第五回 ペット事情(猫又)

「はい、今日も始まりました八百万談話室。猫又さん、張り切っていきましょう」

「おう、だがその前に一ついいかい?」

「え? あ、はい。どうぞ」

「おう、じゃあ言わせてもらうぜ。おいっ! 聞いてるか、ワンコロ共!」

「え、えぇ?」

「今年も俺たち猫がペット業界の覇権を取っちまったぜ!」

「ね、猫又さん?」

「俺たち猫がペット業界を席巻しちまったぜ! 人気が出すぎてすまなかったな!」

「ちょっと、そういうのは他で……」

「お前らワンコロ共には肩身の狭い思いをさせちまってるな、心から悪いと思ってるぜ!」

「犬を煽らないでください!」

「いやー、笑いが止まらんぜ。ワンコロ共の悔しがってる顔が目に浮かぶ」

「もう、開始早々争いの火種を……」

「週末に神も妖怪も集まっての忘年会があんだよ。今から酒が楽しみだぜ」

「忘年会は特に関係ありませんよね?」

「あるぜ。これでワンコロ共はコソコソ隅っこで大人しくすることになるだろうからな」

「遺恨を残しそうで不安しかありません」

「ワンコロ共はずっとでかい顔をしていやがったからな。いやぁ、すっきりしたぜ」

「確かに清々しい顔をしていますけど、もうこういうのはやめてくださいよ」

「わかってるって。それじゃあ今日のお便りにでも何でも行ってくれ」

「なんだかすごい出鼻をくじかれた気がしますが……ではお便りに行きましょう」

「おう」

「えー、ラジオネーム『うさぎ』さん」

「うさぎ? 猫じゃねぇのか?」

「この番組のリスナーさん達はラジオネームに意味を持たせるのが好きみたいですよ」

「ほう、じゃあ聞かせてもらうぜ」

「『猫又さんの豪快な性格が好きでいつも楽しく拝聴させていただいています』」

「ほほぅ、俺を選ぶってのは良いセンスだな」

「『私は去年から社会人になって一人暮らしを始めました。最初はなんてことないと思っていたのですが、時間が経つにつれて一人でいることが寂しくなってしまい、ペットを飼おうと思います。ですが何を飼おうか悩んでいるところです。仕事をしながら飼えるペットは何でしょうか?』と、お便りが来ています」

