第二十八回 幸福感(座敷童)
「じゃあ座敷童ちゃん、次のお便りにいってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
「ラジオネーム『はずれ大吉』さん」
「え? はずれなのに大吉?」
「また変わった名前ですね」
「この番組のリスナーって変なところに凝るよね」
「そして私たちはその変なところに凝ったお便りを楽しんでいますね」
「まぁ、そこは否定しないけどね」
「ではでは内容です。えー『座敷童さんに質問がしたくてお便りを出しました』」
「え? 名指し?」
「期待されていますね。『僕はここ数年、お正月のおみくじで大吉以外を引いたことがありません。つまり毎年ずっと幸運の中にいるということになります。ですが宝くじや福引きや福袋ではことごとくはずれを引きます。大吉しか引かない幸運なはずの僕なのに、それ以外のくじ運はとことんダメだというのに納得ができません。おみくじ以外のくじで当たりを引けない僕は幸運なのか不幸なのかわかりません』というお便りです」
「……この人って、おみくじがそもそも何かってわかってないよね?」
「おみくじが何か、ですか?」
「うん。おみくじって何かを始めるときの吉凶を占うものなんだよ」
「はい」
「新しいことや何かを決断するときの吉凶を占うもので、宝くじとは関係ないんだけど」
「ですがおみくじには金運も書いていたりしますよね?」
「その金運も何かを始めた先とか、行動した結果だからね」
「つまり楽して宝くじが当たるかどうかとは関係が全くないってことですか?」
「全くと言うことはないよ。その人の運気の方向性がわかるからね」
「でも大吉と宝くじでの大金ゲットに密接な関係性はない、ということですか」
「そういうこと」
「うーん、人間としては少し残念な気もしますね」
「大吉だったら宝くじが当たりそうってこと?」
「はい。そういう印象がやっぱりありますからね」
「おみくじは吉凶を占うだけで本人の工夫や怠慢でいくらでも結果は覆るけどね」
「え? そうなんですか?」
「そりゃそうだよ。大吉でも怠け者が必ず成功するわけじゃないから」
「まぁ、怠けていると成功者には確かになれませんよね」
「でも凶を引いてもしっかり先を見据えて行動すれば十分成功できるんだよ」
「……あれ? そうなるとおみくじって意味があるんですか?」
「だから、吉凶を占うものなんだよ」
「ですが凶を引いても成功できると……」
「大吉だったら行動に移し、凶だったら慎重に物事を進めろ、ということだよ」
「あー……おみくじを引いた人の背中を押したり注意を促したりってことですか」
「まぁ、そんな感じかな」
「するとこの『はずれ大吉』さんは怠けて大金を狙っているってことですね」
「そういうこと。宝くじを買うだけじゃなくて何か行動を起こさなきゃ」
「行動ですか。宝くじを買いに行くという行動は……ダメですか?」
「それだけに頼っているようじゃダメだよね」
「あはは……そうですよね」
「宝くじも買わなきゃ当たらない。でも買っても当たるとは限らないんだよ」
「はい。運ですからね」
「宝くじはあくまで夢を買うようなもの。現実にしっかり足をつけていないとね」
「うーん、なるほど。私もおみくじが大吉だったときに宝くじを買ったことがあります」
「当たったの?」
「はずれました。当たっていたらたぶんここで働いていませんよ」
「おっと、爆弾発言?」
「八百万の皆様と話すのは好きですが、仕事としてはしていなかったと思います」
「じゃあその時宝くじが当たっていたとしたら、今頃別人とここにいたってことかな」
「そうかもしれませんね」
「じゃあその時の宝くじが外れて良かったかも」
「はい?」
「神代と番組するのは好きだからね」
「……照れますね」
「ははは、戸惑ってる」
「そりゃ戸惑いますよ」
「顔、面白いよ」
「もう、いい加減にしてください。話を戻しますよ」
「はいはい」
「えー、ですがやっぱり幸運とか幸福ってお金を連想する人は多いと思いますよ」
「まぁ、そうだよね。お金があれば色々やりたいことができるから」
