《始点のディフュージョン》⑤



 部活紹介が終わるや否や、伊之は視聴覚室をさっさと飛び出していこうとしたので、あたしはこいつの手首を掴んで止めた。


「はいストップ!」

「何だ」

「何だ、じゃなくて! らっこが体調悪いみたいだし、まずは先生に報告してくるから。それに、アニメーション研究部の部室がどこにあるか、どうせ知らないんでしょ?」

「部室棟のいずこか、だろう。なら総当たりで済む」

「そんな面倒なことしたくないから、あたしが戻ってくるまで部室の場所を調べといて」

「……まあ待ちぼうけるよりマシか」


 不承不承といった感じだったが、伊之が頷く。

 どうやら、らっこは目覚めてから本格的にダメになったようで、あたしは介抱しながら引率の先生に彼女を預けた。

 朦朧とした状態でも「食堂……」と呟いていたのが、悲しいくらいに心に響く。


 それが目的でここに来たのだから、軽く見学した程度では満足いかなかったに違いない。どうにかして、お土産的なのを持って帰れないかな……?

 あれこれ考えながらもあたしが戻ると、伊之は先に腕組みしながら待っていた。


「部室棟の最上階、一番奥だ」

「マジで調べたんだ……」

「教師に訊いた。まず間違いないだろう。向かうぞ」

「ね、ねえ! 行きたいのは分かるけど、それって見学のつもりで行くのよね?」


 例の機材トラブルがあったせいで、アニメーション研究部は一切の紹介がされなかった。

 この部に並々ならぬ興味がある伊之は、一秒でも早く詳細が知りたいに違いない。


 けど、今の伊之は何というか、そんな単純な興味だけで動いているようには見えないのだ。

 それが気掛かりだったので、今にも走り出しそうな本人に直接確認する。


「無論そうだ。だが、トラブルの詳細も気になる」

「トラブルが気になるって……そんなのあたしらに関係ないでしょ?」

「関係ないだと? 結果的にアニメーション研究部は、一切の出番無く終わったんだぞ。そんなもの、俺にとっては機会損失としか言いようがないだろう。ならば今後の為に、何かアニメーション研究部の力になれないかと、協力を申し出るつもりだ。それでトラブルが解決したのならば、今日ここへ来た価値もある。よって、関係しかない」

「いやいやいや……あっちは現役の昇陽高校の生徒、一方であたしらは単なる受験生! そんなのお節介どころか、余計なお世話でしかないじゃない!」


 やっぱり、伊之は見学以外にも目的があったみたい。

 どう考えても見学に来た受験生が関与するものじゃないが、伊之にとってはそれこそ無関係のようだ。

 アニメーション研究部の紹介が見れなかったこと、そしてあの前の席の子に煽られたことが、よっぽど気に障ったのかも。

 もし、トラブルが発生したのが運動部だったとしたら、伊之は小指の先っぽすら動かさなかっただろうに……。


「向こうに拒絶されたのなら、別段無理に食い下がるつもりはないがな。それと、お前にはついてこいと言ったが、それもやはり無理強いはしない。他の部を見学したいのなら、俺のことは放っておいて好きにするといい」

