第25話 シルクのネグリジェ
少しずつ暮らしに慣れて来たある日、
俺の胸はざわついた。
康代とふたりっきりになるチャンスだ。俺は、康代に母性を感じていたのかもしれない。親父も、もしかしたら同じだったのかもしれないな。俺たちは、愛情に飢えてたんだ。親父の康代への執心は半端じゃない。まっ、そういう俺も、惚れ込んでたんだけどな。
康代に派手さはないが、誠実で思ったことをはっきりいう性格。親父は俺が康代を狙っているとは知らずにいたが、康代自身は知ってか知らずか……いつもサパサパとしている。
俺は、この2週間で勝負をかける。そうだ、今夜は俺が何か料理を作ってやる。弁当のお礼だ。
康代は何も知らずに今朝も弁当を渡してくれた。今日の弁当は俺の好物になった豚の生姜焼きとサラダだ。康代、お前も本当は俺のこと好きなんだろ!
「今日から親父が出張でいなくなる。メイドのマイヤも休みを取ってるから今夜は俺が飯を作るぜ。楽しみにしてろよ」
「あら、ロバート料理できるの? それは、楽しみね」
料理なんて一度もしたことなかったが、なんとかなるさ。
そうだ!!
男料理といえば、やっぱりバーベキューだな。
焼けばいいだけだから簡単よ。俺が焼いてる間、お前は横でワインでも飲んでればいいんだ。まかせておけ!! そして……酔ったお前を俺が優しく介抱してやるぜ。そのために、マイヤに休みを取れと勧めたんだからな。俺は、一人で想像を膨らませニヤニヤしたぜ。
◇ ◆ ◇
学校へ着くと、ダチのジョーニーにこっそり聞いたんだ。
「お前、肉焼いたことあるか?」
「ああ、簡単さ! グリルに火をつけて焼けばいいだけだからな」
俺の思った通り、簡単じゃないか。
俺は家に帰る前に買い物に行って、肉とつけあわせを買うことにした。食事の材料など買ったことがなかった俺は、子猫のソフィアを連れて買い物することにしたんだ。ソフィアは、嬉しそうにつきあってくれたぜ。
「いつかお前に俺の手料理を食わせてやる。でも、練習が必要なんだ。お前が考える最高の食材を俺に教えてくれないか」と頼んだんだ。ソフィアは、最高級のフィレステーキと新鮮なオーガニック野菜のアスパラやコーン、そしてポテトを選んだ。
俺は、ニヤニヤしながら康代の美味しく頬張る顔を想像したぜ。
未成年の俺たちでは酒を買うことはできないが、うちにはワイン貯蔵室があり、色々な種類のワインが腐る程ある。一本や二本飲んだところで親父に気づかれることもないだろう。康代の事を考えながら俺はソフィアと買い物をしていた。
ソフィアを家まで送り届け、俺は家へと帰宅した。康代はまだ帰宅しておらず、家政婦のマイアもいないこの広い家がシーンと静まり返ってた。俺は、購入した食材を冷蔵庫に入れるとすぐに親父の部屋へ向かったんだ。
なぜそんな行動をしたか?
俺にもわからなかった……が、なぜか部屋を見たかったんだ。
親父の部屋のドアを開けると部屋は整頓されていた。その整頓された部屋のベットの上に康代のシルクのネグリジェが脱いだままの状態で置かれていた。朝、俺の弁当を作るために急いで着替えたんだろう。
俺は、そのシルクのネグリジェを手にとって匂いを嗅いだ。ジャパニーズチェリーブラッサムの香りがほんのりと残っている。このネグリジエを着ている康代を想像したぜ。
そんな時、玄関のドアが開く音がした。
康代が帰宅したみたいだ。もう少し匂いを嗅いでいたいが、さすがにまずいだろう。俺はそっとシルクのネグリジェを元の場所へ戻して親父の部屋から出た。
キッチンへ向かうと、康代もキッチンへ入ってきた。
「今日のメニューはステーキだ。着替えたらワインでも飲んで待ってろ」
「あら、随分と気がきくこと言うのね」
笑顔で答えるお前を見ながら……
俺の頭の中では、さっきのシルクネグリジェを着てにっこり微笑むお前の幻想が浮かんでたぜ。
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