を、伊之へ見えるようにかざした。


「それは――『妄想代理人もうそうだいりにん』の一巻ですか こんさとし作品は大体観ましたが、俺は氏の作品は『東京ゴッドファーザーズ』から入りましたね」

「え、今敏監督知ってるの!? 阿仁田くん!?」

「知らない人が居るのですか? アニメーション研究部なのに」

「ははは……手厳しいなあ。僕含む四名、つまり部長以外は全く知らないんだな、これが」


 もちろんあたしも知らない。

 普段の伊之なら、それを聞いたら露骨に溜め息でもついて、こちらを馬鹿にするような顔でもしそうなものだが、流石に自重したらしい。


「既に鬼籍に入られていますが、素晴らしいアニメ監督の一人です。語るよりも観て頂いた方が早いですけども……それは正針部長に任せます。それで、『妄想代理人』を、皆さんは部活紹介の時に流そうとしていたんですね?」

「その通りなんだけどね……ご覧の有様で」


 悲しげに正針部長がパッケージを開くと、そこにDVDは収められていなかった。

 伊之の推察通り、DVDが盗難か紛失の憂き目に遭ったみたい。

 ふーむ、と伊之が顎に手を当てて何か考えている。「名探偵じゃん」と、津臣先輩が茶化していた。


「盗難なのか紛失なのか、それは分かっているのですか?」

「いやー、それも微妙なところで……。ま、まあ、これは自分の私物だし、痛むのは自分の心と財布なので、別にいいんだけども。せっかくの部活紹介を初っ端から台無しにしたってことで、さっき先生に随分と怒られたのだけが……ショックで……ああ……」


 椅子に崩れ落ちるようにして、正針部長がよよよと顔を伏せた。

 一路副部長曰く、物品の管理が出来ていないことも含めて、大目玉を食らったらしい。部活紹介の途中で、二人は呼び出されて叱られたそうだ。

 それが正針部長の弱メンタル――本人曰くである――には刺さったようで、思い出してぐったりしていた。


「元々、僕らはあまり立場の強い部じゃないから、こういうトラブルは避けたかったんだけどね。悪目立ちしちゃったのは、ちょっと良くないかな」

「いんじゃね、別に? どーせ来年も大して部員なんて来ないっしょー。あ、アニタンは来るんだっけ? マジ勉強ガチれよー? バカなんだからー」

「頑張ります」


 ほんとかよ。

 そうツッコミを入れたかったが、伊之が勉強を頑張ると言うこと自体、こいつのお母さんが聞いたら涙する案件なので、黙っておいた。


「とりあえず、反省文を後日提出するので、みんな自分に力を貸してね……」

「もう一度聞きますが、盗難として反省文を書くのですか? それとも紛失ですか?」

「え、あ、いや……そこってそんなに気になるの?」

「はい。話が変わってくるので」


 それはそうよね。盗まれたのと失くしたのじゃ、全く別問題だし。

 しかし、正針部長はまたも曖昧に返答を濁した。答えるのが嫌なのだろうか。


「……さっき部長は、紛失扱いにするって言ってましたよね」


 それを見て、新地先輩が助け舟を出す。正針部長が「まあ……一応」と頷いた。


「自分の不注意で、円盤を失くしたんだろうし……そこはそれでいいかな、って」

「なるほど。分かりました。なら、尚更DVDを見付けないといけませんね。これで見付かったら、本当に紛失していたとが立ちますし」

「引っ掛かるような言い方するのね」


 塚井先輩がまたも伊之に噛み付く。今更ながら、この人はよくいる、伊之と馬が合わない人種の一人なのだろう。

 しかし伊之は涼しい顔で受け流した。


「気に障ったのなら申し訳ない。盗難は大事おおごとですし、念の為です」

「まあまあ。でも、僕らだって一応は本気で探したんだ。見付からなかったけどね」

「その辺りの話を聞かせてもらえますか? 具体的には、いつ失くしたことに気付いたのか、そしてどこを探したのかなどです」

「わわわわ……本当に探偵みたいだあ。ええと、じゃあ話すけど、いいよねみんな?」


 特に反対意見はなかった。そこを伏せたら、確かに力になれるものもなれないだろう。

 こほんと咳払いして、正針部長が記憶を辿っている。一路副部長がフォローしたそうにウズウズとしていた。


「まずは、その……前日のリハーサルの時は、問題なかったんだよね。DVDは普通にあったし、流せたし。で、次の日……つまり今日だけど、自分らは昼休み、一緒にここで昼ごはんを食べてるの。今日も五人揃ってて、それで食べ終わったあと、この後の部活紹介の確認をしておこうって話になって、それで。えー、その時はまだ、円盤は確かにあったんだ」