「一人暮らしで寂しいから『うさぎ』ってか?」

「うさぎは寂しいと死ぬって流行りましたもんね」

「デタラメなのにな」

「ですね。私も調べてみて驚きました」

「ラジオネームの意味、間違ってんぞ」

「あ、いや、間違ったからって何もありませんから」

「まぁ、いいけどよ」

「それで、ですね。どのペットを飼うのがおすすめか、という話しです。」

「そんなもん、答えはもう決まってんじゃねぇか!」

「わかっていますが、一応聞いておきます。どのペットを飼ったら良いのでしょうか?」

「猫だ!」

「やっぱりっ!」

「飼うとしたら猫しかねぇよ。ワンコロ共なんざ論外だ」

「えー……たぶんこの『うさぎ』さん、猫を飼えって言って欲しかったんでしょうね」

「フッ、またしてもワンコロ共との差を広げてしまったぜ」

「犬に対する敵対心が……」

「猫はワンコロ共に比べてトイレの躾も覚えが早いし、侵入した虫も退治してくれるぜ」

「虫を退治するという話はよく聞きますね」

「あとワンコロ共に比べて散歩の必要性もないし、風呂の回数も少なくて済む」

「比較、やめませんか?」

「ワンコロ共と比べて手間もかからねぇし、何より圧倒的に猫の方が癒やされるぜ!」

「いい加減にしてください! イエローカード出しますよ!」

「鳥助じゃねぇんだからよ。そんなもんにビビったりしねぇっての」

「警告がダメなら、猫又さん、今日が最後の回になるかもしれませんよ?」

「おっと、そいつはまずいな。全国の猫の代弁者としてここは大局を見て黙るぜ」

「放送で流れているんですから言動には注意してくださいよ」

「悪いな。気をつけるぜ」

「……はぁ、では『うさぎ』さんのお便りのペットの話に戻しましょう」

「おう、ペットのことだが、一つ言いたいんだがいいか?」

「争いの種にならないですか?」

「ならねぇよ。これは猫かワンコロ共か、じゃねぇ。うさぎでも魚でも鳥助でも一緒だ」

「えー、では聞きましょう。犬好きの皆さんも落ち着いて聞いてくださいね」

「猫の勝ちは決まったからな。不毛な争いは無しだ」

「……それで、何が一緒なんですか?」

「命に最後まで責任を持て、ってことよ」

「ああ、それは大切ですね」

「飼い主の都合で保健所送りなんて笑えねぇからな」

「確かにペットの殺処分数は下降傾向にあるとはいえ、まだまだ多いですからね」

「一番悪い奴らは飼い主じゃねぇ。繁殖させて市場に売り出す奴らだ」

「無理矢理繁殖させて生まれたらすぐ取り上げてペットショップに陳列とかも聞きますね」

「そうよ。さらに繁殖させるのも無理矢理、飼育環境も最悪なことが多いんだよ」

「小さいゲージで繁殖だけさせて病気になったら保健所って話は殺意がわきましたね」

「猫に限らずワンコロ共もそうだ。人気があるってことを馬鹿正直に喜べねぇ」

「分母が大きければ大きいほど殺されている数も多いでしょうからね」

「悪徳ブリーダーって言うのか? あいつらだけは犬と協力してぶち殺してやりたいぜ」

「お気持ち、お察しします」

「俺の気持ちなんざどうでも良いんだよ。今商品棚にいるあいつらの気持ちを知ってくれ」

「最後まで愛情を持って飼う覚悟がない人は最初からペットは飼わないでほしいですね」

「まったくだぜ!」

「海外ではペットショップが登録制だとかとか、ペット税だとか国によって様々ですね」

「日本ももっとペットに関しては幻覚でも良いと思うぜ」

「ペット関連のニュースを聞くと私もそう思いますね」

「動物が物扱いの法律も俺は気に入らねぇ」

「ペットを傷つけても法的には器物損壊などですからね」

「ペットは物じゃねぇ! 命だ! 今飼ってる奴、これから飼う奴、心して向き合え!」

「その意見には激しく賛成します」

「そう言ってもらえて嬉しいぜ」

「この意見なら同意するのが普通だと思いますよ」

「そうか。なら今後は良い方向へ行ってくれると良いな」

「そうですね」

「俺も捨てられた経験がある猫だったからな。もうあんな思いはたくさんだぜ」

「……え? 猫又さんって飼い猫だったんですか?」

「そうだぜ」

「それは知りませんでした」

「いつも外出していてな、いろんな家を渡り歩いては飯にありついていたんだよ」

「いろんな家ですか?」

「隣近所とか、橋を渡った先とかな」

「猫は違う数カ所で飼い主を持つって言いますもんね」

「俺らはそんなに風来坊じゃねぇぜ。ちゃんと夜には帰ってくるだろ?」

「そうですけど、でも他の家でエサをもらうのってどうかと思いますよ」

「くれるって言ってんだからもらってもいいだろ。それが他にも数件あっただけだ」

「飼い猫だったのに、ですか?」

「江戸時代から室内飼いや繋ぎ飼いが禁止になったんでな。散歩がてらちょっと」

「ああ、生類憐れみの令ですね。飼われる側からするとすごい法律だったんですね」

「まぁな。でもよ、長く飼うと妖怪化するっている怪談話が流行っちまってな」

「それで猫を飼う家が激減したんですか?」

「ワンコロ共の一強状態が続いた理由の一つだと俺は思うぜ」

「犬は忠誠心が高く猫はマイペースってイメージがありますからね」

「おかげで俺らは山とかに捨てられてよ。あのときから復権を狙っていたわけだ」

「犬への敵対心の歴史が思ったより長いですね」

「俺は思うんだよ。あの噂、ワンコロ共が流したに違いないって、な」

「いや、さすがにそれは……」

「証拠はねぇよ。でもな、ワンコロ共の一強を崩すのが猫って考えると納得だろ?」

「いやいやいやいや……それは飛躍しすぎですよ」

「でもまぁ、こうしてワンコロ共に勝ったわけだ。明日の忘年会の酒は美味いだろうな」

「全ての話題が犬への敵対心に繋がってしまいますね」

「そうか?」

「無自覚ですか。ではこの話題はこのあたりで、次に行きましょう」

「おう、もう言いたいことは言ったからいいぜ」

「ラジオネーム『うさぎ』さん、ありがとうございました。では次のお便りです」

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