第十七回 お金の使い方(座敷童)

「じゃあ次のお便りですが……」

「うーん……」

「座敷童ちゃん? どうかしました?」

「いや、さっきのお便り。時代だなぁ、って思って」

「ああ、どんど焼きの話ですか?」

「うん、そう。昔は今日、正月飾りとかを全国で一斉に燃やしていたわけだよ」

「最近は都会ではあまり見なくなりましたね」

「火事も危ないし、燃えない素材を使う正月飾りもあるからわかるんだけど……」

「ずっと続いていたことが少しずつ変わっていくのは確かに時代かもしれませんね」

「知っている人も減っているんだろうなぁ……」

「そうかもしれませんね。ですが、それならこの番組をする価値があるかと思います」

「この番組の価値?」

「はい、歴史のある祭事や伝統についてもっともっと語っていきましょう」

「……そうだね。言い伝えは言っていかなきゃ伝わらないもんね」

「そうです。そういう話は機会があればガンガン言っていきましょう」

「おーっ!」

「おぉ、座敷童ちゃんもやる気が出てきましたね。じゃあこの勢いで次のお便りです」

「うん、次は何かな?」

「ラジオネーム『家計簿チェッカー』さん」

「祭事や伝統から一気に家庭内に方向転換しちゃったね」

「そうですね。えー『いつも楽しく聞かせていただいています』」

「楽しんでもらえて何よりだね」

「『僕は三人兄弟の三男なのですが、三人ともお金の使い方がまるで違います。長男は携帯の課金ゲームにかなり使っています。次男は希少性の高い者を集めるコレクターで収集にお金を使っています。僕は旅行や食べ歩きにお金を使っています。三兄弟なのに三者三様のお金の使い方に親も戸惑うくらいです』」

「見事に別れたね」

「ここまで綺麗に別れるのは珍しいかもしれませんね。えっと『長男は次男のコレクションを古いだけで高いのはおかしいしそもそも場所を取って邪魔だ、と批判しています。僕の旅行も疲れに行っているだけで今はネットの映像で現地が見られると理解せず、携帯ゲームは大勢の人間とゲームの中でコミュニケーションを手軽に取れる素晴らしいツールだと言って譲りません』」

「はっきり言う長男だね」

「そうですね。えっとそれで、『次男は長男の携帯の課金ゲームを今後何も残らない、と批判しています。僕の食べ歩きも一時の自己満足だと理解をしてくれません。一方で自分のコレクションは常に手元に好きな者があって手で触って確かめられることから崇高なシュミだと胸を張っています』」

「次男もはっきり言うんだね」

「そこは兄弟ですね。えー『僕も批判ばかりされているのは納得できないので言い返しました。携帯の課金ゲームはただ単に業者に搾取されているだけでコミュニケーションも運営の都合で簡単につぶされてしまう脆いものです。コレクションは家のスペースと管理の手間暇がかかるだけでほとんどの人に理解されない自己満足の究極形です。旅行や食べ歩きは自分の経験や血や肉になるので有意義だと思います』」

