第四回 海外挑戦(八咫烏)
「では次のお便りです。ラジオネーム『星恋』さん」
「ほしこい? なんだそりゃ? ずいぶん変わった名前じゃねぇか」
「夜空の星が恋しいという意味でしょうかね? かなりロマンチストですね」
「俺っちはそういうのは苦手だぜ」
「まぁまぁ、えー『いつも八百万談話室を楽しみにしています』、ありがとうございます」
「おうおう、ありがてぇこった」
「『今日は八咫烏さんにどうしても聞いて欲しいお願いがあります』って、ご指名ですよ」
「おいおい、もう嫌な予感しかしねぇぞ」
「あはは、『私の大好きなサッカー選手の海外移籍が決まってしまいました』」
「なぁ……」
「はい?」
「どうして俺っちのレギュラー曜日には必ずサッカーネタが放り込まれてんだ?」
「それは日本サッカー協会のシンボルマークが八咫烏さんだからじゃないですか?」
「俺っちはそれ、承認してねぇんだぜ?」
「では変えてもらえるように言ってみます? 神様が言うと圧力になりますが……」
「いや、それほど嫌ってわけでもねぇんだけどよ……」
「じゃあ良いじゃないですか。頼られているわけですから」
「そうなのか?」
「そうですよ」
「あー……だったらいいけどよ」
「やった! やりましたよ! サッカーファンの皆さん、了承の言質を取りましたよ!」
「おいおい、言質って……」
「ではお便りの続きです。『大好きな選手が世界の大舞台で活躍するのは嬉しいのです。ですが贔屓にしていたチームから離れてしまう寂しさと、海外で大成できるかどうかの不安でいっぱいです。どうか八咫烏さんの力で私の大好きな選手が大成できるようにサポートしてもらえないでしょうか。お願いします』だ、そうです」
「そんなもん、即答で拒否だぜ」
「一瞬ですね」
「当たり前だ。そいつは自分で全く違う環境や高いレベルの世界に行くって決めたんだろ」
「さすがに他人が行けって言ったから行きますって人はいないと思います」
「だったらテメェのケツはテメェで拭かせりゃいいんだよ」
「自分で決めた以上は自己責任なところもありますからね」
「俺っちが手を出すなんて野暮なマネはできねぇ、以上だ!」
「おー、お便りが一蹴されてしまいました」
「学生の留学じゃねぇんだ。プロだったら失敗も覚悟の上だ」
「誰かの言う通りだけのプロって嫌ですよね」
「おう、それに心配しなくても良いぜ」
「……はい?」
「あいつはなかなかやる。早々にへこたれて逃げ帰ってくるようなタマじゃねぇ」
「あれ? 誰だかわかるんですか?」
「まぁ、俺っちはスポーツ観戦が趣味みたいなもんだからな」
「移籍関連のニュースもしっかり押さえている、ということですね」
「当たり前よ。試合も生で観戦する。もちろんサッカーだけじゃねぇぜ」
「なるほど。本当にスポーツ観戦がお好きなんですね」
「試合を最初から最後まで見た上で全体の流れから駆け引きや戦術の分析もする」
「く、玄人ですね」
「これくらい常識だぜ。それと俺っちからも言いたいことがある」
「あ、はい。なんでしょうか?」
「ハイライトだけを見てギャーギャー言うなぁっ!」
「うぉ……」
「試合全体の流れ、チーム戦術、駆け引き、連携……見ていない奴は黙ってろってんだ!」
「え、えっと……」
「ハイライトと試合結果だけが全てのにわかファンやアンチファン共が偉そうに喚くな!」
「ストップ! ちょっと! 落ち着いてください!」
「……っと、すまねぇ。熱くなっちまった」
「ホッ……いきなりスイッチが入っちゃってびっくりしました」
「努力している奴へ、ろくに頑張ってもいない奴が好き勝手言うのが許せねぇんだ」
「お気持ちはわかりますけど、ラジオですから。落ち着いてくださいね」
「おうよ、気をつけるぜ」
「えー、仕切り直しです。リスナーの皆さんも切り替えて行きましょう」
「みんなすまねぇな」
「それで『星恋』さんのお便りですけど」