「……。一緒に回るって約束したし。特に見たい部活もないから、付き合うけど」

「そうか。物好きだな」

「あんたさぁ、喧嘩売ってんの?」

「冗談だ。人手は大いに越したことはない」


 何その言い方……。「ありがとう」くらい言えこのバカ。

 限りなくダッシュに近い早足で、あたし達はあっという間に部室棟へと辿り着いた。部活によっては、部室棟の外で見学者達に声を掛けている。

 今日の見学者の何割が、来年入学するかは分からないが、将来の部員の確保をしておきたいのかもしれない。


 もっとも、伊之は声を掛けられても全部ガン無視し、さっさと部室棟の階段を上る。最初の見学では、部室棟は一階フロアしか見て回っていない。

 が、既に伊之の歩みは在学生に勝るとも劣らない、勝手知ったるような堂々たるものだった。無遠慮とも言う。

 場所を調べておいたのが功を奏した。

 迷いなくあたし達は、アニメーション研究部の部室前にやってくる。


「最上階で、しかも一番端っこって……追いやられてるイメージしかないんだけど」

「騒がしいよりも余程マシだろう。良い立地だ」


 妙なポジティブ加減がイラッとくる。なんだこいつ。

 伊之はコンコンと扉を数回ノックし、応答を待つ。「はい?」という声が、扉越しに聞こえた。


「本日、学校見学に来た者です。この度は是非アニメーション研究部を拝見したいと思い、部室訪問をさせて頂きました。入っても構いませんか?」

「そんな喋り方出来るんだ……」


 面接対策なんてこいつは一切やってないはずなのに、よく通る声で淀みなく言うものだから驚いた。

 向こうも突然の見学者にびっくりしているのか、ざわついているのが扉越しでもはっきりと分かる。

 十秒ほど間が空き、やがて「ど、どうぞ」という返答があった。

 伊之は扉を開き、「失礼します」と深く一礼する。つられてあたしも頭を下げた。


「初めまして。手束てつか中学三年、阿仁田 伊之と申します。よろしくお願いします」

「あ……えっと、同じく手束中学の馬越 莉嘉です。よろしくお願いします」

「うわわわわ……どうしよ、一路いちろくん」

「いやー、学校見学の時点で見学者が来るなんて、部が始まって以来の快挙じゃないですか! おっと、立ちっぱもあれだし、そこの椅子に座ってくれていいよ」


 印象としては、思っていたものと真逆だった。

 アニメーション研究部って言うからには、何ていうか……やっぱり、オタク系の太った眼鏡男子達が寄り集まっている、アレな空間だと思っていたのだけど。


 あたしの前でそわそわと落ち着かない先輩達は、その殆どが見た目の上では普通だった。

 っていうか、男女比がおかしい。男子一人に女子四人の計五人って、ブラスバンド部みたいな比率になっている。逆なら分からなくもないのに。


 案内されるがまま、あたし達は一路と呼ばれた唯一の男子部員の先輩に従い、パイプ椅子へと腰を下ろす。

 あたしは所在なさげに視線を目的なく彷徨わせたが、一方で伊之は品定めでもするかのように、部室内をあちこち見回している。


「素晴らしい」


 そして、伊之は口を開くや否や、賞賛の言葉を贈る。


「テレビにプレーヤー、それに棚に収められた円盤の数々……学校に居ながらにして、自宅と違わぬ環境でアニメを観ることが出来るなんて。こんな夢のような空間が存在していたとは」

「褒められてるよ、一路くん。大体はドン引きされる自分らの部活が!」

「これも快挙ですね、部長!」

「ねー。君ら何しにきたのー? ガチ見学―?」

「さ、先に、自己紹介とかした方がいいんじゃ……?」

「誰が誰だか分かんないと思いますよ」

「わわわわわ……そだね、そうだね。自己紹介がまだだったよね」


 部長と呼ばれているのは、黒い髪をポニーテールにしている、背の高い女性だった。ひょろっとしていて、伊之よりも不健康そうである。

 威厳とかそういうものは、失礼ながら一切感じられない。ただ、どことなく良い人そう。


「えー、自分は部長の、《正針まさばり 巳緒みお》です。現在高校三年生で……多分来年も三年生!」

「え」


 思わず声に出てしまった。黙って拝聴している伊之が羨ましい。


「それは言わなくてもいいんじゃないですか、部長!」

「あ、え!? ウケないの、これ……? 他のみんなは笑ってくれるのに……」

「多分それって苦笑いじゃ……」


 部員の一人からツッコミを入れられて、すごすごと正針部長は引っ込んだ。

 このやり取りだけで、まず間違いなく変人であることが分かった。それはそれですごい。


「おっと、次は僕か。初めまして、阿仁田くんと馬越さん。二年で副部長の《一路いちろ 乃生太のいた》です。今日はわざわざ、見学に来てくれてありがとう! 何のおもてなしも出来ないけど、部活名ぐらいは覚えて帰って欲しいなあ!」


