第54話 日本進出
康代のアパートから戻った俺は、すぐに秘書に連絡を入れ、内密に康代の身辺調査をするようにと指示を出した。住んでいる場所はわかったが、どこで働いているのか。ガキは普段どうしているのか。詳しい情報が知りたい。
日本への事業進出も視野に入れ、必要な資料を集める。日本へ進出すれば頻繁に逢いにくることができるからだ。まずは今の俺に出来ることから始めるしかない。
◇ ◆ ◇
「今日の取材は、つまらなかったわ。ロバート、あなたは今日一日何をしていたの?」
ホテルのレストランで食事をしているとローラが尋ねてくる。
「今日は東京の街をあちこち歩いて来た。日本はエキサイティングな国だ。これからはアメリカだけじゃなく、アジアにも進出したいと思っている」
「あら、そうなの。私は日本が好きになれないわ。お寿司は美味しいけど、そのほかの日本食は好きになれないし、みんな親切なんだけど、同じ顔に見えて誰が誰だか見分けがつかないんですもの。何を言ってるのか言葉も全然わからないし嫌になっちゃうわ」
「君が旅行先を日本にすると決めたのに、好きになれないとはな」
「あなたと過ごしてないから楽しくないのかもしれないわ。明日から二人で新婚旅行を楽しみましょう」
「そうしたいんだが、日本進出に向けて調査を始めたい。悪いが予定を少し変更させてほしいんだ。日本に滞在している間に調べておきたいことがある」
ローラはムッとした顔をしたが、俺たちは契約結婚でお互いの自由を尊重した関係だ。
「夜には帰ってくるから、機嫌直せよ」
「じゃ、私。誰かと遊んじゃおうかな」
挑発するように囁いたが、俺は無視を決め込んだ。いや、本当は心の中で誰でもいいからこの女を引き受けてくれと願っていたのかもしれない。
◇ ◆ ◇
翌日、秘書から報告のメールを受け取る。
康代は小さな出版社に勤めており、編集の仕事をしている。
小さな会社なので給料は高くないが、職場の雰囲気は良い
ガキは普段、保育園に預けられており父親は死んだと伝えられている。
ガキの誕生日は俺が結婚式を挙げた日。
ガキの名前は、ロバート・リチャード。
康代の口座番号も記載されている。
俺と親父の名前をガキにつけたのか。ガキの誕生日が式の日だったとは。
俺は秘書に命じる。
「出版社を買収するんだ。資金繰りに困っているような小さな会社だ。手に入ったら、もっと資金を入れてやれ。メジャーな出版社に成長させるんだ。それと、康代とガキが安心して暮らせるマンションを探せ。一棟丸ごと買い占めろ。康代とガキ名義で購入してもいいが、あいつは絶対に受け取らないだろうから、ファンドを作ってガキが18になったら受け取れるように手配しろ。手配できたら二人をそこに暮らさせるんだ。ガキのために英語の話せる優秀なナニーも探せ。コミュニケーション能力は大切だ。ガキの将来のためにいい家庭教師もな。康代の口座に毎月百万程振り込むように手配しろ。もし、康代から連絡が来たら、子供の将来のためだから受け取るようにと伝えるんだ。いいな」
あいつは全てを拒否するだろう。それでも、ガキは俺の子だ。今は一緒に暮らすことは出来ないが、今の俺に出来ることをすべてしてやりたい。ガキの笑顔や小さな手の温もりが今もしっかりと脳裏に残っている。それだけじゃない、康代の胸元には小さなネックレスも輝いてた。あのネックレスは俺がプレゼントしたものだ。俺は嬉しかったぜ。お前は俺を愛してる! 俺たちはまだ愛し合ってるんだ!
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