「うわぁ……兄弟だなぁ……」

「三人の誰も譲らないのが兄弟らしいですね。えー、最後は『三人の中で誰が正しいのでしょうか?』と締めくくられています」

「誰が正しいかって質問?」

「そのようですね」

「この三兄弟は仲が良いのかな?」

「さぁ……ですがケンカするほど仲が良い、という言葉通りだと思いましょう」

「そうだね。仲が悪かったらこんな手紙送ってこないと思うことにするよ」

「はい、それで座敷童ちゃん、誰が正しいですか?」

「誰が正しいかって聞かれても困るんだけど?」

「推察ですが、三男さんの旅行は観光地の神社仏閣でお賽銭は投げているかもしれません」

「じゃあもう三男でいいよ」

「いやいやいやいや……適当すぎません?」

「だってこれ、決着つける必要ないでしょ?」

「そうですけど、誰が正しいかを聞かれていますから多少はご意見が欲しいわけですよ」

「うーん、そう言われても誰も間違ってないよね」

「まぁ、私もそう思います」

「何にお金を使おうがその人が稼いで生活に支障が出なかったら問題なしだと思うよ」

「はい、私も同意見です」

「……あ、じゃあ終わり?」

「ですね、終わっちゃいました」

「じゃあ次行く?」

「いや、それはさすがに『家計簿チェッカー』さんの扱いが酷すぎるような……」

「だってみんな自分が満足してお金を使っているわけだからいいんじゃないの?」

「その通りだとは思います」

「でしょ? 後はケンカするな、くらいかな」

「そうですね。ケンカはダメですね」

「ケンカせず仲良く、納得のできるお金の使い方を考えて生きていこうね」

「そうですね、兄弟仲良く、を心がけてください」

「……あ」

「どうしました?」

「いや、この三兄弟がこう育ったってことは両親も似た者同士じゃないかなって」

「おー、その可能性はありますね」

「例えばお父さんが車かバイク好き、お母さんが装飾品か服好き、とかね」

「可能性はありそうですね」

「三兄弟が三人とも似た感性を持っているから、親から受け継いだかも」

「子供は親を映す鏡って言いますからね」

「そうそう、親の趣味趣向や癖なんかを知らない間に子供は受け継いじゃう」

「知らない間ってなると遺伝みたいですね」

「遺伝かぁ。伝統も遺伝みたいに知らない間に伝わってくれたらなぁ……」

「大都市に人口が集中して過疎地ができて少子化で、となるとなかなか難しいですよね」

「こう、子供をたくさん作るってことも遺伝でなんとか受け継いでくれないかな?」

「親の趣味趣向や癖と一緒に生物の子孫を残す本能も受け継いでくれ、と言うことですか」

「そうそう」

「そう簡単に子供の数が増えると行政は苦労しませんよ」

「だよね……こればっかりは本人達に委ねるしかないからなぁ」

「いろんな意味で今の若者や子育て世代には頑張って貰わないといけませんね」

「いろんな意味?」

「えー……そこは聞かないでください」

「ああ、大天狗向きの話ね」

「そうです、って言っちゃっていいんですか?」

「いいよ、気にしないで。何か言われたら得意の公開謝罪をすれば済むよ」

「あはは……得意なつもりはありませんよ。自然とできるようになっちゃっただけです」

「神様が相手だとつらいよね。うんうん、気持ちわかるよ」

「クリスマスの時のイザナミ様の件を思い出しますね」

「あの時は本当に驚いたよ。驚きすぎて思考停止して、気がついたら帰っちゃってた」

「あはは、まぁそうなりますよ。私もいきなり偉人が目の前に現れたら頭真っ白です」

「お互い大変だろうけど、今後の祭事や伝統のためにもラジオ、頑張ろうね」

「はい、座敷童ちゃん! 一緒に頑張りましょう!」

「……って、何か変な雰囲気になってきたね」

「そうですね。少し落ち着きましょう」

「えっと、どんな話だっけ?」

「えー、兄弟でお金の使い方がまるで違うっていうお便りでしたね」

「ああ、そうそう。誰かに迷惑をかけずに自分が納得していたら私は良いと思うよ」

「使い方は人それぞれですからね」

「姉弟喧嘩はしないように、仲良くね」

「好き嫌いや趣味趣向はみんな違いますからね」

「迷惑を被らない限りは放っておくのも良いかも」

「お互いの領域には踏み込まないって奴ですね」

「うん、それと『家計簿チェッカー』さんが三男だっけ?」

「はい、そうです」

「旅行の際には是非高名な神社仏閣へ足を運んでみてね」

「お賽銭込みで、ですか?」

「はい、神代! そういうこと言わない!」

「あ、これは失礼しました」

「自然に足が向いて、自然にお賽銭を投げる。いい? わかった?」

「すみませんでした」

「えー……と、いうことで旅行の趣味は続けて良いと思うからね」

「日本全国を旅してください。『家計簿チェッカー』さん、ありがとうございました」

「ありがとう、次のお便り待ってるからね」

「次は兄弟仲が良いお便りだと良いですね」

「そうだね」

「えー、では次のお便りにいきます」

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