 唯一の男子部員である、一路副部長。上着のブレザーを着ていないからか、シャツ越しに見える身体付きは妙に筋肉質だった。

 伊之に比べると、つまようじと丸太ぐらいの差がある。柔道部とか空手部と言われても、普通に信じてしまいそう。

 もっと言うなら、何でこの部に居るのか分からないようなタイプだ。

 明るくて社交的だし……。


「あー、次あーし? えーとー、二年の《津臣つおみ 周桜すおう》でーす。てーか変な名前だし、フツーにツオミーって呼んでくれればいっから。よろー」


 金髪とギャルメイクが眩しい、間延びした口調の津臣先輩。

 昇陽高校は結構その辺りに厳しい高校だと思ったのだが、校則とかそういうのは無視しているのだろうか。

 他の部員と比べても、明らかに浮いている。

 一路副部長とは別の意味で、この部に相応しくない感じだった。


「……一年の《新地あらち 愛子あたこ》です。よろしく……」

「《塚井つかい 心春こはる》。一年。別に覚えなくてもいいので」


 一年生は二人で、どっちも地味めな感じの人達だった。

 新地先輩は声量も背も小さく、おどおどとしている。一方で塚井先輩はハッキリと区切って喋るが、言い方がかなり刺々しい。

 どちらもメガネ女子であり、外見はちょっと似ているけど……性格は真逆っぽい。

 以上の五名が、アニメーション研究部の現部員らしい。曰く、最少人数の部活だそうである。


「何でこの部がずっと存続しているのか、自分もよく分かってないので……。あ、でも、新入部員は常に大歓迎! もし来年ここに入学したら、その際は是非に!」

「二人は昇陽高校が第一志望だったりするのかな? 専願? 併願?」

「あ、いや、あた……わたしはまだ考え中です」

「よく分かりませんが入学予定です」

「え」


 今度はアニメーション研究部の人達が、一様に声を出した。

 伊之は真顔である。横顔を見るに、本気でこの高校に入るつもりなのだろう。

 が、入学『希望』ではなく、『予定』という表現は意味不明である。

 まさか裏口入学でもするのか、みたいな顔を先輩達はしていた。私学特有の邪推かも。


「てーか頭いんじゃね? わりかしイケメンだしー」

「確かに! 阿仁田くんは勉強が出来そうだもんなあ! つまり、もう受験対策はバッチリってことか!」

「特に対策はしていません。必要なのですか?」

「え」

「ちょ、ちょっと伊之! あんたまさか、名前書いたら受かるとか思ってない?」


 煽っているわけでもなく、ましてやふざけているわけでもない。伊之の真顔に嘘はない。

 それは恐らく、伊之にとって昇陽高校とは、勉強も何もせずに、とりあえず願書送って受験して名前書いたら受かるような高校……というイメージなのではないか。

 そう思ったので、あたしは思わず確認してしまった。


「違うのか?」


 うっわ合ってた。やばいわねこいつ……やばいわ……。


「あんた……この前の実力テストの点数を言ってみなさいよ……」

「覚えているわけないだろうが、そんなもの。五科目合計150点くらいじゃないのか」

「そのテストね……学年の平均点250点はあったから……」

「…………」

「やっべ、超バカじゃんこいつ。草」


 あえて津臣先輩が沈黙を貫いて、事実を指摘してくれた。

 口調は低偏差値然としているが、昇陽高校に受かっている時点で、この人もそんじょそこらのギャルより数倍頭が良いことになる。ましてや伊之とは比べ物にならないだろう。


 見た目は眼鏡も相まって知的かもしれない伊之だが、その実態は勉強嫌いのおバカである。

 あたしは知っていたものの、そのギャップに先輩達は困惑していた。

 こんな落ちこぼれに対して、「来年入部してね!」とは口が裂けても言えまい。あたしなら言えないし言いたくない。


 だって――受かるはずがないもの。実力テストの合計点が、150点程度じゃ。


「まあ、勉強など別にどうとでもなります。それより、普段はどのような活動をされているのですか?」

