第55話 仕事の鬼
「ねぇ、新婚旅行で来たのに一人で過ごさせるなんて、私のことかわいそうだと思わないの? 」
「抱いて欲しいなら素直に言えよ」
ホテルルームに添えつけられた書斎で資料を確認しているとローラが真っ赤なランジェリー姿で誘ってきた。
「ロバート、もう仕事なんかやめてベッドへ行きましょうよ」
この女を抱くのは生理的欲求を満たすためだけだ。
「書類を片付けたらすぐに行くから待ってろよ」
女を抱くことに抵抗なんてない。ローラは最高の女だ。この女を抱きたい男は世の中にいっぱいいるだろう。抱けばこの女は大人しく従順になる。それだけのことだ。
翌朝、すやすやと眠っているローラを起こさないようにそっとべッドから抜け出しシャワーを浴びる。日本に居る間、どんなに遠くからでもいい。ガキの顔を見たい。いや、それだけじゃもの足りないな。ガキを抱きしめ、康代とだってもう一度キスをしたい。シャワーの泡でローラとの夜を洗い流す。
◇ ◆ ◇
目を覚ますとロバートがシャワーを浴び外出の支度をしている。昨夜の彼はいつもと違う。乾いた心を満たすはずの夜。いつもなら満ち足りた気分で眠りにつくのに、苛立ちと冷たさを感じたのは女の感だろうか。妻という名の栄冠だけで我慢しようと思っていた。ロバートの心のかけらが私に絡みついていることを抱き合うたびに感じられたから我慢できていたのに。何かが彼を変えている。
そっと部屋を出て行く彼。バタンと静かに閉まるドア。
窓の外に目をやるとポツポツ小雨が降っている。
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