第三十回 カレンダー(八咫烏)

「今日も八百万談話室をよろしくお願いします」

「おう、よろしく頼むぜ」

「さて八咫烏さん。もうすぐ三月ですよ」

「三月か。三月と言えば卒業シーズンじゃねぇか」

「二月最終週で来月が三月、そして四月から二年目ということで来年度が待ち遠しいです」

「そう急くんじゃねぇよ。物事には順序ってもんがある」

「そうですね。まずは二月の仕事をしっかりしましょう」

「おうよ」

「あ、それでですね。偉い方々が何を作ろうとしていたのかようやくわかりましたよ」

「ここしばらくその話題がちょこちょこ出てたな」

「気になっていましたから。それでですね、何かわかったのでここでリークしちゃいます」

「おいおい、穏やかじゃねぇな。いいのか? そんなことしちまってよ」

「大丈夫ですよ。宣伝みたいなものです」

「余計なことをして卒業シーズンで神代が卒業とかいうオチはなしだぜ」

「あはは、もしそうなったら次はリスナーとしてお便りを送りますね」

「縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよ。ようやくお前とのラジオに馴染んだってのによ」

「万が一の場合は八百万の皆様が人間の偉い方々に一言もの申せばすぐひっくり返ります」

「やらかす気満々じゃねぇか」

「冗談ですよ。宣伝で言っていいという許可は出ています」

「そうかい。ならいいけどよ」

「ですので発表します。なんと八百万談話室の総集編が発売されます」

「……総集編?」

「はい。ラジオのトークを収録したものを発売するらしいです」

「……それ、売れるのか?」

「それがですね、ちょっと一つ案があります」

「案?」

「はい。三ヶ月程度の中から三十日を選んで、一日お便り一つを収録するんです」

「それのどこが案なんだ?」

「その内容は聞くと微妙に日付や曜日や何週目かがわかるところを選んだそうです」

「よくわからねぇぞ」

「三十日三十話分を聞けばどの話が何月何日かわかるようになっているそうです」

「……それ、面白ぇのか?」

「えー……私は面白いと思ったんですけどね」

「まぁ、カレンダーを用意してチェックつける遊びって考えると……ありなのか?」

「一話から三十話までは順番通りには並べる以外は内容以外にヒントは無いそうです」

「まぁ、暇つぶし程度に遊んだらいいんじゃねぇか?」

「えー……八咫烏さんには不評なようです」

「俺っちは身体を動かす方が好きだからな」

「そうですか」

「それよりもう宣伝は終わりか?」

「はい、一応今のところはこれくらいしか決まっていませんので」

「中途半端だな」

「まぁ、発売はまだ先でしょうからね。ではお便りにいきますね」

「おう」

「ラジオネーム『うるうれう』さん」

「またわけのわからん名前を……」

「あはは、もはや恒例ですからね。では読みます。『初めまして。今日は僕の心の叫びを聞いて欲しいと思ってお便りを出しました。僕は今、非常に憂鬱です。その理由が今週の土曜日が閏年で一日あるからです』」

「おー、今年だったか。閏年」

「そうですよ。オリンピックも今年です」

「……俄然夏が待ち遠しくなってきたぜ!」

「その前に春を迎えましょう。えっと『僕の会社は、土曜日は奇数日が出勤で偶数日が休みです。今月の第五土曜日は閏年で出勤になってしまいます。平日ならば諦めもつくのですがなぜ閏年にぴったり土曜日がはまってしまっているのでしょうか。僕はこのカレンダーを見たときからずっと哀しくてしかたがありません』とのことです」