「わわわわ……精神的に強すぎるよこの子。自分にはないものだぁ……」

「まあまあ、人生何が起こるかなんて分からないですからね! 阿仁田くんはたまたま、前回の実力テストがうまくいかなかっただけかもしれないし!」


 そういうことにしておこう、という感じで一路副部長がまとめた。

 伊之がご丁寧にも訂正しようとしたが、あたしは全力で止めた。もうこれ以上掻き乱さなくていい。


「普段は……アニメ観て、終わりだよ。ほんとそれだけの部活……」

「つまらないと思ったなら、他の部に見学へ行った方がいいわ」

「っていうか自分らは他にやることもないので……。あ、いやいや、たまに自分が漫談を披露してるかな! そう! これが思いの外ウケがよくて!」

「マジあれ苦痛だしもうやんないで欲しー」

「え!? ウケてなかったの、あれ……?」

「僕は好きですよ、部長! かなり好みが別れますけどね!」

「アニ研なのにアニメに関係ないことをするのは、個人的には受け入れがたいですね。とはいえ、理想的な活動内容だと思います」


 噛み合わないアニメーション研究部の方達を軽くスルーし、伊之が一人で納得している。

 思うに、この部は正針部長ではなく、実質的に一路副部長が支配しているのではないだろうか。

 支配というか、コントロールというか……この人が居なくなったら、どこか空中分解しそうな部活に見える。


「阿仁田くんは、アニメが好きなのかい?」

「つーか名前がもうアニメじゃん。草だわー」

「はい。好きですね。学校に行かず、ずっとアニメを観ながら過ごせたら、何よりも幸せだと思っています」

「わわわわ……ガチだよこの子。成績以外は本当にうちに欲しい」


 ぼそりと正針部長が本音をこぼした。伊之の発言内容は、傍から聞いていれば単なるダメ人間そのものなのだが、アニメーション研究部では価値ある考え方なのかも。


 それからしばらく、伊之は部員の人達――主に正針部長と一路副部長と、アニメについて談義していた。

 あたしは全くついていけなかったので、聞き入っているフリをする。

 つまらなさそうにするのは、やっぱり申し訳なかったのだ。


「それで――今日はどのようなトラブルがあったのですか」


 だが、いきなり伊之が話を変えて、今日の機材トラブルについて触れた。

 いきなりの話題の切り替えに、五人は面食らったような顔になる。


「あー、部活紹介の時のアレか。ホントお恥ずかしい。色々あってさ。まあでも、君ら見学者が気にするようなことじゃないよ」


 しばしの間、全員が言い淀んでいたのを見て、一路副部長がそう切り返した。

 あたしでも分かるくらいに、それはやんわりとした、しかしそれでも明確な拒絶の意志だった。

 もっとも、この人の言い分の方が圧倒的に正しいんだけど。


 あたし達は単なる部外者で、この高校の生徒ですらない。今日しかこの高校に来ることがないかもしれない、その程度の存在だ。

 そんな連中に、わざわざ自分達のミスを事細かに教えてやる必要はないだろうし、教える意味もない。


「しかしお困りでしょう? 力になりますよ」


 が、伊之は相手の機微など一切無視して、グイグイと首を突っ込んでいく。

 多分これは、こいつにとっては純然たる善意なのだ。悪気とかそういうのは一切なく、本心からアニメーション研究部の役に立ちたいのだ。

 拒絶されたら引き下がる、とは言っていたが、実際はそんな気はサラサラないのだろう。


 あたしはそのことを察したので、伊之を止められなかった。

 そもそも、こいつが自発的に誰かの力になりたがるなど、滅多にないことだし――


「部外者は黙ってて欲しいんだけど」


 けれど、塚井先輩が、ストレートに釘を差した。


「……部員ならまだしも、阿仁田くんはただの見学者でしょ。わたし達の問題に、関係ないじゃない。冷やかしたいつもりなら、失礼だよ」


 新地先輩も援護射撃をする。

