第40話 興味ないぜ!

 親父が置いていった書類を見ると監督の連絡先が書いてある。


 俺はすぐに電話を入れた。


「俺は、ロバート。あんたがチャーリー監督かい。親父から伝言を受けたが俺は俳優になる気はない。毎日、大学に通ってるからな。悪いが他を当たってくれ」


 そうさ、俺は毎日ちゃんと大学に通って、康代の弁当を食べている。金に困ってもいない。俳優になる必要なんてないのさ。マスコミに追いかけられて大変な思いをするだけだ。



「おぅ、ロバート君か。まぁ、そう言わずに、映画撮影は今すぐの話じゃないから即答で断るなよ。一度、撮影所を見に来ないか。面白いぞ。お友達も連れてきていいからさ」


「俺は、興味ないが、友人が興味あるかもしれない。見にいくだけでもいいんだな」


「もちろんだよ、ロバート君。ぜひ君に一度会いたいから遊びにおいで」



 康代は、将来クリエイティブな仕事をしたいと言っていた。ハリウッドの映画制作現場にぜったい興味あるはずだ。よし、これは汚名挽回のチャンスになるぞ。康代を連れて見学に行こう。親父にもこれなら怪しまれないだろう。社会見学だからな。


 


◇ ◆ ◇


 気を取り直した俺は、部屋に戻り子猫の機嫌をとることにした。


「悪かったなソフィア。親父が急に来るとは思わなかったんだ」


「うぅん、大丈夫だよ。ロバートのお父さんって優しい人だね。それにお父さんの彼女ってすごく若いんだね。お父さん、ロバートにそっくりで素敵だもんね」


「ソフィア、康代は俺と同じ大学生だ。俺の家庭教師だったんだ」


「そ、そうだったんだ。じゃ、大学では一緒に勉強してるの?」


「そうだな、一緒に勉強してるさ。今でも康代は俺の家庭教師みたいなもんで勉強を教わってる。あいつの手弁当を食べながらな」



 えっ?! 何なの。ロバートの嬉しそうな顔。こんな顔初めて見たよ。


 ロバート……まさか、康代さんに気があるのかな。いやいや、それはないよね。だってお父さんの婚約者だもん。心の中で否定して、嫌な予感を打ち消した。


「ロバート、今度大学のキャンパスに遊びに行ってもいい? 私もロバートと同じ大学に入りたいから一度見ておきたいの。お弁当を作って行くから一緒に食べようよ」


「ソフィアはまだ高校のSophomoreで大学訪問は早いだろう。今はテストの時期だし、まずは勉強しろ」


 やんわりと断られた。


「そうだね。わかったよ」


 ロバートは優しい笑顔で私の頭をポンポンと撫でる。


「いい子だ。ソフィア」




◇ ◆ ◇


「康代、今日の君は元気がないね。イタリアンレストランでのディナーはお気に召さなかったかい?」


「いいえ、そんなことないわリチャード」


「さぁ、こっちへおいで。君の可愛い笑顔を見せておくれ」


 リチャードに引き寄せられ、甘い口づけを交わす。リチャードは、優しく私を包み込むように抱きしめ愛撫する。いつもと同じなのに……なぜか今日は気持ちが落ち込んでいる。


 ロバートとあの若い女の子。たしか、ソフィアという名だった。激しく愛し合う情事の声を聞くなんて。ロバート……。若いあなたはリチャードとはまるで異なる愛し方なのね。そう、激しく燃えあがる愛。私は、落ち着いた愛が好き。だから、リチャードを選んだ。優しく落ち着いた彼との情事に満足している。


 なのに……ロバート。あなたのその情熱が眩しい。そして、ソフィアを好きになれない。


 リチャードに抱かれながら、ロバートの事を考える私は、人間失格だ。


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