第45話 俺が守る!

 親父が亡くなるとハイエナのような親戚たちや俺のお袋なんかがワイワイと騒ぎだした。みんな親父の遺産が気になるんだろう。


「あら、康代さんはまだ結婚してなかったわよね」


「リチャードは、秘書とも出来てたんですってね。それで殺されちゃうなんて、一族の恥だわ」


 親父は遺言を毎年書き直していた。預けていた弁護士によるとほとんどの遺産は俺が受け継ぐが婚約者の康代には学費・その他の生活費として5,000万円程支払われることになっていた。親父は婚約してすぐにこの遺言を書き直したらしい。秘書の女のことは何ひとつ書かれていなかった。


 親父にとって、秘書は気にいってた程度の女だったんだろう。その女のために命を落とすなんて皮肉なもんだよな。


「ロバートはまだ学生だし、これから私たちが手伝ってあげるわ」


 親父の妹・エリザベスが大声でみんなに聞こえるように話し出す。


「まったく、リチャードの女好きには困ったものよね。若い子が好きなのはわかるけど、康代さん。あなた、まだ結婚していないのだからすぐにこの家から出て行ったほうがよくてよ」


「わかりました。お金も頂くつもりはありませんので」

 康代は、悲しむ暇も許されないかのように親戚から責められる。


「おい、ベス。おばさんだからって、なんの権利があるんだよ。スペード家の当主は俺だ。今日から俺がこの家を守る。康代は、このまましばらくこの家に住ませる。せめて、大学を卒業するまでは居てほしい。親父もそれを望んでるはずだ。お前ら親戚全員、そして急に母親ヅラするお袋含めてみんな当分この家に立ち入らないでくれ。きっと親父もそれを望むだろう。そしてこれが、当主の俺の宣言だ」


「まぁ、なんて生意気な。ロバートにこの家を守りきれるかしらね。たくさんの人がこの家のために働いてるのをわかってるんでしょうね。彼らの生活もあなたが守らなければならないのよ。そこまで大きな口を叩くならやってみるといいわ。泣き言を言って助けて欲しいと言うに決まってる。社会はそんなに甘くなくてよ」


「葬儀も無事終わった。親父のために集まってくれてありがとうございました。俺たちは疲れてますので、どうぞ用事が済んだらお引き取りください。この家のことに口出しは不要です」


 俺はわざとらしく丁寧に言い返した。


「急に当主ぶって、本当に生意気なこと」


 エリザベスの嫌味が部屋に響く。


 どいつもこいつも……親父が亡くなって悲しむ奴はいないのかよ。みんな親父が生きてた時はヘラヘラと媚を売ってたくせに、亡くなった途端この態度かよ。


 親戚を帰した後、俺は康代に話しかけた。

「俺がここへ引っ越して来てもお前は卒業するまでここに居ろ。親父のことを少しでも思う気持ちがあるならそうしてくれ。そして、俺を助けてくれないか」


 素直な気持ちだった。忙しさに紛れて俺は肉親を亡くした悲しささえ感じる暇がなかった。康代の前では素直な自分を見せることができる。俺だって、正直言えば一人は不安だ。康代にそばにいて欲しかった。康代は、コクンと素直に頷いた。


 俺たちは、再び一緒に住むことになった。

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