 面と向かってここまで言われてしまえば、あたしなら間違いなく謝罪した上で身を引く。それが普通だ。


「部外者じゃありませんよ。来年入部するので」


 ……まあ、こいつは普通じゃないのよね……。

 サラッと実力テスト150点野郎が言ってのけたので、またもアニメーション研究部の皆様方が面食らう。

 あたしはそろそろ頭が痛くなってきた。第二のトラブルに発展する前に、やっぱ伊之を下がらせるべきだろうか。


「わわわ……気持ちは嬉しい、嬉しいんだけど、複雑! もう自分は、彼にどう対応すればいいか分かんないよ一路くん!」

「ううむ。さっきも言った通り、これは見学者が気にすることじゃないですからね」

「つーか、そこまで気になんならー、あーしらに何があったか当ててみればいんじゃね?」

「津臣先輩! そんな余計なこと――」

「こんな失礼な人、相手にするだけ無駄ですよ……!」

「別に余計じゃなくねー? ツカチャンもアラチンも、こんなチューボーにマジんなりすぎっしょ。ってかー、こいつはフツーに善意で言ってるわけじゃん? バカだけど良いやつっぽくね、それってー? その辺り、ぶちょーとイチローはどう思ってんのー?」


 津臣先輩が意外なことに、伊之の味方をした。

 というよりかは、思ったことを素直に口に出しているだけかもしれないが。

 伊之に悪意はないということを、この人は理解しているのかもしれない。外見とか口調はとっつきにくいけど……案外鋭いのかな?


「え、えーっと、自分としては…………一路くんの判断に任せようかな、と」

「……。じゃあ、こうしようか。どういうつもりで、阿仁田くんが僕らのトラブルに関心があるのかは、正直分からない。冷やかしかもしれないし、津臣が言うように善意なのかもしれない。多分、後者だとは僕も思う。けど、やっぱりこれは僕らの部の問題で、そうヘラヘラと口外していいことじゃないんだ。だから、津臣が言うように、君が僕らの『問題』を当てることが出来たら、君も関係者として扱うよ。それでいいね、新地さんに塚井さん?」

「……先輩方がそう言うなら、別にそれでいいです」

「私も構いません。でも、少しでもズレたことを言ったなら、即刻帰ってもらいますよ」

「――だ、そうだよ。君もそれは了承出来るかい、阿仁田くん?」

「問題ありません。


 自信たっぷりというわけでもなく、かといって怖気づいたわけでもなく、伊之はあくまで淡々とそう返答した。

 一路副部長は目を丸くし、津臣先輩は「これでミスってたらマジ草」と、伊之のそれは虚勢ではないのかと判断していた。


 あたしが分かっていることは、アニメーション研究部は何かしらの機材トラブルに見舞われた、ということぐらいだ。

 しかし機材トラブルとは言っても、プロジェクターとパソコンの接続問題ではない。それ以外に何があったのかは、全く分かってない。

 部員の人達も、特にヒントになるようなことは言ってなかったように思う。


「その程度って、もし間違ってたら阿仁田くんを自分達は追い返すことになるんだけど……。それは何というか後味が悪いし、やっぱり今からでもアニメの話で雑談を……」

「心遣いありがとうございます。ですが、大丈夫です。アニメーション研究部に起きたトラブル、それは機材トラブル――――


 思わずあたしは「え」と言いそうになった。機材トラブル……じゃ、ないの?

 伊之は部員の人達の反応を待たずに、そのまま続ける。


「――何らかのアニメのDVD、その……或いは。それが今回、アニメーション研究部が見舞われたトラブルの内容ではありませんか?」

「…………」


 あたし含めて、この部室に居る全ての人間が押し黙った。

 アニメのDVDの紛失か盗難って、そんなこと全く話に出てなかったじゃない。少なくともあたしとの会話じゃ、そんなのこいつは一切触れていなかった。

 一体いつどこで、そんな結論に至ったのだろう――

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