第21話 日本から来た女
月曜になり、家に帰ると家庭教師の康代が待ち構えていた。
「ロバート! あなた10分遅刻よ。私は、6時から9時までの契約なのよ。あなたが遅刻しても遅刻分の延長などしないわ。でも、その分……厳しく指導するから覚悟しなさいね」
なんていう女なんだ。おれは、ロバート・スペードだぞ。
俺様に向かって生意気な女だ。こいつ、俺の王子スマイルを知らないな!? 俺に興味がない女なんて今まで見たことないからな。
「さっ、早く座ってこの問題を解きなさい」
おいおい……お前、俺に命令するのかよ。俺とお前は3歳しか離れていないんだぜ。俺の魅力に気づかないのか、この女。
俺は、目一杯のキメ顔で囁いたぜ。
「お前、よく見ると可愛い顔してるのに、そんなに怒るなよ」
康代は、かけていた眼鏡の端を手で持ち上げると言い返して来たんだ。
「ガキのくせに、生意気言ってるんじゃないわよ」
な・なんなんだ!?
俺の必殺・王子スマイルを跳ね返すのか!?
落ちない女なんていなかったのに、この堅物女には通用しないというのか!? それとも、日本の女には俺の笑顔の魅力がわからないのか?!
いや……きっとこの康代という女の感性が鈍いだけだろう。なにせ、この女……この風貌だからな。きっとこの歳なのに男も知らないんだろう。
もう一度、俺は微笑みながら、彼女の眼鏡を取り上げて顔を近づけた。
「お前、コンタクトの方が可愛いぜ」
眼鏡を取り上げると……こいつ、まじかよ。
よく見ると……まぁ、まぁ可愛い顔してるじゃないか。
今までアジアの女と付き合ったことはなかったが、澄んだ黒い瞳が俺の目を奪ったんだ。
「あんたみたいなガキに言われなくても知ってるわよ。このメガネは伊達よ。いいから、早く問題を解きなさい」
俺は、しゅんとなって問題を解き始めたぜ。隣に座り俺に家庭教師している康代から、ほんのりいい匂いがしてきた。
「お前、なんの香水つけてるんだ」
「この問題、全部解いたら教えてあげるわよ」
俺は真剣に問題を解いた。さっ、教えろ!!
「これは、ザ・ボディショップ(THE BODY SHOP)のオードトワレよ。日本の桜の匂いが心地いいの」
康代は、初めて笑いながら教えてくれたぜ。高い高級メーカーの匂いに慣れてた俺には新鮮だった。
「お前、なんで伊達メガネしてるんだよ? 」
「あら、その質問に答えて欲しければ、残りの問題をさっさと解くことね」
ちくしょう!! 俺を手玉にとるなんて、上等じゃないか ! 俺は、夢中で問題を解いたぜ。
康代は、憎たらしいほど大笑いしながら答えたぜ。
「あんたみたいなキスマークつけて、喜んでるようなガキに惚れられないようによ」
俺は慌てた。なぜか恥ずかしくなって、首元に手を当てて隠したんだ。この日本から来た大学生の女がやけに大人にみえたぜ。
「今更隠したって遅いわよ。そんなの気にしないで、さっさと早く次の問題を解きなさい」
俺は、黙って言われるままに問題を解いた。
「ロバート、やればできるじゃない。じゃ、時間だから今日はここまでよ」
康代は、9時ぴったりに終わらせてさっさと帰り支度をしていた。
「おい、明日も来るのか? 」
「そうよ。契約だから6時から9時までの時間ね。あなたが帰ってこなくてもこの時間はあなたのお父さんが家庭教師代を支払ってくれる約束になってるから来るわよ」
俺は、この生意気な日本の大学生が気になりだしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます