第三回 皆勤賞(座敷童)

「いやー、スベらないですね!」

「……え?」

「あ、ごめんなさい。コマーシャル明けに言ってみたくて」

「あーもう、いきなり何かと思ったよ!」

「レギュラー組の中だと座敷童ちゃんが一番気楽でしたからつい……」

「いつの間にか『さん』付けから『ちゃん』付けに変わってるしね」

「あはは、他の方々だとなかなかこういう呼び方はできませんから」

「それはそれで複雑な気分だけど?」

「すみません。座敷童ちゃんはやっぱり見た目が子供だから親しみやすくて」

「……良い意味で解釈しておくよ」

「ありがとうございます。では、早々にお便りにいきましょう」

「はーい」

「……うん、可愛い」

「ほらほら、さっさとお便りを読んで」

「わかりました。えー、ラジオネーム『気ママジメ』さん」

「ん? 気ままと真面目の合体?」

「頭の気以外がカタカナなので気ままとマジメと間のママで主婦の方かもしれませんね」

「ラジオネームってそんなにひねらないといけないの?」

「送る方からすればこういう遊びをしたくなるんじゃないですか?」

「ふーん……それで、内容は?」

「えー『初めてお便りを出させていただきました』ですか。初投稿ありがとうございます。『先月、私の小学五年生の息子が風邪で熱を出してしまい初めて学校を休むことになりました。一年生の時から毎年取っていた皆勤賞が今年は取れなくなってしまったので息子はとても残念そうでした』」

「あー、わかる! 記録が途切れたむなしさ、よくわかる!」

「『それでも息子はめげずに来年の六年生はまた皆勤賞を取ると言っています』」

「うんうん、とっても良い子だよ」

「『そしてこの話をママ友にしました。するとママ友の一人が「皆勤賞なんておかしいし、それを子供に取らせるのは虐待だ」と言われました』」

「え? 虐待?」

「『そのママ友は「少し体調が悪くても学校に行かせる親が悪い。そういった教育を受けた子供は社会人になると休みを取らない大人になる。日本は有給の取得率が世界最低で残業も多いのは皆勤賞という教育が問題だ」と言っていました』」

「あー、なるほどねぇ」

「『私は息子が望んで皆勤賞を目指しているので虐待だとは思っていません。ですがこれが虐待だと急に言われて言い返すことも出来ませんでした。私は虐待をしているのでしょうか? 八百万の神様はどう思われますか?』だ、そうです」

「皆勤賞が虐待ねぇ」

「さすがに虐待ということはないでしょうけど……」

「高熱なのに無理に学校に行かせた場合は問題ありだとは思うけどね」

「そうですよね。読む限りは熱が出たから休ませたって書いていますので大丈夫かと」

「まぁでも、そのママ友も皆勤賞がどういう表彰かわかってないんじゃないのかな」

「どういうことですか? 休まなかったことに対する表彰では?」

「違うよ」

「じゃあどういうことに対する表彰なんですか?」

「休まなかったことへの表彰じゃなくて、休む原因を作らなかったことへの表彰なんだよ」

「休む原因ってなんですか?」

「体調管理や予定の調整とかがしっかりできていたかどうかってことだよ」

「それで結果的に皆勤賞になる、ということですか」

「そう。だから急な不幸が起こった時は忌引きなの。急な不幸は防ぎようがないからね」

「インフルエンザも診断書があれば公欠になりますね。毎年型が違ったりしますから」

「一回広がっちゃうとなかなか防ぐのが難しいからね、あれは」

「致し方ない場合を除いて、と考えると皆勤賞はそこまで悪く感じませんね」

「そういうこと。社会人だと有給もあるから」

「休みたい日があれば事前に、ということですね」

「そうそう」

「うーん……」

「あれ? どうかしたの?」

「いや、座敷童ちゃんが社会人とか有給とか言っても違和感しかないな、と思いまして」

「悪かったね! 見た目子供で」

「あはは、怒っても可愛いですよ」

「……あんたには絶対に幸運なんて呼んであげないから」

「え?」

「……なに?」

「本気で言ってますか?」

「まぁそれなりに」

「えー、座敷童様、大変失礼いたしました」

「……いつも思うけど切り替え早いよね」

「八百万の神々の皆様方のお相手ですから、万人のためにも必須の能力だと思います」

「人間も大変だね。今回は自分事だけど」

「あはは、そうですね」

「……ってか、さ」

「はい、なんでしょう?」

「レギュラー組で皆勤賞なのが唯一私だけって知ってる?」

「え? そうでしたっけ?」

「そうだよ。私は予定が組まれてから休んだこと、一度もないからね」

「九尾さんを始め、皆さん自由奔放なのでそんなイメージがまるでありませんでした」

「聞いてるリスナーのみんなも憶えておいてよ。私だけだからね。皆勤賞なのは」

「座敷童ちゃんの番組への貢献、ありがとうございます」

「そうそう、もっと褒めて良いからね」

「九尾さんとか勝手に代理を決めて呼びつけておいて当人は来ませんからね」

「レギュラー組なのにね」

「えー、皆さんも座敷童ちゃんの真面目な姿勢を評価してあげてください」

「お賽銭でね」

「目に見える数字での評価をご希望ですか?」

「そうそう……ってか、九尾の話をしたら思い出したんだけど」

「何をですか?」

「私も一回、代理で呼ばれたよね。週一レギュラーなのにその週は二回やったよね」

「言われてみればそんなこともありましたね」

「あったでしょ? 九尾ってレギュラーなのに適当だから困るよ」

「代弁で授業に出ているみたいですね」

「それっ! 本当にそんな感じ! 休日出勤しつつ平日も皆勤賞みたいなもの!」

「あれ? 学生の例えを出したのに社会人の例えで返ってきた……」

「そんなのはどうでもいいから、ちょっと九尾を注意しないと」

「そうですね。あー、でも九尾さんはまだマシかもしれませんよ」

「どうして?」

「代理を用意してくれますから」

「ん? どういうこと?」

「大天狗様は代理を用意してくれません」

「あれ、大天狗はそのあたりしっかりしてそうなんだけど」

「連絡はありますし腰は低いんですよ。でも『そっちでなんとかしてくれ』なんです」

「あー、それは困るね」

「そうなんですよ。前日にいきなり言われてにっちもさっちもいかないときがありまして」

「大変だねぇ」

「しかたなく冷凍庫で寝ていた雪女さんを無理矢理たたき起こして連れてきました」

「あっ! あったね。しかも夏真っ盛りで連日猛暑日の日。私放送聞いてたよ」

「グダグダの雪女さんを相手になんとか乗り切りました」

「雪女、最後の方はもうほとんどしゃべってなかったけどね」

「冷房最低温度設定、氷枕や氷水の入ったタライとかも用意したんですよ」

「それでも冬にはほど遠かったんだろうね」

「はい。人力の限界を感じました」

「うーん、一緒に何かをする人はやっぱり相手がいないと困るよね」

「代役ができる人がいればいいですけど、いないなら急な休みは本当に困ります」

「皆勤賞が賞とされる理由の一つだね」

「はい。座敷童ちゃんの皆勤賞は助かっています」

「うんうん、褒めてもらえるとやっぱり嬉しいよね」

「何度でも褒めます。ですからこれからもできる限り皆勤賞でお願いします」

「まぁ、レギュラーって言っても週一だし、頑張るよ」

「はい、みなさんも皆勤賞は無理せず、けれどなるべくそうなれるように頑張りましょう」

「皆勤賞を取れる日常生活が評価されてるんだからね」

「ラジオネーム『気ママジメ』さん、ありがとうございました」

「ありがとー、またねー」

「では次のお便りにいきましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る