第37話 カフェテラス
俺はいろんな女と遊びまくった。この女達は俺が望んだんじゃない。こいつらが俺を誘ったんだ。俺はその誘いにのっただけさ。
おいおい、真面目な男もいるのに軽蔑するだと……そんな男が世の中にいるのかよ。俺には信じられないぜ。
こいつらだって似たようなもんよ。俺に惚れてるんじゃない。スペード家というブランドに惚れてるんだ。品質の良さなんてわからず見栄だけのために身にまとった一流ブランド品さ。下品な女がやりそうなことだ。
俺はこいつらにとって、つりあわない一流ドレスや香水。入手困難な限定バックみたいなもんさ。安売り店で投げ売りされてるバーゲン品のような女たち。そいつらが一流品を手に入れたがるなんて、ほんとに滑稽な話だ。
ドラッグとSEXに溺れ、一瞬の快楽を共有することで男の心まで虜に出来ると錯覚してるんだからな。どいつもこいつも俺に気に入られようと必死でなんでも好き放題にさせてくれるぜ。
◇ ◆ ◇
「今日の特別講義を録音していたよね。頼む、聞かせてくれないかな」
「どうしたの? ルイらしくないわね」
「ハハハ、寝坊しちゃったんだ。君は教授から今日の特別講義の録音を頼まれてただろ。頼むよ、康代」
「もう、仕方ないわね。今回だけよ」
ルイは、大学の同期だ。真面目で勤勉な彼は、憎らしいほど頭が切れる。私たちは良い意味でライバル同士でもあり、教授からの信頼も厚かった。
「じゃ、カフェで聞かせてあげるわ。その代わり、コーヒーとドーナツおごってね」
「わかったよ」
私達は、カフェでドーナツを食べながら一つのイヤホンを二人で片耳づつ差し込み、講義の録音に聞き入った。途中、聞こえづらい所は一時ストップし、私の解説を入れ熱く語り合いながら。
◇ ◆ ◇
カフェに入ると窓際の席で一つのイヤホンを二人で聞き入ってる康代と金髪の男の姿が目に入る。あいつは、ウィンザート家のルイじゃないか。なんで康代と仲良くイチャイチャしてるんだ。
俺はそのまま康代とルイの前にスタスタと歩いて行った。
「おい、康代。お前、何やってるんだよ」
「あら、ロバート久しぶりね」
ぶっきらぼうなロバートにルイは気だるそうに話しかける。
「ロバート、君と違って僕たちは真面目に勉強しているんだ。邪魔しないでくれないか。僕のSPに頼んでつまみ出してもらおうか」
「おい、ルイ。お前、ヨーロッパの王族の王子だかなんだか知らないが、ここはアメリカだ。自由の国なんだぜ。康代は俺の家族になるんだからお前につべこべ言われる筋合いなんかないぜ」
俺の腕にぶらさがってた女たちが騒ぎ出した。
「ちょっと、ロバート。どういうことなの?この子は一体何者なのよ」
「婚約者だ」
「何よそれ。婚約者がいたなんて言ってなかったじゃない」
「ち、ちょっとロバート」
「康代、来い」
ロバートは、取り巻きの女の子達を冷たく突き放すと、さっと腕を掴んでその場から引きづるように私を連れ去った。残された女達は、標的をロバートから本物の王子・ルイに切り替えたようで、「ねえ、ルイ。あなたの国のことを教えてくれない」と迫っている。
ロバートは何も喋らず、力強く腕を掴んだままスタスタと駐車場まで連れ出すと助手席のドアを開ける。
「乗れよ。話がある」
黙って言われるまま助手席に乗り込むと、車は勢いよく走り出した。
「康代、ルイには近づくな。あいつは他の国から来た留学生だ」
「あら、私も他の国から来た留学生よ」
「お前は、婚約者だろ」
「もう、みんな誤解しちゃったじゃない。私が婚約してるのは、リチャードなのに」
「嘘はいってないぜ。誤解する方が悪いんだ」
「何、子供みたいなこと言ってるの。それより、ロバート。あなたちょっと痩せたんじゃない。ちゃんとご飯食べてるの? 」
「
パーティに明け暮れる俺は、ろくに飯など食ってなかった。
「そうだ、お昼食べ損なっちゃったから何か美味しいもの食べに行きましょうよ」
俺は隣町で美味しいと評判のシーフードレストランへ車を走らせた。康代は、ルイに講義について教えていたと笑いながら話したが、俺にはわかる。ルイは康代に気がある。康代は婚約しているが結婚したわけじゃない。親父は、俺の他にもライバルがいるのを知らない。まったく油断もスキもない。目を離したらあいつにかっさらわれちまうぜ。相手は、本物の王子で若くて頭も切れる。俺より少し、いや、かなり容姿は劣るが女からモテそうな顔をしてやがる。
まったく、腹立たしいぜ。
レストランに着くと、俺たちはテラス席に座った。康代はシャルドネのグラスワイン、俺はジンジャーエールを頼んだ。
「今日の講義はもう受けられないから、一杯だけ飲むわ」
ウェイトレスに身分証を提示しながら、康代は笑ってる。
公の場で飲酒できない未成年の俺は、ウェイトレスに若いと知られたくない。「俺が運転するから気にせずに飲め」とバカでかい声でみんなに聞こえるように叫んだ。
康代は、コロコロと笑ってた。俺の心理を見破ったんだろう。
こうしていると俺たちは、まるで恋人同士だ。陽射しの下で食事をして笑いあった。
「ねぇ、ロバート。月夜のパーティもいいけど、太陽の下での食事も美味しいと思わない? 」
康代は、俺の生活を知っているかのようにさりげなく俺を心配している。
「お前が俺と一緒に昼食を食べてくれるなら、俺は飯を食うぜ」
まるでガキのようだ。そういえば、高校の時もこうやって康代を困らせデートの約束をしたことを思い出す。
「困ったわね。講義もあるから毎日外食なんて出来ないわ。じゃ、こうしましょう。またお弁当を作ってあげるわ。時間が合う時に一緒にお弁当を食べるっていうのはどう? 」
「康代、本当か? 約束だぞ、これから毎日昼食は一緒だ! 」
今日から俺は、心を入れ替える。もう、パーティは卒業だ。康代の手弁当を太陽の下、芝生の上で食うんだ。
俺は、パーティ三昧の日々を改めた。
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