「星恋ってあれか。スター選手が恋しいとかって意味か」
「おそらくそうだと思います」
「……で? そのお便りがなんだって?」
「あ、ここに書いてある海外移籍なんですけど」
「おう」
「スポーツに限らず留学の話は多いんですけど、必要性がどうなのかって話です」
「必要性? そりゃ、海外の方がレベルが高いなら行った方が良いに決まってんだろ」
「スポーツに限らず、ですよ」
「わかってるっての。実際、大学のランキングは海外が上だろ?」
「そうなんですけど、日本は春入学で欧米中心の社会では秋入学が基本なんですよ」
「確かに日本サッカーは春秋制で欧州サッカーは秋春制だからな。移籍などで問題がある」
「ちょっとスポーツから離れてくださいよ」
「スポーツも大学も変わんねぇだろ? 結局時期がずれているのが問題なわけだ」
「ま、まぁ、そうですけど……」
「夏にオフの欧州にリーグ戦真っ最中の選手が行くと初年度のシーズン期間が伸びる」
「一年半になりますね」
「逆にオフの冬に行くとシーズン真っ最中でよほどの即戦力でなければ起用されにくい」
「しかもまたしても一年半ですね」
「そう! 疲労がたまって怪我をしやすくなるってわけだ! これは大問題なんだよ!」
「言葉や文化や食生活などの違いもあって適応していかなければならないですからね」
「水が違うと腹を壊しやすい。慣れるまではかなり厳しいはずだ」
「それでも高いレベルでやりたいと思うのが海外挑戦する人ですよね?」
「そうだ。だからちゃんと活躍を最初から最後まで見て応援しろよ」
「いやいや……応援してますから。ただ毎試合フルで見る時間が……」
「なんだとっ! 見てねぇってのか?」
「海外は時差もありますし試合数も多いので見れませんよ」
「ちっ! にわかか」
「いやいやいやいや……私はそもそもスポーツ選手を批判したことありませんからね」
「じゃあ最低国内の試合だけはフルで見てんだろうな?」
「えっと、それはサッカーだけですか?」
「何言ってんだ? 全競技に決まってんだろ」
「ちょっとちょっと、それこそ無理ですよ。何種目あると思ってるんですか?」
「スポーツに向けている情熱が足んねぇんじゃねぇか?」
「サッカーだけでも全部見るなんて無理ですよ。仕事もしなきゃならないんですよ?」
「俺っちはな、マイナーだとかメジャーだとかっていう線引きが嫌いなんだよ」
「はい?」
「人気の有る無しにかかわらず、第一線で活躍する奴らの勇姿をこの目に焼き付けたい!」
「は、はぁ……」
「そこには人生がある! 哲学がある! 情熱がある! 信念がある!」
「あー……これ、まずいパターンだ……」
「その生き様に感動しない奴はスポーツを語る資格などねぇ! にわかは出直してこい!」
「八咫烏さん、ひとまず落ち着いて……」
「海外挑戦という決断の裏にある挑戦したい思いや向上心! 考えるだけでたまらねぇ!」
「えっと、あの、本当に落ち着いて欲しいんですが……」
「選手の燃えたぎる心の炎を感じるだけで俺っちまで熱くなってきやがる! 最高だぜ!」
「あの、もうそろそろ次のお便りに……」
「オフの過ごし方やトレーニングの一つからも伝わる競技に対する思いが伝わってくる!」
「情熱スイッチが完全に入っちゃいましたね」
「長く活躍できる奴と一瞬で消える奴との差はそういった裏側からもわかるのが深い!」
「えー、終わりが見えませんので、私の独断で終わりと言うことにさせていただきます」
「大きな怪我をするかどうかも裏側の様子や試合後の行動からも読み取ることが出来る!」
「ラジオネーム『星恋』さんからでした。ありがとうございました」
「トップのメンバーを集めてもそういった差から選手の格はピンキリになっちまう!」
「では、えー……あ、クールダウンするまでコマーシャルですか? わかりました、はい」
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