「『妄想代理人』は、常に正針部長が持っていたのですか?」

「いや、実はそうじゃなくて、ずっとこの棚にしまってたんだけど……必要になったら、取り出して使ってた感じ」


 わざわざ持って帰るようなことはしていない、とのことである。

 この棚には色んなアニメのDVDがあるが、その大半は正針部長の私物らしい。

 部長としての威厳や能力は欠けているかもしれないが、アニメオタクとしては必要十分な人なのかも。


「とはいえ、部長以外は全く興味が無い作品なんだけどね」

「ってーか、誰もその『うんたら人』の内容とかわかんねーし」

「わたしも、趣味じゃないので……」

「同じく」

「ああ辛い……部長として辛い……。誰からも理解されないのが辛い……!」

「俺は理解出来ます。いつか語り合いましょう」

「阿仁田くん……いい子……っ!」


 二人が意気投合してる。なんだろうこの……モヤッとした感じは。

 らっこの風邪でも感染ったのかもしれない。

 話が逸れそうだったので、あたしは「それで、その後は?」と、続きを促しておいた。


「その時、ちょっと自分の強い推しで、『妄想代理人』を観ようってことで、プレーヤーで流したんだけど、誰も興味無くて……。で、昼休みが終わって、一旦解散」

「『妄想代理人』の円盤は、プレーヤーに入ったままだったのですか?」

「う……そうなんだけども」

「部室の鍵は? 昼休みが終わった後、施錠したのですか?」

「本来は自分がいつも施錠してるんだけど……今日はたまたま、自分が午後一移動教室で、先に部室を抜けることになってて……」

「しかし鍵を他の部員に渡し忘れた、と」


 伊之の指摘に、項垂れるようにして正針部長は首を縦に振った。

 やんわりと一路副部長がフォローに入る。


「結構あることなんだ。僕らだって、スペアキーを借りて、ここを施錠するべきだった。何も部長が全部悪いってわけじゃないですよ」

「しかし現実問題、施錠をしなかった結果、次に部室へ来た際に盗難が発覚したのでは?」

「先読みっべーわ、アニタン」


 伊之は、多分わざと『盗難』という言葉を使った。

 それを受けて、正針部長はただでさえ白い顔を更に青白くしながら、頭を抱える。


「あ、阿仁田くんの言う通り! 自分が部室に来て、いざ部活紹介の準備をしようとプレーヤーのトレイを開いたら! な、何故か『妄想代理人』のDVDは入っていなくて……! 何度もパッケージとか自分のカバンを確認したけど、見付からなく……!」

「なるほど。昼休みが終わってから放課後まで、部員の皆さんのスケジュールは?」


 罪の意識に苛まれる正針部長を軽くスルーし、伊之が淡々と進行する。

 いやそこはもうちょっと、慰めたり庇ったりするべきじゃないの。妄想うんたらってアニメの時は、親身に理解を示してたくせに……。

 まあ別にいいんだけど……。


「当たり前だけど、全員授業があるよ。それぞれの内容までは分からないけどね」

「…………」


 またも伊之が考え込んでいる。それを手詰まりと見たのか、正針部長がぽつぽつと一方的に語り始めた。既にその様相は病人のそれである。

 メンタルがすぐに顔色に反映されるタイプのようだった。


「い、一応、全員のカバンは調べさせてもらったし、部室内もくまなく探したし、今日の清掃で出たゴミ袋も全部確認したけど、やっぱり見付からなく……。これはもう、円盤に足が生えてどこかに駆け出してったとしか考えられないので……」