「そう考えるとですね。幸福感というものはいったいなんなのでしょうか?」
「幸福感がなにってどういうこと?」
「ほら、お金があると幸せって人、お金がなくても幸せって人、両方いますよね」
「いるね」
「その幸せの定義ですよ。幸せを感じると幸福感が満たされるわけですから」
「幸福感を満たす幸せとは何か、ってこと?」
「はい。そうです」
「うーん……簡単に言えば充実感かな?」
「充実感ですか?」
「日々充実した毎日が送れているかどうか、それに尽きるんじゃないかな」
「なるほど、充実感ですか」
「お金がないと出来ないことでしか充実できないならお金がないと不幸だよね」
「そうですね。お金がなくても充実できる人はお金がなくても幸せですね」
「それにお金があると万が一を考えたときの安心感にも繋がるよね」
「あー、確かにそうですね。突然の病気や怪我の時にお金があると助かりますね」
「その安心を感じられる毎日が充実感に含まれる人もいるわけだよ」
「余計な心配というマイナス要素がない日々が充実した日々ということですか?」
「うん、今やりたいことに没頭できる環境に身を置けるわけだからね」
「毎日が充実していそうですね」
「うん、そうだね」
「座敷童ちゃんは充実した日々を送れていますか?」
「うーん、どうだろう。もうずいぶん長く生きているからね」
「長生きしていると感覚ってやっぱり変わってきます?」
「そりゃ変わってくるよ」
「例えばどう変わりました?」
「例えば? そうだね。知り合った人間が死んでもあんまり気にならなくなったかな」
「……すみません。今の話題はなかったことにしてください」
「あれ? 何かまずいこと言った?」
「えっと、全面的に私の責任です。はい……」
「そう? じゃあ話題を変えて、神代は毎日充実しているのかな?」
「私ですか?」
「うん。こうやって私たちとラジオをやって、毎日どんな思いなんだろうなって」
「そうですね。私は……充実していますね」
「おぉっ! 嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
「あはは、八百万の皆様方とこうして話す機会があるのはやっぱり貴重ですからね」
「なるほど、希少性ね」
「それに楽しいじゃないですか。楽しい方が多くて毎日面白おかしく過ごしていますよ」
「面白おかしく……か」
「九尾さんも大天狗様も座敷童ちゃんも八咫烏さんも犬神さんも猫又さんも好きですよ」
「あー、今度はこっちが照れそう」
「あはは、照れちゃってくださいよ。レギュラーメンバーとはもうすぐ一年ですからね」
「最初は週一回でも面倒だったけど、最近はこれが普通になったもんね」
「そして昨日二年目突入が決まったんですよ」
「ああ、そうらしいね」
「なのでまだしばらく続きますのでよろしくお願いします」
「ははは、私も楽しいからね。こちらこそよろしく」
「……改めて考えてみると、私は毎日とても充実しているみたいですね」
「それならよかった」
「きっとものすごい幸福感を感じていることでしょうね」
「幸せだって言ってくれるなら、座敷童冥利に尽きるよ」
「あれ? もしかして座敷童ちゃん、私になにかしました?」
「ふふっ、さぁね」
「なんですか? その思わせぶりな態度は……」
「はいはい、えっと『はずれ大吉』だっけ? 幸せって思わぬところに転がってるからね」
「言われてみればそうですね」
「宝くじもいいけど、しっかり現実に足をつけて幸福感の欠片を見落とさないようにね」
「そうですね。普段は気にならないような小さなことが幸せの一部かもしれませんよ」
「幸福感の欠片を見つけられるようになったら、本当の意味で毎日大吉だからね」
「あはは、そうですね。『はずれ大吉』さん、頑張って幸福感を探してみてください」
「応援してるからね」
「はい、では『はずれ大吉』さん、ありがとうございました」
「幸福感の欠片が見つけられたっていうお便りが来て欲しいね」
「そうですね。では、次のお便りにいきましょう」
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