第27話 募る想い

 夕食を終え、俺たちは映画を観ることにした。


 シアタールームにポップコーンと飲み物を持って移動すると、俺は、何も言わずにイビーザ (Ibiza) を流した。この映画、人気DJを追いかけるドタバタ・ラブストーリーで、アメリカ英語版が公開されたばかりだ。もちろん俺にそっくりなリチャード・マッデンが出演している。

 

 この映画の予告編を見て、俺は髪を切ったんだ。今日の俺は王子ではなく大人の男。そう……大人の男だ。




 二人並んで映画を見ながら、俺は康代の背中にさりげなく手を回した。康代は映画を見ながらうっとりした顔で俺を見た。


「ロバート、この映画のリチャード・マッデンって……あなたのお父さんに似てるわね。名前も同じだしね」


 ガーーン!!


 俺は親父にそっくりだ。


 親父の方が俺よりリチャード・マッデンに似てると言いやがった。お前のうっとりしたその目は、親父を想ってた目なのか? いやいや……俺の方が若くていい男だ。俺は、康代の目をじっと見つめた。


「親父より、俺に似てると思わないか? 」


「ハハハ、ロバートはまだ青臭すぎて……。でも…そうね。あと10年位経ったらあなたもいい男になるわね」


 俺は、10年も待てない。


「お前とは3つしか離れてないんだぞ。子供扱いするなよ」


「ロバート。じゃ、早く私に追いつきなさいよ。私の年に追いついたら、あなたを認めてあげるわ」


「康代。俺たちの年齢は、いくつになっても変わらない。お前のその意味はあと3年待てと言ってるのか? 」


「ガキのくせに、バカじゃないの」

 康代は、俺を笑い飛ばした。


 俺は、早く21になりたかった。この国では18歳が大人と言われているが、21歳にならないとお酒も買えず、Bar にも入れない。


 高校生の俺は……なにをしても、所詮はガキなんだ。



 軽くあしらわれながらも、俺は康代の目を見て囁いたんだ。


「康代、俺は……今はまだガキだが、絶対にお前を諦めない」


「ねぇ、ロバート。あなた、たくさんの女の子からモテるでしょ? だって、そんな目で愛を囁かれたら、女の子ならみんなドキドキしちゃうもの。あなたのその情熱的な目、私も好きよ。でも、あなたにあった人を探すことね。私は……大人の男が好きなの」


 

 嘘だ!! その言葉はお前の本心じゃない。


 親父はもう中年で……。俺はまだ若い。お前は、そう言って俺をあきらめさせようとしているだけに違いない。俺はお前を「母さん」とは呼びたくない。お前を俺の女にしたいんだ。俺だけの女にしたいんだ。


 康代は、俺が仕掛けたすべてのセックスアピールをキャッチするどころか、力強く野球バットで打ち返してきた。それは、どれもがホームランで……俺はグランドに立つ負け投手のように打ちのめされた。


 一人、頭をうな垂れて孤独のマウンドにしゃがみ込むしかなかった。なんて、ガードの硬い女なんだ。さすがに親父が惚れてるだけはある。




 そんな時だった。


 横に座っていた康代が俺の頬をそっと手で包み、俺の顔を自分の方に引き寄せたんだ。俺はまるで、子猫のソフィアの気持ちだったぜ。



「ロバート。愛してるわ」

 

 俺は、自分の耳を疑ったぜ……。

 

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