「あの、やっぱりそれって紛失じゃなくて盗難なのでは」

「じ、自分の不注意が原因なので、紛失だよ! そうなんだよ!」

「は、はい」


 意見したあたしに対し、語気を強めて正針部長が主張した。

 いまいちこの人が何を考えているのかが分からない。罪の意識がすごい、ということは分かるんだけど。

 あたし達がやり取りしている間に、伊之は手をすっと挙げて質問の体勢に入った。


「一つ確認させてもらっていいですか。今日の昇陽高校の時間割ですが、恐らくだった、という認識で間違いありませんか?」

「……そうだけど」

「何で分かったの?」


 新地、塚井先輩両名に返答をもらい、伊之が一人で納得した。

 短縮授業……つまり、いつもより授業時間が短い状態のことだ。

 大体は五分、稀に十分、各時間割の授業が短くなる。あたしの中学でもそれはあった。らっこがウキウキする日、という認識だったりする。

 授業が短いに越したことはないのだろう。


「今日の学校見学において、俺達は今自由時間となっています。その自由時間は、丁度皆さんの放課後の時間に合わせていると聞いていました。しかし、その前に部活紹介がある以上、皆さんは授業を抜け出す必要がある。ですが、それだと授業を受けない生徒が多数出てくるので、一律して放課後の時間を早めたのでは、と考えました。それに、見学で校舎を回っている時も、既に放課後前の雰囲気がしていましたし」

「すごいなあ。その通りだよ。今日は短縮授業で、しかも今日だけ普段より全学年時間割が一つ減らされるんだ。だから学校見学に関係ない生徒はさっさと帰るし、そうでない生徒はこうやって色々と準備するんだけど……」


 見学なんてちゃんとしてなかった割に、何でそんなことが分かるのよ。

 伊之は人の話を聞いていないようで、実はちゃんと聞いている。

 ならもっと誠実な対応をしろ、と言ってやりたい。


「なら、今日の部活紹介をする生徒のタイムスケジュールは、いつもより早い放課後を迎えた際に準備をし、その後部活紹介に参加、終わったら部室に戻って見学者の対応……という流れで合っていますか?」

「あー、掃除が抜けてんじゃね?」

「掃除、ですか?」

「今日は早く帰れる代わりに、校外から見学者が来るから、授業の合間に清掃の時間があるんだ。多分、君らが最初に体育館で話を聞いている辺りだと思うけど」


 ということは、伊之がまとめたタイムスケジュールに加筆すると、昼休み、授業、清掃、授業、放課後(前半)、部活紹介、放課後(後半)となる。

 あたし達が体育館で理事長の話を聞いている時、全校生徒は清掃をしていた。

 で、丁度最後の授業の時に、あたし達は校内をうろついて回る。

 その後部活紹介が始まるまでの間に授業が終わり、放課後の開始と共にすぐ準備して、一部の生徒は部活紹介に参加した……ってことかしら。

 多少のズレはあるだろうけど、おおよそ間違いないと思う。


「……その清掃は、皆さんもされたんですよね? どこを担当されたか、覚えていますか?」

「それはまあ、もちろん。自分は教室担当だったけど……みんなは?」

「僕も教室ですね」

「あーしどこだっけなー。忘れたー」

「職員室、ですけど……」

「音楽室」

「なるほど」


 何がどうなるほどなのか。あたしには全く分からない。

 ちらりと伊之は部室にある掛け時計を確認した。


「とりあえず、今から俺と莉嘉で『妄想代理人』のDVDを探してみます」

「え……あたしも……?」

「探すことを止めはしないけど、必死になって僕達は探し回ったからね? 見付からないってことは、多分そういうことなんだと思うんだが……」

「見付からなかったら、その時は俺の力不足です。それに、時間制限もありますし、期待に沿うことが出来るかどうかは、正直分かりません」


 自由時間は90分しかない。それが終わったら最後に集合して、解散の流れとなる。

 いつまでも校内を探すことなど出来ないし、そもそもあたし達は昇陽高校の生徒じゃない。軽く見て回っただけで、校内の全貌を把握しているわけでもない。

 そんな条件下で、たった一枚のDVDを探すなんて――


「では、一旦失礼します。行くぞ、莉嘉」

「あ、ちょっと! 待ってよ!」


 ――出来るわけ、ないのに。


 それでも、見付からないとは思えないのは、自分でも不思議だった。

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