「奇数土曜日は出勤なんだろ? じゃあ第一土曜日になっても一緒じゃねぇのか?」

「いえ、八咫烏さん。第五土曜日の次が第一土曜日になるわけですよ」

「ん?」

「二週連続土曜日出勤ということです」

「あー……そういうことか」

「それが四年に一度の閏年という日にピンポイントで当たったということです」

「そりゃつれぇな」

「一年の日数も曜日の順も変わりませんが、第五土曜日に当たったのはしかたないですね」

「名前の意味がわかったぜ」

「『うるうれう』さんの名前の意味ですか?」

「おい、うるう年のうるう、憂鬱って意味の憂う、合体させて『うるうれう』だ」

「おぉっ! なるほど、さすが八咫烏さんです」

「へっ、まぁ俺っちくらいになるとこれぐらいはな」

「総集編のカレンダー埋めもできそうですね」

「まぁ、できねぇことはねぇだろうな」

「じゃあ試作品ができたら八咫烏さんにやってもらいましょうか」

「実験台かよ。まぁ、時間があるときならいいぜ」

「お願いします」

「けどこれからいろんなスポーツでシーズンが始まるから時間がとれるかわからねぇぜ」

「偉い方々、なるべく早く試作品を願いしますね」

「まぁ、そっちのカレンダーはいいとして、『うるうれう』のカレンダーはなぁ……」

「こればかりはどうしようもありませんね」

「世界標準だからな」

「えー『うるうれう』さん、お勤め頑張ってください」

「嫌なら有給使って休みな」

「さすがに今日申請して明後日は間に合わないんじゃないでしょうか?」

「こいつの会社事情は知らねぇから俺っちにはなんとも言えねぇな」

「まぁ、そうですけど」

「しかし閏年ねぇ。閏月の頃が懐かしいぜ」

「閏月ですか?」

「おう、太陰暦は閏年じゃなくて閏月だからな」

「おー、またずいぶんと古い話を……江戸時代以前の話ですよ」

「まぁな。今は太陽暦だが、今も太陰暦だったらどうかってのも考えると面白ぇぜ」

「ん? どういうことですか?」

「今は一年が十二ヶ月だろ? 三年に一度閏月で一年が十三ヶ月になるんだよ」

「一年が十三ヶ月ですか」

「おう、するとどうだ? オリンピックをその一ヶ月にやったら面白くねぇか?」

「なるほど。オリンピック月とか言われてそうですね」

「オリンピックが三年に一度になると、だ。選手も挑戦する機会が増えるだろ?」

「その分大会開催数が増えて経済にどういう影響があるか危惧されますけどね」

「おいおい、無粋なこと言ってんじゃねぇよ」

「いや、当然そこは気になりますよね」

「オリンピックに金の問題はつきものだけどよ。そこはオブラートに包もうぜ」

「まぁ、お金の問題が無いとするなら確かにお祭りは数が多い方が楽しいでしょうね」

「だろ?」

「ですけど、太陰暦にも色々ありますよ。中国、インド、中東で少しずつ違います」

「細かいことはいいんだよ。一年が十三ヶ月になったらっていうお遊びじゃねぇか」

「お遊びですか。発想は面白いと思います」

「だろ?」

「ですがそうなるとコンピュータの日付問題は今以上に大問題ですよね」

「あー……細けぇな。もういい。俺っちの頭の中だけで楽しんでおく」

「すみません。なんだか色々と気になってしまいました」

「いいってことよ」

「えー、じゃあ『うるうれう』さんのお便りはこのあたりでいいでしょうか?」

「おう、心の叫びは聞いてやったからいいんじゃねぇか?」

「そうですね。では『うるうれう』さん、ありがとうございました」

「しっかり働きな。そして鬱憤はスポーツでも観戦して発散するのもいいぜ」

「さて、では次のお便りにいこうかと思うのですが……」

「おう、いってくれ」

「その前にもう一回宣伝です!」

「おいおい、まだ本決まりじゃねぇんだろ?」

「ここで大々的に宣伝することで本決まりになるんですよ」

「順序、逆だよな……」

「八百万談話室の総集編、カレンダー埋め遊び付きがいずれ発売されるはずです」

「いずれ、かよ……」

「発売されたときはお賽銭やお布施のつもりで皆さん買ってくださいね」

「その宣伝の仕方はどうかと思うぜ」

「複数買って文字通り、知り合いに布教してもいいですからね」

「八百万の神々が一気に胡散臭くなったな」

「皆さん、よろしくお願いしますね」

「なぁ、神代」

「はい、なんでしょう?」

「それ、内容とか変わったらどうする気なんだ?」

「えー……その時は改めてここで告知します!」

「お、おう、そうか……それでいいのか?」

「はい。では皆さん、発売されたらよろしくお願いします」

「ま、まぁ、俺っちからも頼むぜ」

「はい、では一度仕切り直して……」

「おう」

「では、次のお便りです」

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ラジオ・八百万談話室~おまけ付き総集編~ 猫乃手借太 @nekonote-karita

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